おとーさんなら大丈夫?家内によく言われる。「お、頼られてる」と、結構良い気分にはなる、ものの…。

　最近、20歳の老猫が『牛乳飲んでみたいサイン』の目で私を見つめてきた。家内は「その牛乳、２時間も前からのしまい忘れだから、あげちゃダメよ！」。「もったいないからお父さん飲んで。おとーさんなら大丈夫? 」と、のたまう。

　私が子供のころの冷蔵庫は氷を上段に入れる木製。母の実家にはあったが我が家には無かった。煮魚、野菜類の煮物などは蝿帳にしまっていた。夏場の翌日には、ほんの少し酸っぱい匂いが。ご飯も同様、しかもテカリが。昭和25、6年ころだ。食事前には親と匂いを嗅ぎあって、親「これくらいなら大丈夫！」、私「えーほんとー？」。一度もおなかをこわすことはなかった。先日、同年くらいのおばさま方が話すのが聞こえてきて『テカったご飯は水で洗って、干して食べた』。私は妙に安堵した。

　ところが、私のその嗅覚、味覚センサーがまったく反応しなかった事件が。青春時代、上高地で強烈な嘔吐と下痢。危なそうなものではない場合もある、という初の壮絶な体験でした。（その週で閉鎖されるという診療所で、２晩つきっきりで何本もの点滴を打ってくださった東京医科大学の先生と看護婦さん（愛知県出身）、点滴袋を抱えてトイレの中まで付き合ってくれた友人に大感謝しています。その後の快復まで親切に泊めてくださった五千尺ロッジにも。）家内は、私の経験を十分理解して「おとーさんなら大丈夫!!」と言ってると解釈しているが、私より６歳年下の家内は、なんと、酸っぱくなりかけたものを食べた経験が無いという。昭和20年代の生活の向上のスピードはすごかったんだと。

伊藤　明德