富貴駅から龍宮城の歓迎のアーチをくぐって海水浴客が海岸に押し寄せてくる。１０数件の売店や露店のパチンコも大繁盛。遠浅には約５０ｍの桟橋に高さ８ｍほどのコンクリート製の飛込み台、その屋根には幅２ｍはあろうか中日新聞社の大きな旗が２本はためいていた。

　龍宮まつりには、万国旗で飾った手漕ぎの船、乙姫や七福神の仮装が華を添えた。龍宮劇場では『ＮＨＫのど自慢』が全国放送された。芝居小屋がこさえられた、青年団の芝居だ。お盆にはヤグラが建ち、踊りの輪が幾重にもなった。フォークダンスの集いもよくあった。

　夏の間、青年団の男は警察と一緒に海岸の警備をした。

　急に不思議な気持ちを感じるようになった。夏の暑さのせいではない、踊りも歌もとても上手い女子団員の存在にだ。その姿はまさに舞うようで「乙姫だ！」と抑えきれないものを感じた。

　ところが、その娘こはしょっちゅう他所の踊りの指導とかに行く。笛や太鼓の男の団員を連れて行くのがとても疎ましかった。

　ちょうどそんな頃、「ワシは夜勤で、家には女ばっかの姉妹で家がブッソーだ。家を守ってくれんかの～」という話が。聞けば、なんと！なんと！！あの娘この家ではないか。

　しっかり守った。信頼を得た。３年後には想いが叶った。嫁にきた。

　「免許を返上したもんで、エコステーションに持っていけん。布団や着物はここで燃やすだ～」、老人は畑のすみのドラム缶で女物を燃やしていた。

　「家内の踊りや詩吟のテープがいっぱい残っとる。それも何とかせんと‥」。

　話しを伺っていると私の背後から突然「ゴハン！」、という女性の短い一言。振り向いたら一瞬顔が合った。が、何も言わずくるっと向きを変え、スーと去って行った。

　「最近家内は痴呆が出てきての～」。

　さっき聞いた海岸の光景や『乙姫』という言葉が思い起こされ、一気に夏の龍宮海岸に遡った。

　まさに、「舞うかのように」歩き去っていく後ろ姿の奥様がとても愛くるしく見えた。

　‥と同時に、どうしようもなくやるせない気持ちになった。

 

伊藤　明德

 

 

 

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