ドラマは続く

 るり子との会話が続く。

「単にデジタル社会の到来による大変化だけでなく、企業の在り方、社会の仕組みが大きく変化していくと思う。働き方が改革されるだけでなく、定年制、副業の許可、家族も夫婦別姓等、学校教育、とくに6・3・3制の多様化など、さまざまのところで様変わりしていく。

 その中で最大の問題は少子高齢化だろう。日本の各地で市町村合併が進み、外国人家族が増え、行政、さらには政治そのものも変わっていくように思う」

「明治維新以来の大変革時代ですか」

「そうだな。世界情勢もさらに変わっていくだろうね」

「日本もすでに二等国になっているといいますね」

「十五,六年前まで日本は国民の所得もアメリカを抜き、韓国の二倍、中国の数倍と言われたのが、いまは韓国にも抜かれ、先進国の中で最下位に甘んじている。日本は言論の自由な国だと思っているが、報道の自由度ではなさけないことに下位に位置しているが、国民は必ずしもそう思っていないように見える。だけど、下級官僚が上からの指示で報告書の書き替えを行い、自殺した事件は記憶に新しいだろう」

「覚えていますよ」

「政府は数の力で隠蔽するのが常套手段になっている。マスコミも追及できない。今は週刊誌報道に頼っているが、これだって限界がある。ノーベル賞の数はアジアでトップだと胸を張っているが、そのうち中国に抜かれると思うね。というのは国際論文や特許数が日本と比較にならないほど多いのだ」

「暗い話ばかりですね」

「解決のヒントになると思ってホリエモンと橋下徹の共著『人生の革命』という本を読んだ。るり子も読むといいよ」

「ぜひ、読んでみたいです」

「実はこの本は友人のメールで知ったのだ。ホリエモンは荷物を最小限にまとめ、ホテル生活、移動は自家用飛行機で日本中を飛び回って“地方創成”のテーマで講演しているそうだ。多くの人は働き方改革を主張しているが、二人は人生の革命を行えと、かなり先を走っている。ホリエモンは失敗したら生活保護を受けたらいいとも語っている」

「すごいですね。刑務所に収監された経験を持つホリエモンは猛烈なチャレンジャーですね」

 真三は友人からのメールをプリントアウトしてるり子に見せた。

―『生き方革命』 ホリエモン、こと堀江貴文氏と橋下徹氏の共著『生き方革命』(徳間書店)を読んだ。両氏とも改革派で行動派であるから説得力がある。「将来とか未来予測はできない」と、両氏は口を揃える。現にパンデミックや大災害、最近のウクライナ問題を予測した人はいない。とくに中小企業の経営者は将来のことを心配するより、目先のこと、今日のことに注力することだと。マクロ経済的に未来図が必要なのは大企業の経営者らである。

 コロナ禍の時代、「働き方改革」を主張する人は少なくないが、「生き方革命」を推奨する人はあまり知らない。橋下氏は「人の流動性を高めよ」と強調。日本の組織は硬直化して労働者の転職を難しくしている。堀江氏は「会社員でいることはリスクだ」とも。自分の好きなことをとことん探求して自分を高めることが肝要だと。

 いつのまにか日本の所得水準は先進国の中で最下位に転落していた。一人当たりの収入、GDPでも韓国に抜かれ二等国になり下がっている。ものづくりで優位に立つ時代は過ぎ去り、映画や音楽等芸術の分野でも凌駕されている。賃金ではアメリカを抜き、韓国は日本の二分の一だと誇っていたのはつい、十年ほど前だった気がする。

 既得権がはびこり、若者にとって息苦しい時代になっている。少子高齢化社会がいよいよ色濃く、海外の手を借りなければ、やっていけない日本になっている。他と比較することなく、堀江氏のいうリテラシー(物事を理解する能力)を高めることだ。そのため物に投資するより、知の向上に努めることこそ重要だと理解した。

 るり子はメールを読み終え、「ぜひ読みたい」という。

 真三は書棚から本を取り出し、るり子に渡した。るり子はそれを脇に挟んで部屋を出た。

 真三は小説に戻った。

「そら、いかん。村議会の粛清を第一に闘っているのに、当方が買収したら選挙民を欺くことになる」

 政治家は清濁併せ呑めなければいけないとも言われる。二十九歳の齊造にそれを求めるのは無理だった。選挙では負けたらタダの人である。だからといって勝つためには、何をしてもよいというわけにはいかない。齊造は少なくともそう思っていた。

 選挙にはカネが要る。この村長選でも一〇万円は下らない。今の相場でなら千万円というところだ。父親の藤太郎は先祖から引き継いだ杉やヒノキの大木を切っては費用を捻出した。大木に次からつぎへと白色のペンキで〇印がつけられる。売約済みの印で切り倒される運命にある。齊造はジープで村を回っている時、ペンキのマークが増えるにともない心寂しさを感じた。身を切られる思いがするのだった。

 村の選挙は一種の祭りのようなところがある。イベントである。選挙事務所となった片桐の家族、親類総出で接待する。

「今でも選挙事務所をのぞくと、当選するかどうか、わかりますよ。事務所に人の集まりが少ないと、まずダメですね」

 片桐は柳原記者に同意を求めるような顔つきを見せる。

「それで選挙の結果はどうなったのですか…」

 当時、千早村の有権者数はおよそ一五〇〇人であった。投票日の七月十五日は田んぼに水を入れる忙しい時期だったが、初の村長選でもあり、旧勢力と新勢力の争いに加えて、熟年候補対青年候補という組み合わせということもあって、投票率は九〇%を超えた。

 翌日開票である。第一報が届いた。135対150で鎌谷がリードしているという。齊造は落ち着かない。とにかく早く決着がついてほしい。大接戦の模様だ。これほど時間が長く感じられたことはない。片桐齊造が100票近くリードしているという報告に座敷を陣取っている支持者一同から拍手が沸いた。まだ奥千早の票が残っている。昨晩、弥吉が持ってきた情報が齊造の脳裡に浮かぶ。昼過ぎ最終報告が行われた。

「わずか200票差で齊造君は敗れました」

 一瞬、息をのんだかと思ったとたん、どよめきが起こった。そしてまもなく座座敷は水を打ったように静まり返った。

「敗北は息子の力不足です」

 藤太郎は支持者たちにお礼を述べた。潮が引くよ

うに、片桐家に集まった人たちは消え去った。齊造の頭の中は真空状態になっている。

 三日三晩、眠れない。胸が詰まるようだ。敗北が決まると、“村八分”の扱いである。誰も片桐の家に近づかない。選挙気狂いだけが残っている。齊造は針のムシロに座っている思いが続く。人の話し声がなにもかも齊造の悪口を言っているように聞こえる。人が集まっているのを見ると、ののしられていると錯覚を起こす。齊造の内面にひがみ根性が充満する。人の非情さを見る思いがする。戦時中、上等兵になぐられ、蹴られた時でさえ、こうした感情を持たなかった。両親も村の名門意識が強かっただけに、ショックが大きい。父親はこのことで死期を早めた。

 選挙のほとぼりが冷めたころ、支持者が一人、またひとり集まってきた。

「四年後に、もう一度挑戦してくださいや。齊造君が村を出ると、われわれ支持者はよけい冷たく扱われる」

 しかし、藤太郎にその気はなかった。齊造はというと、選挙の後始末を終え毎日、山へ行って木の手入れをして過ごしている。

(四年後なら当選するだろう。今回は若過ぎた。やはり清濁併せのむ度量もいる)

 齊造はようやく敗北による心の傷も癒えてきていた。次ぎに賭け、府会議員から国会議員を目指そうと自分に訴える思いだった。

(出馬時期を誤ったことは確かだ。お前は若過ぎた。しかし、沈滞した村を活性化するという前村長の路線を引き継ぐことを考えると、お前に出てもらうしかなかった。お前は村を出た方がいい)

 片桐家に対する悪口が勝利者側から聞こえる。地元にいては耐えられないだろう。父、藤太郎は大阪府庁へ就職することをすすめた。ちょうど、長男の忠信も戻り、家業の「片桐林産」を引き継ぐ決心をしていたので、齊造はこの際、隣接市の羽曳野市に分家して父の命令に従い、府庁に勤めた。

 落選したので、税金をがばっと取られると考え、社長を長男の忠信にすることによって免れようとする思いもあった。

 

■岡田 清治プロフィール

1942年生まれ ジャーナリスト

(編集プロダクション・NET108代表)

著書に『高野山開創千二百年 いっぱんさん行状記』『心の遺言』『あなたは社員の全能力を引き出せますか!』『リヨンで見た虹』など多数

※この物語に対する読者の方々のコメント、体験談を左記のFAXかメールでお寄せください。

今回は「就職」「日本のゆくえ」「結婚」「夫婦」「インド」「愛知県」についてです。物語が進行する中で織り込むことを試み、一緒に考えます。

FAX‥0569―34―7971

メール‥takamitsu@akai-shinbunten.net

 

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ドラマは続く

 るり子との会話が続く。

「単にデジタル社会の到来による大変化だけでなく、企業の在り方、社会の仕組みが大きく変化していくと思う。働き方が改革されるだけでなく、定年制、副業の許可、家族も夫婦別姓等、学校教育、とくに6・3・3制の多様化など、さまざまのところで様変わりしていく。

 その中で最大の問題は少子高齢化だろう。日本の各地で市町村合併が進み、外国人家族が増え、行政、さらには政治そのものも変わっていくように思う」

「明治維新以来の大変革時代ですか」

「そうだな。世界情勢もさらに変わっていくだろうね」

「日本もすでに二等国になっているといいますね」

「十五,六年前まで日本は国民の所得もアメリカを抜き、韓国の二倍、中国の数倍と言われたのが、いまは韓国にも抜かれ、先進国の中で最下位に甘んじている。日本は言論の自由な国だと思っているが、報道の自由度ではなさけないことに下位に位置しているが、国民は必ずしもそう思っていないように見える。だけど、下級官僚が上からの指示で報告書の書き替えを行い、自殺した事件は記憶に新しいだろう」

「覚えていますよ」

「政府は数の力で隠蔽するのが常套手段になっている。マスコミも追及できない。今は週刊誌報道に頼っているが、これだって限界がある。ノーベル賞の数はアジアでトップだと胸を張っているが、そのうち中国に抜かれると思うね。というのは国際論文や特許数が日本と比較にならないほど多いのだ」

「暗い話ばかりですね」

「解決のヒントになると思ってホリエモンと橋下徹の共著『人生の革命』という本を読んだ。るり子も読むといいよ」

「ぜひ、読んでみたいです」

「実はこの本は友人のメールで知ったのだ。ホリエモンは荷物を最小限にまとめ、ホテル生活、移動は自家用飛行機で日本中を飛び回って“地方創成”のテーマで講演しているそうだ。多くの人は働き方改革を主張しているが、二人は人生の革命を行えと、かなり先を走っている。ホリエモンは失敗したら生活保護を受けたらいいとも語っている」

「すごいですね。刑務所に収監された経験を持つホリエモンは猛烈なチャレンジャーですね」

 真三は友人からのメールをプリントアウトしてるり子に見せた。

―『生き方革命』 ホリエモン、こと堀江貴文氏と橋下徹氏の共著『生き方革命』(徳間書店)を読んだ。両氏とも改革派で行動派であるから説得力がある。「将来とか未来予測はできない」と、両氏は口を揃える。現にパンデミックや大災害、最近のウクライナ問題を予測した人はいない。とくに中小企業の経営者は将来のことを心配するより、目先のこと、今日のことに注力することだと。マクロ経済的に未来図が必要なのは大企業の経営者らである。

 コロナ禍の時代、「働き方改革」を主張する人は少なくないが、「生き方革命」を推奨する人はあまり知らない。橋下氏は「人の流動性を高めよ」と強調。日本の組織は硬直化して労働者の転職を難しくしている。堀江氏は「会社員でいることはリスクだ」とも。自分の好きなことをとことん探求して自分を高めることが肝要だと。

 いつのまにか日本の所得水準は先進国の中で最下位に転落していた。一人当たりの収入、GDPでも韓国に抜かれ二等国になり下がっている。ものづくりで優位に立つ時代は過ぎ去り、映画や音楽等芸術の分野でも凌駕されている。賃金ではアメリカを抜き、韓国は日本の二分の一だと誇っていたのはつい、十年ほど前だった気がする。

 既得権がはびこり、若者にとって息苦しい時代になっている。少子高齢化社会がいよいよ色濃く、海外の手を借りなければ、やっていけない日本になっている。他と比較することなく、堀江氏のいうリテラシー(物事を理解する能力)を高めることだ。そのため物に投資するより、知の向上に努めることこそ重要だと理解した。

 るり子はメールを読み終え、「ぜひ読みたい」という。

 真三は書棚から本を取り出し、るり子に渡した。るり子はそれを脇に挟んで部屋を出た。

 真三は小説に戻った。

「そら、いかん。村議会の粛清を第一に闘っているのに、当方が買収したら選挙民を欺くことになる」

 政治家は清濁併せ呑めなければいけないとも言われる。二十九歳の齊造にそれを求めるのは無理だった。選挙では負けたらタダの人である。だからといって勝つためには、何をしてもよいというわけにはいかない。齊造は少なくともそう思っていた。

 選挙にはカネが要る。この村長選でも一〇万円は下らない。今の相場でなら千万円というところだ。父親の藤太郎は先祖から引き継いだ杉やヒノキの大木を切っては費用を捻出した。大木に次からつぎへと白色のペンキで〇印がつけられる。売約済みの印で切り倒される運命にある。齊造はジープで村を回っている時、ペンキのマークが増えるにともない心寂しさを感じた。身を切られる思いがするのだった。

 村の選挙は一種の祭りのようなところがある。イベントである。選挙事務所となった片桐の家族、親類総出で接待する。

「今でも選挙事務所をのぞくと、当選するかどうか、わかりますよ。事務所に人の集まりが少ないと、まずダメですね」

 片桐は柳原記者に同意を求めるような顔つきを見せる。

「それで選挙の結果はどうなったのですか…」

 当時、千早村の有権者数はおよそ一五〇〇人であった。投票日の七月十五日は田んぼに水を入れる忙しい時期だったが、初の村長選でもあり、旧勢力と新勢力の争いに加えて、熟年候補対青年候補という組み合わせということもあって、投票率は九〇%を超えた。

 翌日開票である。第一報が届いた。135対150で鎌谷がリードしているという。齊造は落ち着かない。とにかく早く決着がついてほしい。大接戦の模様だ。これほど時間が長く感じられたことはない。片桐齊造が100票近くリードしているという報告に座敷を陣取っている支持者一同から拍手が沸いた。まだ奥千早の票が残っている。昨晩、弥吉が持ってきた情報が齊造の脳裡に浮かぶ。昼過ぎ最終報告が行われた。

「わずか200票差で齊造君は敗れました」

 一瞬、息をのんだかと思ったとたん、どよめきが起こった。そしてまもなく座座敷は水を打ったように静まり返った。

「敗北は息子の力不足です」

 藤太郎は支持者たちにお礼を述べた。潮が引くよ

うに、片桐家に集まった人たちは消え去った。齊造の頭の中は真空状態になっている。

 三日三晩、眠れない。胸が詰まるようだ。敗北が決まると、“村八分”の扱いである。誰も片桐の家に近づかない。選挙気狂いだけが残っている。齊造は針のムシロに座っている思いが続く。人の話し声がなにもかも齊造の悪口を言っているように聞こえる。人が集まっているのを見ると、ののしられていると錯覚を起こす。齊造の内面にひがみ根性が充満する。人の非情さを見る思いがする。戦時中、上等兵になぐられ、蹴られた時でさえ、こうした感情を持たなかった。両親も村の名門意識が強かっただけに、ショックが大きい。父親はこのことで死期を早めた。

 選挙のほとぼりが冷めたころ、支持者が一人、またひとり集まってきた。

「四年後に、もう一度挑戦してくださいや。齊造君が村を出ると、われわれ支持者はよけい冷たく扱われる」

 しかし、藤太郎にその気はなかった。齊造はというと、選挙の後始末を終え毎日、山へ行って木の手入れをして過ごしている。

(四年後なら当選するだろう。今回は若過ぎた。やはり清濁併せのむ度量もいる)

 齊造はようやく敗北による心の傷も癒えてきていた。次ぎに賭け、府会議員から国会議員を目指そうと自分に訴える思いだった。

(出馬時期を誤ったことは確かだ。お前は若過ぎた。しかし、沈滞した村を活性化するという前村長の路線を引き継ぐことを考えると、お前に出てもらうしかなかった。お前は村を出た方がいい)

 片桐家に対する悪口が勝利者側から聞こえる。地元にいては耐えられないだろう。父、藤太郎は大阪府庁へ就職することをすすめた。ちょうど、長男の忠信も戻り、家業の「片桐林産」を引き継ぐ決心をしていたので、齊造はこの際、隣接市の羽曳野市に分家して父の命令に従い、府庁に勤めた。

 落選したので、税金をがばっと取られると考え、社長を長男の忠信にすることによって免れようとする思いもあった。