フライパンのマーガリンが跳ねだしたら、半分に切って塩をふった秋刀魚を入れて蓋をする。途中裏返して、焼きあがったら皿に取る。そこに残ってジュージューいってる油を回しかける。付け合わせは一切いらない、焦げた皮の明るい茶色と崩れのないワタにとても幸せを感じる。

　この焼き方、私が小さかったころ保健婦さんが来て「網で焼くと油が落ちてしまう。栄養が摂れるよう、フライパンで焼くとよい」という指導、それ以来。

　３匹のヘソの緒がついたままの猫を娘が保護したのが２２年前。娘と家内が注射筒でミルク、尿・便の世話。誰にも貰われず１匹が残った。なき声はダミ声、それで名はダミに。その後はずーと固形のキャットフード。ところが、１９歳になったころから食が細くなった。　久しぶりの秋刀魚のマーガリン焼き。今迄まったく人間の食べものに興味を示さなかったダミが何度も手を出してきた。ペロリ。さらに欲しいサイン。さらには残った頭をかっさらおうとまでした。家内「ダミちゃん、やっぱり猫だったんだネ～」。

　ならば、もっと美味いはずとバターで焼いてみた、が、まったく反応なし。なんで？

　今のダミは人間で言ったら１０６歳超えだという。すっかりやつれてよたよたで、朝起きると部屋の床はペースト状のエサの混じったヨダレでべったべた。そういえば逝く前の私の親はシッコで床が大変なことになっていた。老いなんだ～、と。

　『秋刀魚の味』は名映画監督の小津安二郎の遺作。年頃の娘と男親を描き切って見応えがある。ところがこの映画、鱧はもがとても印象深く描かれるが、秋刀魚は一切出てこない。・・・ならば、続編版として『マーガリン味の秋刀魚』でなければならない、２２歳の老猫のいる日常を描いて頂きたい。さらには、秋刀魚好きといわれた監督に、マーガリン焼きを召し上がって頂き、『秋刀魚の味』を食レポして頂きたい、と妄想した。

伊藤　明德

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