インターネット、取り分けSNSが行き渡ったことで、近頃では誰もが思い立ったその日からミュージシャン(音楽家)として名乗りを上げることができるようになりました。あたしがデビューした頃はホールの舞台を踏むというのが玄人(プロ)と愛好家(アマチュア)との間に立ちはだかる敷居になっていましてね、そのためにゃまず身近な先生に手ほどきをしてもらい、音楽大学で教わり、コンクールで一つ二つの賞をいただいて…ようやっとホールでのデビュー。そんなふうでしたから、人の声や楽器の響きを味わうために設えられたホールの舞台は憧れでしたねえ。

 音楽はホールで聴くのが本懐だと言っても、そうはホール通いをできるもんじゃありません。そこで、家に居ながらホールでの心地を味わおうてのが、オーディオ装置(ステレオ)。

 あたしが高校へ通ってた時分、クラスに何人かいた狂おしいばかりの音楽好き連中は、レコード・プレーヤー、アンプ、スピーカー、FM放送を聴くためのチューナー、カセット・デッキなんかをね、其々自分の好みに合うよう組み合わせる(時には違ったメーカーの機器で)コンポーネント・ステレオてえので聴いていました。でも、これが値の張るもので、20万円くらいだったですかねえ…50年前の物価で。だもんですからアルバイトやらお年玉を貯めてやらで、そりゃもう苦労して良い音に有り付いていたもんです。

 で、あたしは?てえと、パイオニア社製のレコード・プレーヤーとアンプ(アンプの方は50年経ってもアトリエで働いてくれています)を買うのがやっとで、スピーカーが無いからヘッドフォンでバッハ「ブランデンブルク協奏曲」を何度も何度も聴いていたもんです。

 しばらくすると、間に合わせのスピーカーがそこへ加わり、お陰さまで格好のついたあたしのオーディオ装置。で、何を聴き耽ったか?というと…バッハやブラームスやラヴェルじゃなく「センチメンタル・シティ・ロマンス」(1973年に名古屋で結成された日本最古のロックバンド)のLPレコードだったんですね、これが。レコード屋さんで買いそびれるてえと…今ならインターネットで見っけてポチっとするだけで明日あさってにゃ届くんですがねえ…当時はそうはいきませんよ。片っ端から中古レコード屋さんを巡って手に入れました、自転車を漕いでね、あたしも若うございました。でもね、級友だったMくん(今でも50年来の親友)なんぞは、月に何度かの週末、大好きなビートルズの海賊盤(正規のレコード会社から発売されていないお宝)を遥々横浜まで探しに行ってたんですから、上には上があったもんで。

 レコード盤がCDに様変わりしたのは、あたしが二十代の半ばでした。音は鮮明になりましたけど、ホールで聴き浸るような空気は損なわれてしまったように思ったもんです。

 

 そうそう、あれは遠い昔のクリスマス、日本楽器名古屋支店( 現在のヤマハミュージック名古屋)からのご所望で演奏に出向いた日のことでした。吹き抜けた2階を舞台に見立てての2日間4ステージ。最後の演奏を終えたあたしは、上階にあったオーディオ売り場に佇んでいました。ずうっと憧れていたスピーカーが置いてあったんです。小振りで品の良い音を出すアメリカはデザイン・アコースティック社製のスピーカー。だけど、それは40年前にして1組10万円ほどの値の張りようで、とても手の出るもんじゃありませんでした。ややあって、あたしは背中越しに聞き馴染みのある声を聞きました。声の主はデビュー以来いつも気にかけてくれて、この催しもプロデュースしてくれたヤマハのY女史。

「ねえ、そのスピーカーのこといつも眺めているよね?今日はクリスマスだから半額にしてあげるけど…どう?…連れて帰る?」あたしは小躍りしながら2日間のお足(ギャラ)を懐から出しましたよ。

 あれから数え切れないほどのクリスマスが巡ってきましたけど、そのスピーカーは、あたしのアトリエで、相変わらず良い音を奏でてくれます。

 

 ホールの舞台に憧れて、ホールでデビューして、ホールに育ててもらって48年。あたしぁ今でも「音楽はホールで聴いてこそのもの」という思いでいますよ。生の声、生の音を届けないとね。

 ですから、どんなにマイクを使ったライブ(小ぢんまりとしたカフェやバーでマイクなんて要るの?)が主流になっても、あたしの場は「ホール」と「お座敷」。

 お手元のYouTubeで「ひぃさま藤間」と引いていただきますてえと、京がたり「ひぃさま藤間勘萃」(ひぃさまが京都の風情を綴って語り、勘萃が音楽を紡いで奏でる)をお聴きになれましょうから、お暇な折にお付き合いを頂戴できれば嬉しゅうございます。どの動画も演奏会やお座敷の模様を収録しただけ…もちろんマイクを使わず、音の加工も一切せず…生の声、生の音でございます。

 

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 インターネット、取り分けSNSが行き渡ったことで、近頃では誰もが思い立ったその日からミュージシャン(音楽家)として名乗りを上げることができるようになりました。あたしがデビューした頃はホールの舞台を踏むというのが玄人(プロ)と愛好家(アマチュア)との間に立ちはだかる敷居になっていましてね、そのためにゃまず身近な先生に手ほどきをしてもらい、音楽大学で教わり、コンクールで一つ二つの賞をいただいて…ようやっとホールでのデビュー。そんなふうでしたから、人の声や楽器の響きを味わうために設えられたホールの舞台は憧れでしたねえ。

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 インターネット、取り分けSNSが行き渡ったことで、近頃では誰もが思い立ったその日からミュージシャン(音楽家)として名乗りを上げることができるようになりました。あたしがデビューした頃はホールの舞台を踏むというのが玄人(プロ)と愛好家(アマチュア)との間に立ちはだかる敷居になっていましてね、そのためにゃまず身近な先生に手ほどきをしてもらい、音楽大学で教わり、コンクールで一つ二つの賞をいただいて…ようやっとホールでのデビュー。そんなふうでしたから、人の声や楽器の響きを味わうために設えられたホールの舞台は憧れでしたねえ。

 音楽はホールで聴くのが本懐だと言っても、そうはホール通いをできるもんじゃありません。そこで、家に居ながらホールでの心地を味わおうてのが、オーディオ装置(ステレオ)。

 あたしが高校へ通ってた時分、クラスに何人かいた狂おしいばかりの音楽好き連中は、レコード・プレーヤー、アンプ、スピーカー、FM放送を聴くためのチューナー、カセット・デッキなんかをね、其々自分の好みに合うよう組み合わせる(時には違ったメーカーの機器で)コンポーネント・ステレオてえので聴いていました。でも、これが値の張るもので、20万円くらいだったですかねえ…50年前の物価で。だもんですからアルバイトやらお年玉を貯めてやらで、そりゃもう苦労して良い音に有り付いていたもんです。

 で、あたしは?てえと、パイオニア社製のレコード・プレーヤーとアンプ(アンプの方は50年経ってもアトリエで働いてくれています)を買うのがやっとで、スピーカーが無いからヘッドフォンでバッハ「ブランデンブルク協奏曲」を何度も何度も聴いていたもんです。

 

 しばらくすると、間に合わせのスピーカーがそこへ加わり、お陰さまで格好のついたあたしのオーディオ装置。で、何を聴き耽ったか?というと…バッハやブラームスやラヴェルじゃなく「センチメンタル・シティ・ロマンス」(1973年に名古屋で結成された日本最古のロックバンド)のLPレコードだったんですね、これが。レコード屋さんで買いそびれるてえと…今ならインターネットで見っけてポチっとするだけで明日あさってにゃ届くんですがねえ…当時はそうはいきませんよ。片っ端から中古レコード屋さんを巡って手に入れました、自転車を漕いでね、あたしも若うございました。でもね、級友だったMくん(今でも50年来の親友)なんぞは、月に何度かの週末、大好きなビートルズの海賊盤(正規のレコード会社から発売されていないお宝)を遥々横浜まで探しに行ってたんですから、上には上があったもんで。

 レコード盤がCDに様変わりしたのは、あたしが二十代の半ばでした。音は鮮明になりましたけど、ホールで聴き浸るような空気は損なわれてしまったように思ったもんです。

 そうそう、あれは遠い昔のクリスマス、日本楽器名古屋支店( 現在のヤマハミュージック名古屋)からのご所望で演奏に出向いた日のことでした。吹き抜けた2階を舞台に見立てての2日間4ステージ。最後の演奏を終えたあたしは、上階にあったオーディオ売り場に佇んでいました。ずうっと憧れていたスピーカーが置いてあったんです。小振りで品の良い音を出すアメリカはデザイン・アコースティック社製のスピーカー。だけど、それは40年前にして1組10万円ほどの値の張りようで、とても手の出るもんじゃありませんでした。ややあって、あたしは背中越しに聞き馴染みのある声を聞きました。声の主はデビュー以来いつも気にかけてくれて、この催しもプロデュースしてくれたヤマハのY女史。

「ねえ、そのスピーカーのこといつも眺めているよね?今日はクリスマスだから半額にしてあげるけど…どう?…連れて帰る?」あたしは小躍りしながら2日間のお足(ギャラ)を懐から出しましたよ。

 あれから数え切れないほどのクリスマスが巡ってきましたけど、そのスピーカーは、あたしのアトリエで、相変わらず良い音を奏でてくれます。

 

 

 ホールの舞台に憧れて、ホールでデビューして、ホールに育ててもらって48年。あたしぁ今でも「音楽はホールで聴いてこそのもの」という思いでいますよ。生の声、生の音を届けないとね。

 ですから、どんなにマイクを使ったライブ(小ぢんまりとしたカフェやバーでマイクなんて要るの?)が主流になっても、あたしの場は「ホール」と「お座敷」。

 お手元のYouTubeで「ひぃさま藤間」と引いていただきますてえと、京がたり「ひぃさま藤間勘萃」(ひぃさまが京都の風情を綴って語り、勘萃が音楽を紡いで奏でる)をお聴きになれましょうから、お暇な折にお付き合いを頂戴できれば嬉しゅうございます。どの動画も演奏会やお座敷の模様を収録しただけ…もちろんマイクを使わず、音の加工も一切せず…生の声、生の音でございます。