姪の就職2

 三人は疲れも知らないように飲み、話し続ける。話の中心は真三がマイコンを導入したころの苦労話だが、時々、脱線しながら話題はあちこちに飛ぶ。

「最近、スポーツ界やテレビのバラエティを見ていて日本人のアイデンティティ(帰属意識)が変わってきたというか、どうなのかと思うことがある。例えばテニスの大坂なおみ選手がグランドスラムで“日本人で初めて優勝”と報じられた。「すごい」と思う反面、『でも純粋の日本人じゃない』と喜びが半減するところ、彼女の可愛らしい顔とたどたどしい日本語が不安を掻き消してくれる。彼女は米国と日本の二重国籍だし、母親は日本人、父親はハイチ系アメリカ人のハーフで、大阪生まれのアメリカ育ち、話す言葉は英語。こうしたハーフの活躍はとくにスポーツ界で目立つしすばらしいと思うが、十年ほど前にはそう多くは見られなかった」

「そうだわね」

「グローバル時代に何を言うかと思われるかもしれない。アメリカは“合衆”国で人種のルツボと言われる。ヨーロッパだって人種の混合国であり、もっと言えば人類の祖先はゲノム解析ではアフリカと言われているので、ハーフに驚くことはないはずだ。トランプ、プーチン、習近平それぞれの顔相から米国人、ロシア人、中国人だとイメージできる。これから日本の人口減が急速に高まり、つれて日本への移住人口は増え、ますます日本人の純粋性が薄れるだろう。大都会や観光地で見られるインバウンドの状況が将来の日本の姿に思えてくる。

  ところが一方で民族紛争が起こっている。中東、アフリカをはじめミャンマー、中国、南アメリカなど世界各地で見られ、ヘイトスピーチなどにも表れる。同じ祖先であるのに、土地、血縁、言語、宗教等の違いから憎しみ合う。米国は黒人差別する時代が続いたので、黒人のオバマが大統領に就いたことに世界は驚いた。ナチスはユダヤ人を排斥することで団結を図った。ハーフが増えれば紛争がなくなり平和になるのだろうか」

「そう容易な話ではないと思う。移民、難民も増え、それに宗教や民族が絡んでくると、世界は益々、複雑化しているしね」

「真三さんの姪ごさんが行っているインドではフェイクニュース(偽ニュース)で少数派のイスラム教徒が襲撃され、殺人事件も起きているそうですよ」

「確かに、パソコン、インターネット、SNSなど便利な反面、有害な面も看過できないですね」

「そう、スマホはとくにそう思いますね」

 真三はSNSについて最近読んだ雑誌のコラムを紹介した。

―インターネットによって人とひとをつなぐスマホ・パソコン用のサービス(Social Networking Service =ソーシャル・ネットワーキング・サービス)の総称がSNSだ。これは大変、便利でも犯罪の温床にもなっている。この技術革新を止めることはできないだろう。一昔前と比較しても、その便利さに驚く。アプリを使えば便利さ、楽しさが増す一方、怖さが何十倍となるものの手放せない。フェイクニュースの拡散も恐ろしい。

 いまの若者を中心にSNSは全世界に広がりつつある。そのコミュニケーション能力は昔人間からすると、脅威でもある。略字や記号が新たな表現として取り入れられている。たとえば親しい仲間の間では理解することを「り」で済ましていると聞いて今後こうした暗号めいた日本語が流行り出したらどうなるのかと不安になる。世界一難しいと言われる漢字は、一瞬にしてその意味を伝える画像的機能を備えており、日本人の思考能力を高めているといわれる。

 しかしSNSでの表現は人間を確実に退化に向かわせていると思わざるを得ない。さらにAI(人工知能)が同時並行で猛烈な勢いで広がっている。人は便利さを享受できるが、同時に怠慢な人間をつくり出す可能性を秘めている。SNSにしてもAIにも倫理や法律ルールを教え込まないで野放図にしていると、その行きつく先はとんでもことになるのではないか。

人はSNSやAIにより多くの自由な時間を得て好きなことができるとみる向きもあるが、退化した人間に創造する力や喜びが得られるとは思われないのだが…。ゆとりを持てば心のケアにも役立つことを期待したい。

「最近覚えたのだが、ママ、スマホは音声で検索キーワードを話せば、わざわざキーボードで入力しなくて済むこと知っている?」

「私はガラケーの携帯だから知らないわ」

「報告書や原稿も吹き込むと自動的に文章を作成してくれる」

「文章は正確ですか」

「まだ100%ではないが、あとでその部分だけを修正すれば十分、使えるね」

「能率が高まりますね」

「年寄りにはスマホのキーボードは小さくて扱いにくい」

「パソコンやスマホなどの進化は目を見張りますが、真三さんは早くからマイコンに取り組まれ、いまどう思っているのですか」

 真三は日ごろ思っていることを話した。

―一昔前、世の親はマンガがばかり読んでいる子どもを叱り、嘆いた。テレビ時代になって文字離れが進み、本を読まない世代が増えている。電車の中で今はスマホだが、この前まで学生はもとより、美人のOLまでマンガを読んでいる姿を見ると、ちょっと幻滅を感じないでもなかった。でも真三はマンガを評価する一人である。

 マンガはビジュアライズド(視覚化)商品である。真三はマンガでひとつの試みをしていた。真三は学校で習った歴史の授業が年代や年号の暗記が多く、苦手であった。試験前に詰め込むだけだから、内容を理解して楽しむところまでいかない。真三が浪人時代、歴史に強い友人がいたので、「なぜ、歴史に詳しいのですか」と聞くと、「なーに、マンガを読んでいるだけだよ」と笑って答えた。このことを二十数年後にも覚えていたので、全十五巻のマンガ歴史本を小学校四年になった息子に与えた。

 息子は暇を見つけては擦り切れるほどマンガ歴史本を読みふけった。そのうち『三国志』など歴史小説を文庫本で読み続け、社会人になっても歴史に興味を持った。この体験からマンガを評価している。真三は「マンガは正確でない」という固定観念があって誤解していた。だから以前は歴史をマンガで勉強するという発想が出てこなかった。息子にはとにかく月に一、二冊のペースで買い与えた。

 小学校の低学年では歴史が出てこないので、マンガといっても面白くないのではないかと思いながら観察していた。ところが真三の危惧とは逆に非常に興味を持ち、次の本を催促された。とくに戦国武将に関心を示し、高学年になるにつれマンガでは物足りなくなってくる。

 ジュニア向けの歴史の単行本を片端から読み始めた。小学生向きの歴史本が意外にも少ないことに気付いた。このため中学生用の歴史シリーズを与えたが、結構、興味をもって読破していった。そして暇さえあれば、最初に与えたマンガを繰り返し読んでいる。テレビの歴史ドラマにも関心を示し、NHKの大河ドラマ“徳川家康”、鈴木健二の“歴史への招待”もVTRに撮って何回も見る。徳川家康では疑問を挟む場面も指摘するようになる。

 子どもの吸収力は驚異的に覚えてくる。登場人物の関係を頭の中で整理して覚え込んでいる。歴史の内容も戦国時代中心から戦争の現代史へと広がってくる。息子が学校の図書館で借りた本のカードを見てみた。

 『世紀の人・チャーチル』『スターリングラードの死闘』『壮烈・山本五十六』『物語・俳句・俳人』『ナポレオン』『日本の防衛』『武田信玄と上杉謙信』『真田幸村』『織田信長』『坂本龍馬』『戦艦物語』…等。

 真三はちょっと唖然とした。偏重しすぎではないだろうか。歴史なんて立場でくるくる変わる。あまり偏った見方が定着することを恐れたが、一方でマンガを高く評価した。ただ、歴史に強くなったが、数学をはじめ理系の勉強が苦手に陥り、さらに語学、英語にもほとんど関心を示さなくなった。真三自身は中学生のころから他の兄弟に見習って数学の家庭教師の指導をうけ、数学だけは強くなったが他の教科はまったくダメだった。このあたりのことは本当に難しいと今更ながら思うのだった。

「人間には、そういうところ感じますね」

「ママでもそうか」

「私なんかどれもダメですが、美術とか書に興味をもって、そちらの方に傾いた人間になってしまいました」

「だから教育というのは難しいのでしょう」

「こうしたらバランスのいい子に育つという方程式はないのでしょう」

「予備校でもある種のノウハウは教えていますが、それが人間形成にどれだけ役立っているのか、疑問です」

「政治家なんか見ていると、立派な学歴を誇っていても倫理的にすごく貧弱な人がいるでしょう」

「そうだね。まったくお粗末な人間が政治をやるなんて、どうかしているし、選挙民もその民力が疑われる」

「ところで、マイコンについてマンガで理解しようとされなかったのですか」

 前島が聞いてきた。

「そうです。マイコンについても同じように考えました」

 真三は話しはじめた。

―マイコンのマンガ本を見つけた。『こんにちはマイコン』(小学館、すがやみつる著)がそれである。マイコンのマンガ本があっても不思議ではない。ほかに二、三冊が専門書の中に並んでいる。難しいマイコンがマンガ本でどのように表現しているのか楽しみである。

 定価は四八〇円である。マイコンの本を買った人なら気が付かれたと思うが、高価な本が多い。このマンガ本は安い。真三はすぐに目を通した。まずこの本で用いる機種をPC─6001(標準価格8万9、800円)とはっきり明記している点を評価した。マイコンで一般論はほとんど役に立たないことを痛感しているからだ。基礎的なことが頭に溶け込んでくる感じである。マイコンを十分に咀嚼しないとこれだけのことは書けないだろうと想像した。素人がマイコンをする場合、マンガから入るのも一つの有力な手段だと思う。

 真三はこのマイコンのマンガ本を息子に与えた。そうすると実に熱心に見る。寝床に入ってもマイコンのマンガ本を手にしている。その中に書いてあるプログラムをマイコンのノートをつくって写しているのである。

「この本のゲームプログラムはPC─8801で打ってもできないよ」

「うーん、残念だけど、そのプログラムはこの機種には通じないんだ。そのプログラムを使えるのはPC─6001の機種だけなんだ」

「PC─6001はいくらするの?」

「PC─8801より安いが、狭い家に2台も置けないし不経済だよ。PC─8001で打てるゲーム付の本を買って上げるから、それまで待っていなさい」

 

■岡田 清治プロフィール

1942年生まれ ジャーナリスト

(編集プロダクション・NET108代表)

著書に『高野山開創千二百年 いっぱんさん行状記』『心の遺言』『あなたは社員の全能力を引き出せますか!』『リヨンで見た虹』など多数

※この物語に対する読者の方々のコメント、体験談を左記のFAXかメールでお寄せください。

今回は「就職」「日本のゆくえ」「結婚」「夫婦」「インド」「愛知県」についてです。物語が進行する中で織り込むことを試み、一緒に考えます。

FAX‥0569―34―7971

メール‥takamitsu@akai-shinbunten.net

 

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 三人は疲れも知らないように飲み、話し続ける。話の中心は真三がマイコンを導入したころの苦労話だが、時々、脱線しながら話題はあちこちに飛ぶ。

「最近、スポーツ界やテレビのバラエティを見ていて日本人のアイデンティティ(帰属意識)が変わってきたというか、どうなのかと思うことがある。例えばテニスの大坂なおみ選手がグランドスラムで“日本人で初めて優勝”と報じられた。「すごい」と思う反面、『でも純粋の日本人じゃない』と喜びが半減するところ、彼女の可愛らしい顔とたどたどしい日本語が不安を掻き消してくれる。彼女は米国と日本の二重国籍だし、母親は日本人、父親はハイチ系アメリカ人のハーフで、大阪生まれのアメリカ育ち、話す言葉は英語。こうしたハーフの活躍はとくにスポーツ界で目立つしすばらしいと思うが、十年ほど前にはそう多くは見られなかった」

「そうだわね」

「グローバル時代に何を言うかと思われるかもしれない。アメリカは“合衆”国で人種のルツボと言われる。ヨーロッパだって人種の混合国であり、もっと言えば人類の祖先はゲノム解析ではアフリカと言われているので、ハーフに驚くことはないはずだ。トランプ、プーチン、習近平それぞれの顔相から米国人、ロシア人、中国人だとイメージできる。これから日本の人口減が急速に高まり、つれて日本への移住人口は増え、ますます日本人の純粋性が薄れるだろう。大都会や観光地で見られるインバウンドの状況が将来の日本の姿に思えてくる。

  ところが一方で民族紛争が起こっている。中東、アフリカをはじめミャンマー、中国、南アメリカなど世界各地で見られ、ヘイトスピーチなどにも表れる。同じ祖先であるのに、土地、血縁、言語、宗教等の違いから憎しみ合う。米国は黒人差別する時代が続いたので、黒人のオバマが大統領に就いたことに世界は驚いた。ナチスはユダヤ人を排斥することで団結を図った。ハーフが増えれば紛争がなくなり平和になるのだろうか」

「そう容易な話ではないと思う。移民、難民も増え、それに宗教や民族が絡んでくると、世界は益々、複雑化しているしね」

「真三さんの姪ごさんが行っているインドではフェイクニュース(偽ニュース)で少数派のイスラム教徒が襲撃され、殺人事件も起きているそうですよ」

「確かに、パソコン、インターネット、SNSなど便利な反面、有害な面も看過できないですね」

「そう、スマホはとくにそう思いますね」

 真三はSNSについて最近読んだ雑誌のコラムを紹介した。

―インターネットによって人とひとをつなぐスマホ・パソコン用のサービス(Social Networking Service =ソーシャル・ネットワーキング・サービス)の総称がSNSだ。これは大変、便利でも犯罪の温床にもなっている。この技術革新を止めることはできないだろう。一昔前と比較しても、その便利さに驚く。アプリを使えば便利さ、楽しさが増す一方、怖さが何十倍となるものの手放せない。フェイクニュースの拡散も恐ろしい。

 いまの若者を中心にSNSは全世界に広がりつつある。そのコミュニケーション能力は昔人間からすると、脅威でもある。略字や記号が新たな表現として取り入れられている。たとえば親しい仲間の間では理解することを「り」で済ましていると聞いて今後こうした暗号めいた日本語が流行り出したらどうなるのかと不安になる。世界一難しいと言われる漢字は、一瞬にしてその意味を伝える画像的機能を備えており、日本人の思考能力を高めているといわれる。

 しかしSNSでの表現は人間を確実に退化に向かわせていると思わざるを得ない。さらにAI(人工知能)が同時並行で猛烈な勢いで広がっている。人は便利さを享受できるが、同時に怠慢な人間をつくり出す可能性を秘めている。SNSにしてもAIにも倫理や法律ルールを教え込まないで野放図にしていると、その行きつく先はとんでもことになるのではないか。

人はSNSやAIにより多くの自由な時間を得て好きなことができるとみる向きもあるが、退化した人間に創造する力や喜びが得られるとは思われないのだが…。ゆとりを持てば心のケアにも役立つことを期待したい。

「最近覚えたのだが、ママ、スマホは音声で検索キーワードを話せば、わざわざキーボードで入力しなくて済むこと知っている?」

「私はガラケーの携帯だから知らないわ」

「報告書や原稿も吹き込むと自動的に文章を作成してくれる」

「文章は正確ですか」

「まだ100%ではないが、あとでその部分だけを修正すれば十分、使えるね」

「能率が高まりますね」

「年寄りにはスマホのキーボードは小さくて扱いにくい」

「パソコンやスマホなどの進化は目を見張りますが、真三さんは早くからマイコンに取り組まれ、いまどう思っているのですか」

 真三は日ごろ思っていることを話した。

―一昔前、世の親はマンガがばかり読んでいる子どもを叱り、嘆いた。テレビ時代になって文字離れが進み、本を読まない世代が増えている。電車の中で今はスマホだが、この前まで学生はもとより、美人のOLまでマンガを読んでいる姿を見ると、ちょっと幻滅を感じないでもなかった。でも真三はマンガを評価する一人である。

 マンガはビジュアライズド(視覚化)商品である。真三はマンガでひとつの試みをしていた。真三は学校で習った歴史の授業が年代や年号の暗記が多く、苦手であった。試験前に詰め込むだけだから、内容を理解して楽しむところまでいかない。真三が浪人時代、歴史に強い友人がいたので、「なぜ、歴史に詳しいのですか」と聞くと、「なーに、マンガを読んでいるだけだよ」と笑って答えた。このことを二十数年後にも覚えていたので、全十五巻のマンガ歴史本を小学校四年になった息子に与えた。

 息子は暇を見つけては擦り切れるほどマンガ歴史本を読みふけった。そのうち『三国志』など歴史小説を文庫本で読み続け、社会人になっても歴史に興味を持った。この体験からマンガを評価している。真三は「マンガは正確でない」という固定観念があって誤解していた。だから以前は歴史をマンガで勉強するという発想が出てこなかった。息子にはとにかく月に一、二冊のペースで買い与えた。

 小学校の低学年では歴史が出てこないので、マンガといっても面白くないのではないかと思いながら観察していた。ところが真三の危惧とは逆に非常に興味を持ち、次の本を催促された。とくに戦国武将に関心を示し、高学年になるにつれマンガでは物足りなくなってくる。

 ジュニア向けの歴史の単行本を片端から読み始めた。小学生向きの歴史本が意外にも少ないことに気付いた。このため中学生用の歴史シリーズを与えたが、結構、興味をもって読破していった。そして暇さえあれば、最初に与えたマンガを繰り返し読んでいる。テレビの歴史ドラマにも関心を示し、NHKの大河ドラマ“徳川家康”、鈴木健二の“歴史への招待”もVTRに撮って何回も見る。徳川家康では疑問を挟む場面も指摘するようになる。

 子どもの吸収力は驚異的に覚えてくる。登場人物の関係を頭の中で整理して覚え込んでいる。歴史の内容も戦国時代中心から戦争の現代史へと広がってくる。息子が学校の図書館で借りた本のカードを見てみた。

 『世紀の人・チャーチル』『スターリングラードの死闘』『壮烈・山本五十六』『物語・俳句・俳人』『ナポレオン』『日本の防衛』『武田信玄と上杉謙信』『真田幸村』『織田信長』『坂本龍馬』『戦艦物語』…等。

 真三はちょっと唖然とした。偏重しすぎではないだろうか。歴史なんて立場でくるくる変わる。あまり偏った見方が定着することを恐れたが、一方でマンガを高く評価した。ただ、歴史に強くなったが、数学をはじめ理系の勉強が苦手に陥り、さらに語学、英語にもほとんど関心を示さなくなった。真三自身は中学生のころから他の兄弟に見習って数学の家庭教師の指導をうけ、数学だけは強くなったが他の教科はまったくダメだった。このあたりのことは本当に難しいと今更ながら思うのだった。

「人間には、そういうところ感じますね」

「ママでもそうか」

「私なんかどれもダメですが、美術とか書に興味をもって、そちらの方に傾いた人間になってしまいました」

「だから教育というのは難しいのでしょう」

「こうしたらバランスのいい子に育つという方程式はないのでしょう」

「予備校でもある種のノウハウは教えていますが、それが人間形成にどれだけ役立っているのか、疑問です」

「政治家なんか見ていると、立派な学歴を誇っていても倫理的にすごく貧弱な人がいるでしょう」

「そうだね。まったくお粗末な人間が政治をやるなんて、どうかしているし、選挙民もその民力が疑われる」

「ところで、マイコンについてマンガで理解しようとされなかったのですか」

 前島が聞いてきた。

「そうです。マイコンについても同じように考えました」

 真三は話しはじめた。

―マイコンのマンガ本を見つけた。『こんにちはマイコン』(小学館、すがやみつる著)がそれである。マイコンのマンガ本があっても不思議ではない。ほかに二、三冊が専門書の中に並んでいる。難しいマイコンがマンガ本でどのように表現しているのか楽しみである。

 定価は四八〇円である。マイコンの本を買った人なら気が付かれたと思うが、高価な本が多い。このマンガ本は安い。真三はすぐに目を通した。まずこの本で用いる機種をPC─6001(標準価格8万9、800円)とはっきり明記している点を評価した。マイコンで一般論はほとんど役に立たないことを痛感しているからだ。基礎的なことが頭に溶け込んでくる感じである。マイコンを十分に咀嚼しないとこれだけのことは書けないだろうと想像した。素人がマイコンをする場合、マンガから入るのも一つの有力な手段だと思う。

 真三はこのマイコンのマンガ本を息子に与えた。そうすると実に熱心に見る。寝床に入ってもマイコンのマンガ本を手にしている。その中に書いてあるプログラムをマイコンのノートをつくって写しているのである。

「この本のゲームプログラムはPC─8801で打ってもできないよ」

「うーん、残念だけど、そのプログラムはこの機種には通じないんだ。そのプログラムを使えるのはPC─6001の機種だけなんだ」

「PC─6001はいくらするの?」

「PC─8801より安いが、狭い家に2台も置けないし不経済だよ。PC─8001で打てるゲーム付の本を買って上げるから、それまで待っていなさい」