姪の就職2
―真三は店の売り上げ、コスト、料理、そのレシピ、食材等の情報及び社内図書、資料等あらゆる情報を整理、検索できたら仕事の能率が上がるだろうと推測した。
その頃、大阪港区の見本市会場で開かれたエレクトロニクスショウを見に出かけた。VTRの次の大型商品としてVD(ビデオ・ディスク)が登場していた。VTRでは日本が先行したが、VDは欧米メーカーが進んでいる。VTRではVHSとβの二方式が熾烈な競争を展開した。VDになると三方式あって規格統一が難しいということである。
音楽レコードより少し小さい円盤に情報が詰まっているという。レーザー光線で読みとる方式もある。このディスクをレコードのように扱ってテレビの画面に週刊誌がいちまい一枚映し出される。
「このように書籍なども、このディスクに収めることができます。音楽なら片面一時間、両面二時間、映像とともに納めて目でも楽しめるのです」
係員が熱心に説明する。
「今ではCDや電子書籍などさらに進化した形で市場に出回っています」
前島が口を挟んだ。
―このVDで書籍が収納可能だと真三が知った時、自分が求めていた情報機器はこれだと心の中で小躍りして感激したことを半世紀経った今も鮮明に覚えている。数百冊の週刊誌が一枚のディスクに収まるから驚きである。これで狭い団地で蔵書に悩まされずに済む。しかも検索もリモコン操作で簡単にできるという。
「VDもVTRのようにカメラで撮影、保存できますか」
真三は説明員が当然「イエス」の答えをするものと期待した。
「残念ですが、個人では無理です。既成のソフトを買って見ていただくだけです。VTRと違いまして画像が鮮明ですし、情報量が多いのが特徴です」
説明員は真三のきょとんとした顔を覗き込むように話す。
「そうすると、与えられた情報しか再生できないのですか。それではテレビの録画撮りもできないということですか」
真三は愕然としながらも、再確認するように聞き返した。
「そうです。VDの録画機は非常に高価なものですから専門のところでしかできません。将来はわかりませんが…」
説明員は丁寧に付け加えた。その頃、メーカーはVDに力を入れていたが、それらは再生機能のみの機器であった。まだ、ソフトの数が少ないので増えてくれば期待できるかもしれない。
真三は知り合いのメーカーの広報員と話した。
―情報は自分で値打ちがあると思うからこそ保存しておくのであって、与えられた情報では無価値同然だろう。レコード盤のように選択の範囲が広がれば別であろうが…。真三が視察で台湾に行った時、台湾のVTRはほとんど録画機能がついていないことを知った。その台湾では日本以上にVTRが普及しているのだ。
どうしてだろうかと聞いてみると、「台湾のテレビは娯楽番組が少なく、その上面白くないので、日本のテレビ番組の海賊版を見るのが流行っている。日本の映画上映は禁止しているようだが、当局もVTRに関しては見逃しているという。このためVTRテープの貸し屋が新商売として出現している。日本のように店を構えるだけでなく、各家庭に注文を取りに回る。日本で人気のドラマをコピーして中国語に吹きかえて貸し出す。
こうしたことから台湾では再生専用のVTRが普及していた。録画機能付きの機種よりも割安価格である。日本では再生機能だけならダメだろう。VDでもそうだろうと思っていたが、最近VTRと同じように録画機能付きの機種も開発されていると当時、聞いた。
「それがブルーレイの形で実現したのでしょうね」
前島は焼酎のカップを口に運びながら自分で納得していた。
「まだ高価なものだった。メーカーの話では録画できても消去できないので、例えば役所の戸籍記録など書類の永久保存などに適していると言われていた」
「いまはそういうことに使っていますね」
「国会でも重要書類の保管がいまだに問題になっているのはどうしてですかね」
「やはり技術的な問題より政治的意図が感じられますね」
「そういうことなら書類の保管、管理について法律でしっかり運営してもらいたいですね。そうでないと時間、経費の無駄で国民に迷惑をかけることになりますね」
―その当時、真三はVTRを持っていた。カメラも使っていた。VTRの普及率がまだ一〇%を超え始めたところだったから、早い方だった。電気製品は普及率が一〇%を超えると加速度的に増えると言われていたので、今後急速に普及していくと思われた。
VTRはテレビ番組を録画し、保存できる点では素晴らしいが、ただ当時の録画時間が最大二時間で、テープも高価であったために、これにはまると結構、経費がかさんだ。
真三の場合、海外紹介の番組を国別に録画しておいて、その国に行く時に見たり調べたりするのに利用した。そのほかテーマ別に録画して分類していた。
「真三さん、そういう録画したものをどの程度利用しましたか?」
「恥ずかしい話ですが、実際に利用したことはほとんどありませんでした。ところがテープは溜まる一方でした」
「やはり、そうですか」
「情報はその時に集めるのが肝要ですね」
―もう一つの利用法は息子がどうしても見たい番組がある場合、VTRはもってこいである。勉強してからテレビを見ることができる。タイマーで録画セットしておけば帰宅してから見ることもできる。
ただスポーツ番組を留守中に録画して帰って見ようと思っていたのに、夕刊紙に結果が出ていたり、他人の会話が聞こえたり、またテレビのスイッチを入れた瞬間、ニュースで結果が分かった時にはがっかりすることもある。
VTRの効用はあるが、問題はテープが溜まってくることである。 これも書籍と同じでこまめに記録しておかないと探し出すのがやっかいである。真三はVTRカメラで接写してアルバム写真をテープに収めることに気付いた。部屋で作業するため光量不足になるので300Wのライトを当てる。ライトは高熱を発するため、カラー写真が曲がってくる。だから一枚の接写時間は一〇秒以内でないと、写真の周囲に影ができて暗くなってしまう。これをガラス板で押さえて撮影すると、今度は反射光を受けて白く光って見にくい写真になる。
「いまだったらスキャナーで簡単にできますね」
「そうです。スキャナーも安く購入できるし、写真だけでなく資料や原稿をUSBに取り込め、いつでも簡単に引き出せます」
「やはり真三さんが求めるものは世の中に大勢いるのでしょう。だからメーカーは量産化できるとなると、市場に出します」
前島はコメントした。それを聞いていたママは口を挟んだ。
「世の中に花粉症の人が多いのに、いまだに予防薬ができないのはどうしてなの?」
「ママも相当、苦しめられているね」
「苦しいどころではないのよ。沖縄にでも移住したいと思うことがあるのです」
「俺も花粉症だからその気持ちよくわかるよ」
前島はママを慰めるように同意した。
「花粉症の予防薬や治療薬がいまだに開発できていないのだよ。これをつくったらノーベル賞ものだよ」
「市場が大きいのだから製薬会社も全力で取り組んでほしいわ」
「がんも同じだよ。決定的な治療薬がないのが実情です」
「このあたりは電化製品と違う」
三人は益々、饒舌になって話す。
―ところでVTRでの写真撮影だが、写真と写真の間にはレンズカバーをつけたまま撮るか、カメラに光量調整機構がついていれば、それを使って光量不足にして画面を黒くすることによってうまくつながる、もちろん編集用の専用機器もあるが、一台一〇〇万円以上もするので、アルバムをつくる程度にはもったいない。
当時、VTRコンテストもあったようだが、大型電気店あるいはメーカーに持参すれば、編集をやってくれると聞いた。VTRでアルバムをつくる場合、写真の一部をズームアップしたり、不必要な部分を削ったりすることが当然、可能である。またカラー、白黒とも光の当て方、角度によって写真の色が変化してアルバムでは味わえない写真集ができるのも楽しい。また、VTRアルバムにバックミュージックを流したりナレーションを挿入したりと、結構面白いものができる。こうして溜まる一方だったアルバムもVTRに収めることによって従来のアルバムが無用になる。
真三は息子の幼いころからの絵や習字を写真にとって、それをVTRの接写で記録している(もっとも息子は大人になって見向きもしないが)。
■岡田 清治プロフィール
1942年生まれ ジャーナリスト
(編集プロダクション・NET108代表)
著書に『高野山開創千二百年 いっぱんさん行状記』『心の遺言』『あなたは社員の全能力を引き出せますか!』『リヨンで見た虹』など多数
※この物語に対する読者の方々のコメント、体験談を左記のFAXかメールでお寄せください。
今回は「就職」「日本のゆくえ」「結婚」「夫婦」「インド」「愛知県」についてです。物語が進行する中で織り込むことを試み、一緒に考えます。
FAX‥0569―34―7971
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姪の就職2
―真三は店の売り上げ、コスト、料理、そのレシピ、食材等の情報及び社内図書、資料等あらゆる情報を整理、検索できたら仕事の能率が上がるだろうと推測した。
その頃、大阪港区の見本市会場で開かれたエレクトロニクスショウを見に出かけた。VTRの次の大型商品としてVD(ビデオ・ディスク)が登場していた。VTRでは日本が先行したが、VDは欧米メーカーが進んでいる。VTRではVHSとβの二方式が熾烈な競争を展開した。VDになると三方式あって規格統一が難しいということである。
音楽レコードより少し小さい円盤に情報が詰まっているという。レーザー光線で読みとる方式もある。このディスクをレコードのように扱ってテレビの画面に週刊誌がいちまい一枚映し出される。
「このように書籍なども、このディスクに収めることができます。音楽なら片面一時間、両面二時間、映像とともに納めて目でも楽しめるのです」
係員が熱心に説明する。
「今ではCDや電子書籍などさらに進化した形で市場に出回っています」
前島が口を挟んだ。
―このVDで書籍が収納可能だと真三が知った時、自分が求めていた情報機器はこれだと心の中で小躍りして感激したことを半世紀経った今も鮮明に覚えている。数百冊の週刊誌が一枚のディスクに収まるから驚きである。これで狭い団地で蔵書に悩まされずに済む。しかも検索もリモコン操作で簡単にできるという。
「VDもVTRのようにカメラで撮影、保存できますか」
真三は説明員が当然「イエス」の答えをするものと期待した。
「残念ですが、個人では無理です。既成のソフトを買って見ていただくだけです。VTRと違いまして画像が鮮明ですし、情報量が多いのが特徴です」
説明員は真三のきょとんとした顔を覗き込むように話す。
「そうすると、与えられた情報しか再生できないのですか。それではテレビの録画撮りもできないということですか」
真三は愕然としながらも、再確認するように聞き返した。
「そうです。VDの録画機は非常に高価なものですから専門のところでしかできません。将来はわかりませんが…」
説明員は丁寧に付け加えた。その頃、メーカーはVDに力を入れていたが、それらは再生機能のみの機器であった。まだ、ソフトの数が少ないので増えてくれば期待できるかもしれない。
真三は知り合いのメーカーの広報員と話した。
―情報は自分で値打ちがあると思うからこそ保存しておくのであって、与えられた情報では無価値同然だろう。レコード盤のように選択の範囲が広がれば別であろうが…。真三が視察で台湾に行った時、台湾のVTRはほとんど録画機能がついていないことを知った。その台湾では日本以上にVTRが普及しているのだ。
どうしてだろうかと聞いてみると、「台湾のテレビは娯楽番組が少なく、その上面白くないので、日本のテレビ番組の海賊版を見るのが流行っている。日本の映画上映は禁止しているようだが、当局もVTRに関しては見逃しているという。このためVTRテープの貸し屋が新商売として出現している。日本のように店を構えるだけでなく、各家庭に注文を取りに回る。日本で人気のドラマをコピーして中国語に吹きかえて貸し出す。
こうしたことから台湾では再生専用のVTRが普及していた。録画機能付きの機種よりも割安価格である。日本では再生機能だけならダメだろう。VDでもそうだろうと思っていたが、最近VTRと同じように録画機能付きの機種も開発されていると当時、聞いた。
「それがブルーレイの形で実現したのでしょうね」
前島は焼酎のカップを口に運びながら自分で納得していた。
「まだ高価なものだった。メーカーの話では録画できても消去できないので、例えば役所の戸籍記録など書類の永久保存などに適していると言われていた」
「いまはそういうことに使っていますね」
「国会でも重要書類の保管がいまだに問題になっているのはどうしてですかね」
「やはり技術的な問題より政治的意図が感じられますね」
「そういうことなら書類の保管、管理について法律でしっかり運営してもらいたいですね。そうでないと時間、経費の無駄で国民に迷惑をかけることになりますね」
―その当時、真三はVTRを持っていた。カメラも使っていた。VTRの普及率がまだ一〇%を超え始めたところだったから、早い方だった。電気製品は普及率が一〇%を超えると加速度的に増えると言われていたので、今後急速に普及していくと思われた。
VTRはテレビ番組を録画し、保存できる点では素晴らしいが、ただ当時の録画時間が最大二時間で、テープも高価であったために、これにはまると結構、経費がかさんだ。
真三の場合、海外紹介の番組を国別に録画しておいて、その国に行く時に見たり調べたりするのに利用した。そのほかテーマ別に録画して分類していた。
「真三さん、そういう録画したものをどの程度利用しましたか?」
「恥ずかしい話ですが、実際に利用したことはほとんどありませんでした。ところがテープは溜まる一方でした」
「やはり、そうですか」
「情報はその時に集めるのが肝要ですね」
―もう一つの利用法は息子がどうしても見たい番組がある場合、VTRはもってこいである。勉強してからテレビを見ることができる。タイマーで録画セットしておけば帰宅してから見ることもできる。
ただスポーツ番組を留守中に録画して帰って見ようと思っていたのに、夕刊紙に結果が出ていたり、他人の会話が聞こえたり、またテレビのスイッチを入れた瞬間、ニュースで結果が分かった時にはがっかりすることもある。
VTRの効用はあるが、問題はテープが溜まってくることである。 これも書籍と同じでこまめに記録しておかないと探し出すのがやっかいである。真三はVTRカメラで接写してアルバム写真をテープに収めることに気付いた。部屋で作業するため光量不足になるので300Wのライトを当てる。ライトは高熱を発するため、カラー写真が曲がってくる。だから一枚の接写時間は一〇秒以内でないと、写真の周囲に影ができて暗くなってしまう。これをガラス板で押さえて撮影すると、今度は反射光を受けて白く光って見にくい写真になる。
「いまだったらスキャナーで簡単にできますね」
「そうです。スキャナーも安く購入できるし、写真だけでなく資料や原稿をUSBに取り込め、いつでも簡単に引き出せます」
「やはり真三さんが求めるものは世の中に大勢いるのでしょう。だからメーカーは量産化できるとなると、市場に出します」
前島はコメントした。それを聞いていたママは口を挟んだ。
「世の中に花粉症の人が多いのに、いまだに予防薬ができないのはどうしてなの?」
「ママも相当、苦しめられているね」
「苦しいどころではないのよ。沖縄にでも移住したいと思うことがあるのです」
「俺も花粉症だからその気持ちよくわかるよ」
前島はママを慰めるように同意した。
「花粉症の予防薬や治療薬がいまだに開発できていないのだよ。これをつくったらノーベル賞ものだよ」
「市場が大きいのだから製薬会社も全力で取り組んでほしいわ」
「がんも同じだよ。決定的な治療薬がないのが実情です」
「このあたりは電化製品と違う」
三人は益々、饒舌になって話す。
―ところでVTRでの写真撮影だが、写真と写真の間にはレンズカバーをつけたまま撮るか、カメラに光量調整機構がついていれば、それを使って光量不足にして画面を黒くすることによってうまくつながる、もちろん編集用の専用機器もあるが、一台一〇〇万円以上もするので、アルバムをつくる程度にはもったいない。
当時、VTRコンテストもあったようだが、大型電気店あるいはメーカーに持参すれば、編集をやってくれると聞いた。VTRでアルバムをつくる場合、写真の一部をズームアップしたり、不必要な部分を削ったりすることが当然、可能である。またカラー、白黒とも光の当て方、角度によって写真の色が変化してアルバムでは味わえない写真集ができるのも楽しい。また、VTRアルバムにバックミュージックを流したりナレーションを挿入したりと、結構面白いものができる。こうして溜まる一方だったアルバムもVTRに収めることによって従来のアルバムが無用になる。
真三は息子の幼いころからの絵や習字を写真にとって、それをVTRの接写で記録している(もっとも息子は大人になって見向きもしないが)。