ドラマは続く

 日米貿易摩擦で、いつも問題になるのが品質の差である。日本の企業はモノをつくる生産技術で圧倒的に優位にあるから、その差は半永久的に縮まらないという。本当にそうだろうか。片桐は少なくともそう思っていない。これは日米経営者の心の差であると考えている。心すなわち、起業家精神の違いからきている。

 片桐はかつて“社徳”という言葉を聞いたことがある。瀬戸内晴美の小説『女徳』というのがある。誰もが尽くしたくなるような女を女徳という。男徳はないが人徳はある。このように会社にも社徳というものがあるというのだ。従業員が尽くしたくなる会社には社徳があるという。これは単に給与が良いといった外的条件だけが整ってもダメで、内的条件、つまり経営者の精神が問題になる。欧米には社徳のある企業が少ないと、その話を聞いて片桐は信じている。

 住友銀行や松下電器には社徳があるのだ。松下幸之助は自分という一人の人間で信長、秀吉、家康スタイルを同居させたことが成功した秘訣だと聞いた。三者のスタイルとは例の鳥が啼かないと殺す信長、啼かせてみせる秀吉、啼くまで待つ家康をいう。

 若い時は信長型であっても、中年になると秀吉型に変わり、六〇歳を超すと家康型になる。これが簡単なようでなかなかできない。猪突猛進している間は自分が見えない。失敗して自分を知っても遅すぎることがある。できれば燃えながら変革させる方がよい。京セラに吸収合併されたトランシーバーのサイバネット工業の社長友納春樹が言った。(完全自動化の製造設備を過信し、ブレーキーをかける間がなかった)と、一時は売上げ千億円を超え、ブレーキーを踏もうものなら、社内でバカ呼ばわりされそうだった。しかし、米国が輸入規制と課徴金をかけたので、売上げは二百億円へと激減した。ベンチャー企業が急速に拡大して、よく失敗するのも、いつまでも信長型の経営者でいるからだといわれる。

 京セラの創業者の稲盛が人工骨の不正申請でマスコミにたたかれ、つまずいた時に、(いつまでも信長型でいたらいかん。早く秀吉型の経営者に変身すればいいのに)と片桐は思ったものだ。

 言葉を変えていうと、二〇代なら二〇代の常識、三〇代なら三〇代、六〇代なら六〇代の常識があるというのが片桐の持論である。論語にも「一〇有五にして学び、三〇にして立つ、四〇にして惑わず、五〇にして天命を知る。六〇にして耳従う。七〇にして心の欲するところに従えども、矩を超えず」とあるではないか。三〇代の者が若年寄りになったり、五〇歳、六〇歳になってもケンカをしたり、がんがんと口論をやる者がいるが、年代に見合った言動、取り組みがあるはずだ。六〇にして耳従うとあるように、人の話に耳を傾けなければなるまい。よく聞いた上で、決断することだ。

 企業とは生き物である。不思議なことに業績が上向いてくると、労働組合も文句を言わなくなる。文句を言う前によく働くようになる。だから企業のトップはなんとしても業績を上げなければならない。

 企業は人なりというが、銀行は人だけである。片桐は人事を経営の最重要事項と考えている。人事は時に人を傷つけもするが、生かし育てもする。(基本的には日頃、仕事を誠心誠意やって時の判断を待てばよい。巡り合わせがあっておもしろくない時もあろうが、いつも闇夜ばかりではない。月夜もかならずある)と片桐は言う。

 昇格人事を考えると時、上手してくる者に対しては気分がいいものだ。しかし、私情を殺して(この男ならそのような役割を与えても持ちこたえるかという判断が一番大切だ)と考えている。合わない背広を着ると結局、本人が一番困ることになる。

 役員人事では経営者自身が保身にとらわれ、ともすれば親近者を選びがちだが、この点は心すべきだ。人付き合いも良いとは言えないし、どちらかといえばツンとして少々おかしな男だが、仕事に対してはしゃにむにやるタイプは大切にしたい。ゴマスリも一つの能力ではあるが、上に昇進すればするほど、効かなくなる。

 ゴマスリ人事に重点を置くと仕事をおろそかにする傾向が強くなる。(上のキンタマをつかんでいるとか、派閥に食い込んでいると思っている。人間は仕事をおろそかにしているケースが多い)ことを、片桐は知っている。そんな社風がいったんできてしまうと、エネルギーの大半を人間関係に費やし、仕事への情熱が半減することを、千早村役場や大阪府庁時代に経験した。

 ただ、上から見てかわい気ないというか、素直でない部下は、能力いかんに関係なく嫌われる。ゴマスリとカワイ気とは微妙に違う。いずれにせよ、それも上に立つ者の器の大きさによる。人事で二、三回変な判断をすると、必ず失敗につながってくる。

 役員人事級になると、内部の情報だけで判断しても、うまくいかない。得意先の情報も役立つことがある。得意先でほとんどホメ言葉の出ない人はダメだ。自ずと役員にふさわしい空気のようなものが出てくる。

 片桐は経営全般にわたり助言してもらうため、最高顧問会を設けている。千吉の西村をはじめ、川島織物の川島春雄会長、たち吉の富田忠次郎会長らを参与に任命、最高顧問を引き受けてもらっている。年三回、食事をしながら意見を聞くことを十年も続けていると、顧問連は役員の動きを知ってくるし、支店長らも出入りしているので会社の動きをよくつかんでいる。どの顧問からもホメ言葉が出ないような人物はダメであると思っている。

 

「一服されてはどうですか」

「そうだな。ところでるり子はデジタルという言葉を聞いたことがあると思うが、どうですか」

「はい、よく聞いたり新聞でも見たりしていますが、よく分かっていません」

「このコラムを読んでごらん」

 

 デジタル(日本語訳がないほど、計数型とも) デジタル化は宇宙の広がりのように無限に拡大するのだろうか?

 デジタルという文字を見ない日はない。恐らく大きなうねりが押し寄せているのだろうが、まだ、どういう社会かを実感できない人も少なくない。政府はデジタル庁を創設、マイナンバーカードの普及をはじめ行政サービスの向上をめざしている。このカードがなくても困らないので、なかなか前に進まない。

 経産省は2025年の崖というレポートを発表、DX(デジタルトランスフォーメーション)による企業のビミネスモデルの変革を推進して、経営者の意識改革により競争力を高める政策を打ち出している。

 大企業は自ら人材育成に乗り出し、次代のステージを目指しているが、中小企業はどこから手をつけたらいいのか戸惑っている。

 携帯もガラ系からアイフォンへ、Uber Eatsによって食事がより美味しくなど、身近なところでも変革が起こっている。とくに地方の企業にとってはアマゾンなどのネットワーク、テレーワークを利用することで業績を飛躍させている企業も多い。

 いま、関心を集めているのがDXによるネットワークの再構築であろう。これを実際に取り入れようとすると、企業が多種多様で複雑なため、自社にぴったりのDXが見つけられないのが現状である。システムを売り込むIT企業も自社プランに似わせようとするので、齟齬をきたす。推進役の政府自身のDXに関心もあるが…。

 

「ざっと、こんな内容だが、これでも一般には難しいね。政府が一番取り組みたいのがマイナンバーカードだろう。確かに住民票など、コンビニで取れるなど便利になったが、保険証や病歴、さらに預金通帳までヒモづけされると、情報の漏洩の懸念が高まると思う」

「そうですね。いまのままで間に合っていますのに、なぜ政府は拡大しようとするのですか」

「例えば、国民に一斉給付しようとする場合、全国民がマイナンバーを登録していたら瞬時に可能になるなど、メリットはあるだろう。ただ、ほかにも真の狙いがあるような気がするね」

「そのようなことはめったにないことでしょう。それに対してリスクが大き過ぎるような気がします」

「そうだよな…」

「デジタルより、国民は物価高に関心がありますよ」

「物価は本当にひどいことになっている」

「国民の収入はこの三十年、横ばいでしょう。年金暮らしの高齢者は物価スライド制をとっているなら、上がってもいいはずでしょう」

「人手不足といいながら、労働者の給料は上がらないのも不思議だね。労働者の転職が難しく、硬直化しているからだろう」

「これでは日本は三等国になりますね」

「ジャパン・アズ・ナンバーワンといわれたことは、昔の夢のようだね」

「今の若者は夢のような日本という国を知らないと思うと、悲しくなりますね」

「残念だけど、当分、上昇気流に乗ることはないだろうな」

「政治の責任も重いですね」

「政治家も若返り、二世議員は門戸を狭くしないと、期待できないね」

「そろそろ夕飯の用意をしますね」

 

■岡田 清治プロフィール

1942年生まれ ジャーナリスト

(編集プロダクション・NET108代表)

著書に『高野山開創千二百年 いっぱんさん行状記』『心の遺言』『あなたは社員の全能力を引き出せますか!』『リヨンで見た虹』など多数

※この物語に対する読者の方々のコメント、体験談を左記のFAXかメールでお寄せください。

今回は「就職」「日本のゆくえ」「結婚」「夫婦」「インド」「愛知県」についてです。物語が進行する中で織り込むことを試み、一緒に考えます。

FAX‥0569―34―7971

メール‥takamitsu@akai-shinbunten.net

 

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ドラマは続く

 日米貿易摩擦で、いつも問題になるのが品質の差である。日本の企業はモノをつくる生産技術で圧倒的に優位にあるから、その差は半永久的に縮まらないという。本当にそうだろうか。片桐は少なくともそう思っていない。これは日米経営者の心の差であると考えている。心すなわち、起業家精神の違いからきている。

 片桐はかつて“社徳”という言葉を聞いたことがある。瀬戸内晴美の小説『女徳』というのがある。誰もが尽くしたくなるような女を女徳という。男徳はないが人徳はある。このように会社にも社徳というものがあるというのだ。従業員が尽くしたくなる会社には社徳があるという。これは単に給与が良いといった外的条件だけが整ってもダメで、内的条件、つまり経営者の精神が問題になる。欧米には社徳のある企業が少ないと、その話を聞いて片桐は信じている。

 住友銀行や松下電器には社徳があるのだ。松下幸之助は自分という一人の人間で信長、秀吉、家康スタイルを同居させたことが成功した秘訣だと聞いた。三者のスタイルとは例の鳥が啼かないと殺す信長、啼かせてみせる秀吉、啼くまで待つ家康をいう。

 若い時は信長型であっても、中年になると秀吉型に変わり、六〇歳を超すと家康型になる。これが簡単なようでなかなかできない。猪突猛進している間は自分が見えない。失敗して自分を知っても遅すぎることがある。できれば燃えながら変革させる方がよい。京セラに吸収合併されたトランシーバーのサイバネット工業の社長友納春樹が言った。(完全自動化の製造設備を過信し、ブレーキーをかける間がなかった)と、一時は売上げ千億円を超え、ブレーキーを踏もうものなら、社内でバカ呼ばわりされそうだった。しかし、米国が輸入規制と課徴金をかけたので、売上げは二百億円へと激減した。ベンチャー企業が急速に拡大して、よく失敗するのも、いつまでも信長型の経営者でいるからだといわれる。

 京セラの創業者の稲盛が人工骨の不正申請でマスコミにたたかれ、つまずいた時に、(いつまでも信長型でいたらいかん。早く秀吉型の経営者に変身すればいいのに)と片桐は思ったものだ。

 言葉を変えていうと、二〇代なら二〇代の常識、三〇代なら三〇代、六〇代なら六〇代の常識があるというのが片桐の持論である。論語にも「一〇有五にして学び、三〇にして立つ、四〇にして惑わず、五〇にして天命を知る。六〇にして耳従う。七〇にして心の欲するところに従えども、矩を超えず」とあるではないか。三〇代の者が若年寄りになったり、五〇歳、六〇歳になってもケンカをしたり、がんがんと口論をやる者がいるが、年代に見合った言動、取り組みがあるはずだ。六〇にして耳従うとあるように、人の話に耳を傾けなければなるまい。よく聞いた上で、決断することだ。

 企業とは生き物である。不思議なことに業績が上向いてくると、労働組合も文句を言わなくなる。文句を言う前によく働くようになる。だから企業のトップはなんとしても業績を上げなければならない。

 企業は人なりというが、銀行は人だけである。片桐は人事を経営の最重要事項と考えている。人事は時に人を傷つけもするが、生かし育てもする。(基本的には日頃、仕事を誠心誠意やって時の判断を待てばよい。巡り合わせがあっておもしろくない時もあろうが、いつも闇夜ばかりではない。月夜もかならずある)と片桐は言う。

 昇格人事を考えると時、上手してくる者に対しては気分がいいものだ。しかし、私情を殺して(この男ならそのような役割を与えても持ちこたえるかという判断が一番大切だ)と考えている。合わない背広を着ると結局、本人が一番困ることになる。

 役員人事では経営者自身が保身にとらわれ、ともすれば親近者を選びがちだが、この点は心すべきだ。人付き合いも良いとは言えないし、どちらかといえばツンとして少々おかしな男だが、仕事に対してはしゃにむにやるタイプは大切にしたい。ゴマスリも一つの能力ではあるが、上に昇進すればするほど、効かなくなる。

 ゴマスリ人事に重点を置くと仕事をおろそかにする傾向が強くなる。(上のキンタマをつかんでいるとか、派閥に食い込んでいると思っている。人間は仕事をおろそかにしているケースが多い)ことを、片桐は知っている。そんな社風がいったんできてしまうと、エネルギーの大半を人間関係に費やし、仕事への情熱が半減することを、千早村役場や大阪府庁時代に経験した。

 ただ、上から見てかわい気ないというか、素直でない部下は、能力いかんに関係なく嫌われる。ゴマスリとカワイ気とは微妙に違う。いずれにせよ、それも上に立つ者の器の大きさによる。人事で二、三回変な判断をすると、必ず失敗につながってくる。

 役員人事級になると、内部の情報だけで判断しても、うまくいかない。得意先の情報も役立つことがある。得意先でほとんどホメ言葉の出ない人はダメだ。自ずと役員にふさわしい空気のようなものが出てくる。

 片桐は経営全般にわたり助言してもらうため、最高顧問会を設けている。千吉の西村をはじめ、川島織物の川島春雄会長、たち吉の富田忠次郎会長らを参与に任命、最高顧問を引き受けてもらっている。年三回、食事をしながら意見を聞くことを十年も続けていると、顧問連は役員の動きを知ってくるし、支店長らも出入りしているので会社の動きをよくつかんでいる。どの顧問からもホメ言葉が出ないような人物はダメであると思っている。

 

「一服されてはどうですか」

「そうだな。ところでるり子はデジタルという言葉を聞いたことがあると思うが、どうですか」

「はい、よく聞いたり新聞でも見たりしていますが、よく分かっていません」

「このコラムを読んでごらん」

 

 デジタル(日本語訳がないほど、計数型とも) デジタル化は宇宙の広がりのように無限に拡大するのだろうか?

 デジタルという文字を見ない日はない。恐らく大きなうねりが押し寄せているのだろうが、まだ、どういう社会かを実感できない人も少なくない。政府はデジタル庁を創設、マイナンバーカードの普及をはじめ行政サービスの向上をめざしている。このカードがなくても困らないので、なかなか前に進まない。

 経産省は2025年の崖というレポートを発表、DX(デジタルトランスフォーメーション)による企業のビミネスモデルの変革を推進して、経営者の意識改革により競争力を高める政策を打ち出している。

 大企業は自ら人材育成に乗り出し、次代のステージを目指しているが、中小企業はどこから手をつけたらいいのか戸惑っている。

 携帯もガラ系からアイフォンへ、Uber Eatsによって食事がより美味しくなど、身近なところでも変革が起こっている。とくに地方の企業にとってはアマゾンなどのネットワーク、テレーワークを利用することで業績を飛躍させている企業も多い。

 いま、関心を集めているのがDXによるネットワークの再構築であろう。これを実際に取り入れようとすると、企業が多種多様で複雑なため、自社にぴったりのDXが見つけられないのが現状である。システムを売り込むIT企業も自社プランに似わせようとするので、齟齬をきたす。推進役の政府自身のDXに関心もあるが…。

 

「ざっと、こんな内容だが、これでも一般には難しいね。政府が一番取り組みたいのがマイナンバーカードだろう。確かに住民票など、コンビニで取れるなど便利になったが、保険証や病歴、さらに預金通帳までヒモづけされると、情報の漏洩の懸念が高まると思う」

「そうですね。いまのままで間に合っていますのに、なぜ政府は拡大しようとするのですか」

「例えば、国民に一斉給付しようとする場合、全国民がマイナンバーを登録していたら瞬時に可能になるなど、メリットはあるだろう。ただ、ほかにも真の狙いがあるような気がするね」

「そのようなことはめったにないことでしょう。それに対してリスクが大き過ぎるような気がします」

「そうだよな…」

「デジタルより、国民は物価高に関心がありますよ」

「物価は本当にひどいことになっている」

「国民の収入はこの三十年、横ばいでしょう。年金暮らしの高齢者は物価スライド制をとっているなら、上がってもいいはずでしょう」

「人手不足といいながら、労働者の給料は上がらないのも不思議だね。労働者の転職が難しく、硬直化しているからだろう」

「これでは日本は三等国になりますね」

「ジャパン・アズ・ナンバーワンといわれたことは、昔の夢のようだね」

「今の若者は夢のような日本という国を知らないと思うと、悲しくなりますね」

「残念だけど、当分、上昇気流に乗ることはないだろうな」

「政治の責任も重いですね」

「政治家も若返り、二世議員は門戸を狭くしないと、期待できないね」

「そろそろ夕飯の用意をしますね」