ドラマは続く

  真三とるり子は久しぶりに街に出て、映画を観た後、百貨店のレストランに入り、早目の夕食にありついた。

「映画トップガン、どうだった」

「スピードが速く、ストーリーがよくわかりませんが、音楽ですか、音響がすごかったですね」

「臨場感があったと思う」

「たまに映画もいいですね」

「来週は『アルピニスト』というドキュメンタリー映画を見に行こう」

「山の映画ですか」

「そうだ」

 二人は食後の会話を楽しんだ後、家路についた。

 真三はひと風呂浴びた後、書斎に戻り、小説に目をやった。

 

「住友銀行(当時)はすごい銀行というだろう。他行と同じことをしていたら、あのようにはできないはず。儂の聞いている話では、支店長が率先垂範してよく動くという。就業規則では午前八時五十分始まりだそうだが、八時にその日の打ち合わせを済まして八時半には店を出て、九時には得意先に入っているということです。

 朝のうちに六軒から八軒回る方がいいに決まっている。あの住友がそんなことをやっているのに、当行が九時から打ち合わせして勝てるわけがない。」

 片桐は支店長を集めて叱咤激励をする。滋賀県大津市に本社を置く住友系の滋賀相互銀行がある。ある日、相互銀行協会の集まりが京都であった。

「片桐社長、えらいもんですなぁ」

 運転手の根上が会合を終えて車に乗り込んだ片桐にやや興奮しながら声をかける。

「どうしたんや」

「あのですね、滋賀相銀の運転手とお待ちしている間、しゃべっていたんですが、この車の倍走っているんですよ」

「なぜ、わかるんや」

「車の購入時期がだいたい同じなのに、走行距離が二倍近いんです」

「なるほど。滋賀の場合、得意先も広がっているだろうが、それにしてもすごい。やっぱり、住友銀行出身の社長はやりおるな」

 片桐はこの時、思った。軍隊も同じだ。小、中隊長が指揮をとり先頭を切って進んでいくと、どんな気の弱い兵隊でもついてくる。ところが、部隊の後ろで(行け、行け)と掛け声だけかけても動かない。支店では支店長がまず動かないとダメだ。上から下を三年間見ていてもよく分からないが、下から上は三年間もいると、分かるという。企業は上次第だというのは本当である。

 ところで住友銀行の真似を他行ではできないという。

なぜかというと、住友は長い間かかって、そういう体質を造り上げている。だから、他行で住友と同じようなことを強制したら、従業員から猛反発をくらうのが落ちである。だいたいが、銀行というところは保守的な体質をもっているから、急進的な改革をようやらない。

 住友銀行はかつて商社の安宅産業の倒産で二千億円のコゲ付き債券をかかえても、「ドブに捨てたと思ったらええ」と豪語できた裏には、こうした他行に追随を許さない体質に自信をもっているからだ。

 片桐は支店で話を続ける。

「それと、お客さんに頼まれたら約束の時間にはきっちり持って行く。これが大切なんだ。両替、満期の知らせなんか…。二年もしたら、必ず人気が出てくる。はっきり差が現れる」

 片桐は精鋭で勇猛果敢な外交部隊をつくることを目指した。

「支店長諸君、人をとことん使おうと思うたら、自分が裸にならんといかん。裸になるということは、ええかっこうしたらいかんということです。失敗した時、上に対しては自分のせいにする。言い訳をしたらあかん。部下には俺も悪いが、お前も悪いぞと同じ水準に立っていうことだ。成功したときは、部下のおかげを強調する。これを忘れたらあかん」

 河内弁の口調である。

 松下幸之助は偉い人だと片桐は思う。「来島どっく」の坪内寿夫のように途中で大きく崩れない。人生の最後まで完とうできた点を尊敬している。

 坪内も自宅を担保に入れてまで、佐世保重工などの再建に尽くしている。経営者として偉いと思うが、それを持続できないとダメである。ベンチャー的な経営に見えてくる。

 関西電力といえば公共事業だから、経営は超安定している。そこに昭和三十四年から君臨した芦原義重も掉尾を飾れなかった。権力が大きくなればなるほど、ピリオドの打ち方が難しいということである。

 欧米の経営者は決して自分の財産を失うまで経営に執着しないというか、のめり込まないところがある。日本の経営者は社会的責任を感じてなのか、最後まで自分を追い詰める。実際は個人保証させられているからだろうか、世間もそうしないことには承知しないと思える。確かに、日本の経営者には儒教の教えが浸透しているのも事実だろう。

 欧米では業績が良い場合も簡単に経営権を手放す。企業もモノと同じだとみる。企業に投資して儲かれば、売るのが当然だと考える。この辺りに、彼我の企業の差がつく真意があるように思う。欧米の経営者には日本的経営が非近代的に映るようだが、しかし企業には生身の人間が働いている。やはりそこにはモノでは計れない“心”がある。心をつかめないなら、軍隊でうしろにいて号令をかけるのと同じことになる。

 

 るり子がお茶をもって書斎に入ってきた。

「一服されては…」

「きりがいいから、そうしよう」

「またワクチンが変わるのですね」

「そのようだね。新型のオミクロンに対応するワクチンだということだが、前のワクチンも3回目で、4回目は副作用がきついと聞いたから打ってないよ。だいたい、こんなにワクチンを打っても大丈夫なのかな。岸田首相も4回目を打って、まもなく感染したというだろう。どうなっているのだよ。

 海外の映像を見ていると、マスクをかけている国は北朝鮮と日本ぐらいではないの?」

「この前、クリニックの医師がワクチンを打ってほしいと、やってきた人に、ワクチンは効かないと説得したが、どうしてもという人には生理食塩水でごまかしていたという報道がありましたね。これもどうかと思うのですが、ワクチンには疑問を抱いている専門家もいますね」

「利権が絡んでいるという人もいたよ。高齢者は重症化すると脅かされたものだから、まじめに打っているね」

「まじめにマスクしている日本が感染者数世界一というのは、どうも解せませんね」

「本当だね」

「ところでこんなコラムを見つけました。私の故郷にこんな列車が走っているのですね」

「そうか、知らなかったのか」

「故郷を離れてもう何十年も経つのですから…」

 るり子はコラムを真三に見せた。

 

観光列車(一年に一度、今まで行ったことがない場所に行きなさい=ダライ・ラマ)

 人口減、高齢化に伴い、鉄道、とりわけ地方路線の廃線が、地域の課題になっている。このため、地方自治体、沿線住民は継続して運行してほしいと、一体となって乗車率を上げようと努力している。なかなか解決策が見つからず、苦戦しているのが現状である。ただ鉄道は緊急物資や避難輸送にも役立つ重要なインフラである。そうした中で、九州西海岸を走る整備新幹線の完成に伴い、熊本県の八千代駅と鹿児島県の川内駅間の在来線を第三セクターの肥薩おれんじ鉄道に移管、さらに付加価値を付けようと、「おれんじ食堂」を走らせ関心を高めている。

 モーニング、ランチ、デイナーの3コースがあって、新幹線なら30分そこそこの時間で走るところを、4時間かけて途中4箇所の駅で10分ほど停車、地域のお土産をわたす。また特産品の購入、さらに現地レストランと提携して食事を提供。あくまで地域の活性化を目指している。

 九州新幹線はトンネルも多く、景色を楽しめないが、この列車では天草の海を眺めながらスローライフを満喫できる。人生100歳時代、こうした楽しみ方も一計であろう。地方路線はいかに付加価値を付けるかによって将来が見えてくる。

 

「確かにそうですね。もう小手先ではどうもならない気がします」

「人口減は止まらない。移民を考えなくてはならないが、日本人は長い間、単一民族国家だったから、相当うまくやらないと、失敗する。失敗したではすまされない。国が亡びるような課題である」

「これからの時代、日本は正念場を迎えますね」

「今の政府を見ていると、危なっかしいよ」

 るり子は一息ついたので、書斎を出ていった。

 

■岡田 清治プロフィール

1942年生まれ ジャーナリスト

(編集プロダクション・NET108代表)

著書に『高野山開創千二百年 いっぱんさん行状記』『心の遺言』『あなたは社員の全能力を引き出せますか!』『リヨンで見た虹』など多数

※この物語に対する読者の方々のコメント、体験談を左記のFAXかメールでお寄せください。

今回は「就職」「日本のゆくえ」「結婚」「夫婦」「インド」「愛知県」についてです。物語が進行する中で織り込むことを試み、一緒に考えます。

FAX‥0569―34―7971

メール‥takamitsu@akai-shinbunten.net

 

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ドラマは続く

 真三とるり子は久しぶりに街に出て、映画を観た後、百貨店のレストランに入り、早目の夕食にありついた。

「映画トップガン、どうだった」

「スピードが速く、ストーリーがよくわかりませんが、音楽ですか、音響がすごかったですね」

「臨場感があったと思う」

「たまに映画もいいですね」

「来週は『アルピニスト』というドキュメンタリー映画を見に行こう」

「山の映画ですか」

「そうだ」

 二人は食後の会話を楽しんだ後、家路についた。

 真三はひと風呂浴びた後、書斎に戻り、小説に目をやった。

 

「住友銀行(当時)はすごい銀行というだろう。他行と同じことをしていたら、あのようにはできないはず。儂の聞いている話では、支店長が率先垂範してよく動くという。就業規則では午前八時五十分始まりだそうだが、八時にその日の打ち合わせを済まして八時半には店を出て、九時には得意先に入っているということです。

 朝のうちに六軒から八軒回る方がいいに決まっている。あの住友がそんなことをやっているのに、当行が九時から打ち合わせして勝てるわけがない。」

 片桐は支店長を集めて叱咤激励をする。滋賀県大津市に本社を置く住友系の滋賀相互銀行がある。ある日、相互銀行協会の集まりが京都であった。

「片桐社長、えらいもんですなぁ」

 運転手の根上が会合を終えて車に乗り込んだ片桐にやや興奮しながら声をかける。

「どうしたんや」

「あのですね、滋賀相銀の運転手とお待ちしている間、しゃべっていたんですが、この車の倍走っているんですよ」

「なぜ、わかるんや」

「車の購入時期がだいたい同じなのに、走行距離が二倍近いんです」

「なるほど。滋賀の場合、得意先も広がっているだろうが、それにしてもすごい。やっぱり、住友銀行出身の社長はやりおるな」

 片桐はこの時、思った。軍隊も同じだ。小、中隊長が指揮をとり先頭を切って進んでいくと、どんな気の弱い兵隊でもついてくる。ところが、部隊の後ろで(行け、行け)と掛け声だけかけても動かない。支店では支店長がまず動かないとダメだ。上から下を三年間見ていてもよく分からないが、下から上は三年間もいると、分かるという。企業は上次第だというのは本当である。

 ところで住友銀行の真似を他行ではできないという。

なぜかというと、住友は長い間かかって、そういう体質を造り上げている。だから、他行で住友と同じようなことを強制したら、従業員から猛反発をくらうのが落ちである。だいたいが、銀行というところは保守的な体質をもっているから、急進的な改革をようやらない。

 住友銀行はかつて商社の安宅産業の倒産で二千億円のコゲ付き債券をかかえても、「ドブに捨てたと思ったらええ」と豪語できた裏には、こうした他行に追随を許さない体質に自信をもっているからだ。

 片桐は支店で話を続ける。

「それと、お客さんに頼まれたら約束の時間にはきっちり持って行く。これが大切なんだ。両替、満期の知らせなんか…。二年もしたら、必ず人気が出てくる。はっきり差が現れる」

 片桐は精鋭で勇猛果敢な外交部隊をつくることを目指した。

「支店長諸君、人をとことん使おうと思うたら、自分が裸にならんといかん。裸になるということは、ええかっこうしたらいかんということです。失敗した時、上に対しては自分のせいにする。言い訳をしたらあかん。部下には俺も悪いが、お前も悪いぞと同じ水準に立っていうことだ。成功したときは、部下のおかげを強調する。これを忘れたらあかん」

 河内弁の口調である。

 松下幸之助は偉い人だと片桐は思う。「来島どっく」の坪内寿夫のように途中で大きく崩れない。人生の最後まで完とうできた点を尊敬している。

 坪内も自宅を担保に入れてまで、佐世保重工などの再建に尽くしている。経営者として偉いと思うが、それを持続できないとダメである。ベンチャー的な経営に見えてくる。

 関西電力といえば公共事業だから、経営は超安定している。そこに昭和三十四年から君臨した芦原義重も掉尾を飾れなかった。権力が大きくなればなるほど、ピリオドの打ち方が難しいということである。

 欧米の経営者は決して自分の財産を失うまで経営に執着しないというか、のめり込まないところがある。日本の経営者は社会的責任を感じてなのか、最後まで自分を追い詰める。実際は個人保証させられているからだろうか、世間もそうしないことには承知しないと思える。確かに、日本の経営者には儒教の教えが浸透しているのも事実だろう。

 欧米では業績が良い場合も簡単に経営権を手放す。企業もモノと同じだとみる。企業に投資して儲かれば、売るのが当然だと考える。この辺りに、彼我の企業の差がつく真意があるように思う。欧米の経営者には日本的経営が非近代的に映るようだが、しかし企業には生身の人間が働いている。やはりそこにはモノでは計れない“心”がある。心をつかめないなら、軍隊でうしろにいて号令をかけるのと同じことになる。

 

 るり子がお茶をもって書斎に入ってきた。

「一服されては…」

「きりがいいから、そうしよう」

「またワクチンが変わるのですね」

「そのようだね。新型のオミクロンに対応するワクチンだということだが、前のワクチンも3回目で、4回目は副作用がきついと聞いたから打ってないよ。だいたい、こんなにワクチンを打っても大丈夫なのかな。岸田首相も4回目を打って、まもなく感染したというだろう。どうなっているのだよ。

 海外の映像を見ていると、マスクをかけている国は北朝鮮と日本ぐらいではないの?」

「この前、クリニックの医師がワクチンを打ってほしいと、やってきた人に、ワクチンは効かないと説得したが、どうしてもという人には生理食塩水でごまかしていたという報道がありましたね。これもどうかと思うのですが、ワクチンには疑問を抱いている専門家もいますね」

「利権が絡んでいるという人もいたよ。高齢者は重症化すると脅かされたものだから、まじめに打っているね」

「まじめにマスクしている日本が感染者数世界一というのは、どうも解せませんね」

「本当だね」

「ところでこんなコラムを見つけました。私の故郷にこんな列車が走っているのですね」

「そうか、知らなかったのか」

「故郷を離れてもう何十年も経つのですから…」

 るり子はコラムを真三に見せた。

 

観光列車(一年に一度、今まで行ったことがない場所に行きなさい=ダライ・ラマ)

 人口減、高齢化に伴い、鉄道、とりわけ地方路線の廃線が、地域の課題になっている。このため、地方自治体、沿線住民は継続して運行してほしいと、一体となって乗車率を上げようと努力している。なかなか解決策が見つからず、苦戦しているのが現状である。ただ鉄道は緊急物資や避難輸送にも役立つ重要なインフラである。そうした中で、九州西海岸を走る整備新幹線の完成に伴い、熊本県の八千代駅と鹿児島県の川内駅間の在来線を第三セクターの肥薩おれんじ鉄道に移管、さらに付加価値を付けようと、「おれんじ食堂」を走らせ関心を高めている。

 モーニング、ランチ、デイナーの3コースがあって、新幹線なら30分そこそこの時間で走るところを、4時間かけて途中4箇所の駅で10分ほど停車、地域のお土産をわたす。また特産品の購入、さらに現地レストランと提携して食事を提供。あくまで地域の活性化を目指している。

 九州新幹線はトンネルも多く、景色を楽しめないが、この列車では天草の海を眺めながらスローライフを満喫できる。人生100歳時代、こうした楽しみ方も一計であろう。地方路線はいかに付加価値を付けるかによって将来が見えてくる。

 

「確かにそうですね。もう小手先ではどうもならない気がします」

「人口減は止まらない。移民を考えなくてはならないが、日本人は長い間、単一民族国家だったから、相当うまくやらないと、失敗する。失敗したではすまされない。国が亡びるような課題である」

「これからの時代、日本は正念場を迎えますね」

「今の政府を見ていると、危なっかしいよ」

 るり子は一息ついたので、書斎を出ていった。