富貴駅の踏切を過ぎると、少しだけ赤とんぼの羽が見えてくる。その橙色が背景の三河の山々の青さでひときわ目立ち、ワクワクして小走りになった。海岸に着くと巨大な赤とんぼが何機もいた。海に浮かんでいるのもあった。

 眺めていると、若い兵隊さんがやってきて「坊や、プロペラ回してみるかい」。プロペラの先端にぶら下がったら少し動いた。兵隊さんは得意げに微笑んだ。

 あるとき、バケツで燃料の補給をしていた。終わるのを待って、こぼれてくぼみに溜まった揮発油に指を突っ込んでその匂いを嗅いだ。いい匂いだ。

 赤とんぼは、機体が橙色で主翼が2枚、全体が布でできていて、プロペラは2枚羽根、海に浮くための2つの巨大なフロートが格好いいと思った。他に、濃緑の1枚翼でフロート付きのも何機かあったが、赤とんぼが断然格好良いと思った。

 赤とんぼは、三河の方向に海面に波をたてて飛び立つが、爆音が強烈だった。

 夕方、斜面(スリップ、滑走台。コンクリートではなく木でできていた)では大勢の若い兵隊さんがロープで赤とんぼを海から引き上げていた。 機体は松並木の松の間に停めた。格納庫は無かった。

 何度も行くうちには、若い兵隊さんと道ですれ違うことがあり「坊や、ほらっ、カンパン」と、よく貰った。嬉しかった、美味しかった。

 ところが、何があったんだろうか、赤とんぼも若い兵隊さん達もいなくなった。滑走台もなくなった。急にだ。

 大きくなってからも、親戚が海の近くだったので海岸にはよく行った。松並木と白い砂浜が広がって、赤とんぼがいたことが嘘だったような穏やかな海岸をとても美しいと思った。「平和海岸」と心の中で名付けた。

 「あん時、若い兵隊さんたちが親切にしてくれたのは、里に残した弟と私が重なったんだろうな~、きっと‥」と目の前の老人はつぶやいた。ネットや資料を探しているが、富貴海岸で乙姫祭りがあったというが、赤とんぼがいたことは見つかっていない。

竜宮海岸周辺はやっぱり浦島太郎の世界だ…。

 

伊藤 明德

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 眺めていると、若い兵隊さんがやってきて「坊や、プロペラ回してみるかい」。プロペラの先端にぶら下がったら少し動いた。兵隊さんは得意げに微笑んだ。

 あるとき、バケツで燃料の補給をしていた。終わるのを待って、こぼれてくぼみに溜まった揮発油に指を突っ込んでその匂いを嗅いだ。いい匂いだ。

 赤とんぼは、機体が橙色で主翼が2枚、全体が布でできていて、プロペラは2枚羽根、海に浮くための2つの巨大なフロートが格好いいと思った。他に、濃緑の1枚翼でフロート付きのも何機かあったが、赤とんぼが断然格好良いと思った。

 赤とんぼは、三河の方向に海面に波をたてて飛び立つが、爆音が強烈だった。

 夕方、斜面(スリップ、滑走台。コンクリートではなく木でできていた)では大勢の若い兵隊さんがロープで赤とんぼを海から引き上げていた。 機体は松並木の松の間に停めた。格納庫は無かった。

 何度も行くうちには、若い兵隊さんと道ですれ違うことがあり「坊や、ほらっ、カンパン」と、よく貰った。嬉しかった、美味しかった。

 ところが、何があったんだろうか、赤とんぼも若い兵隊さん達もいなくなった。滑走台もなくなった。急にだ。

 大きくなってからも、親戚が海の近くだったので海岸にはよく行った。松並木と白い砂浜が広がって、赤とんぼがいたことが嘘だったような穏やかな海岸をとても美しいと思った。「平和海岸」と心の中で名付けた。

 「あん時、若い兵隊さんたちが親切にしてくれたのは、里に残した弟と私が重なったんだろうな~、きっと‥」と目の前の老人はつぶやいた。ネットや資料を探しているが、富貴海岸で乙姫祭りがあったというが、赤とんぼがいたことは見つかっていない。

竜宮海岸周辺はやっぱり浦島太郎の世界だ…。

 

伊藤 明德