姪の就職2

 二人は話題と言えばコロナのことばかりだ。

「それなのに聖火リレーはやるし、緊急事態宣言、飲食店の時短も解除するし、一方で患者が増加を続けている。世の中カオス(混沌)状態になっている。国民もどう行動したらいいのか、戸惑っている。季節もよくなれば外へ出て活動するのはいたしかたないなと思ってしまう。東京や関西、さらに愛知、福岡も加えられて三回目の緊急事態宣言を発出するなど混乱している」

「ワクチン接種ができれば本当にコロナ患者は減るのでしょうか」

「それは海外でも実証されているようだね」

「専門家の意見によりますと、減っても完全にゼロにはならないから、マスク、消毒の生活は続けなければならないそうですね」

「面倒なことだが、そうだろうな。花粉症やインフルエンザが流行る時期は、多くの人が予防対策するように、コロナについても数年間は予防対策が必要だろう。ワクチンだって、効果の持続期間によっては、あるいは変異種によって一年に何回も打たないといけなくなるだろう」

「そういうことであれば、ワクチンの国産化を進めないといけないですね」

「昨日、友人から次のようなメールが届いた。読んでみるかい」

「ぜひ、読ませてください」

 真三はパソコンを立ち上げメール画面を開き、るり子に見せた。

―日本の医療から見えてくるもの(恐れを抱いた心では、何と小さいことしかできないことでしょう=ナイチンゲール)

 いま、新型コロナワクチンの接種で話題沸騰している。量の確保、接種遅れや、副反応等の不安が消えない。そもそも医療水準が世界のトップレベルと言われてきたのに、どうして国産ワクチンができないの?という疑問が出ていた。また、ベッドの数が世界一、医師の数も少なくないのに医療現場はコロナ患者の増加で逼迫していると医療関係者は口を揃える。

 パンデミックでなぜ日本の医療の脆弱性が表面化したのだろうか。ここからは推測になるが、医療=儲かる職業とみられ、結婚相手に医師を選ぶ傾向が強い。医薬メーカーや大学等の研究機関もワクチンはコストだけかかかって儲からない上に、ワクチン訴訟がトラウマになって消極的になっているようだ。

 日本人の多くがカネまみれになっているように見える。子供が交通事故を起こすと、アメリカの親は「次からは気をつけなさい」というが、日本では「もう二度とクルマに乗らないで」と、挑戦意欲に差異が出ると言われる。どうも日本ではリカバリーチャンスが希薄で、すべてのベクトルがカネ亡者に向かっているように見える。このままの状態では三等国に成り下がるのも近い。

「本当にそうですね」

「オリンピック開催まで、政府も不安だろうな」

「これからどうなるか、心配ですね」

「よほどのことがない限り実施するだろう」

「ぼちぼち小説を読むよ」

 るり子はコーヒーカップをお盆に載せて書斎を出ていった。

 真三はまた、小説に向かった。

 山城相銀では原三郎に顧問料二百万円、交際費四百万円、融資指導料四百万円の計千万円を渡している。その上に今回、一千万円を取られた。その代わり心配された総会は一〇分で片付いた。

 片桐が社長に就任して間もないうちに、河原町支店の不正事件が発覚した。不正事件委は暴力団幹部も絡んでいるとみられ、京都府警捜査二課、同四課、中立売署が背任、恐喝容疑で本格捜査を始めたと京都新聞は伝えている。

 河原町支店長の堀井富雄(42)も原会計事務所の指導を受けていた。原を通じて京都市内の建設会社社長Aさん(35)の融資を頼まれ本店審査部へ相談せず担保も確認しないまま、Aさん振り出しの手形の裏書き保証して不渡りを出した疑い。その後も穴埋めするため、数回にわたり裏書き、不正融資額は三千万円に達した。片桐は不正融資を知るや、河原町支店長の堀井にただちに懲戒免職を言い渡した。

「橋本専務、すぐ大阪へ行って近畿財務局に報告してくれたまえ」

「わかりました」

「頼むよ」

「警察へはどういたしましょう」

「財務局の判断に任せよう」

 河原町支店の不正融資事件の発覚後、一週間もたたない木曜日の午後四時、取締役に就任して間もない秋元を片桐は社長室に呼んだ。十条温泉への融資について追及している。

「実は、一億円の融資をするように、原から頼まれています、今夕、その返事の期限なのですが…」

「断りなさい。儂は原を告訴する。すでに近畿財務局にも相談している」

「……」

「河原町支店に続いて、君のところが不正融資したとなると、当行も終わりだ」

「でも、断りますと原顧問に殺られます。顧問は狂気の沙汰なので、何をするかわかりません」

「君がまいた種なんだから…。儂が一緒に行ってもいいんだが…。総務部長の金山君が行くと言っているので安心したら、ええ」

「私がまいた種?、どういうことでしょうか」

「そうじゃないのか。原初子を原三郎に紹介したことを忘れたのか」

「原初子がどうかしたのですか」

「原初子が当行の株式三〇万株を原三郎のところへ持って行ったんだよ。だから、君も役員になれているんだよ。もし、あの時、原の要求を断ればお家騒動になり倒産したのかもしれないんだ」

「まさか。初子がどうして三〇万株も…」

 秋元は初子を抱いた夜のことを思い出そうとしていた。

―秋元さん。ハラサブロウて誰?

―あなたは一晩中、ハラサブロウの名前を寝言で言っていたものだから、うるさくて眠れなかったのよ。

―そうか。それはすまん。大切な人なんだ。原さんから毎日のように電話で山城相銀の株をもっと集めろといわれているものだから…。

―そんなに大事な人なの。

―もういいじゃないか。

―そうね。お風呂にはいってくるわ。

(そうか。あれ以来原三郎から株式集めの催促の電話が止まった。初子の仕業だったのか)

 秋元と金山の二人はタクシーで河庄双園に約束の午後七時にかけつけた。玄関を入ると、原がいつも使う部屋に通された。芸者数人が原の周囲に座っている。時々、笑い声が聞こえる。

 原はすでに相当、酔っている。部屋に案内された二人に盃をすすめる。先ほどまでキッヤキッヤと笑っていた芸者らも、ある種の緊張ムードを敏感に嗅ぎ取って、いまは黙って成り行きを見守っている。

「原さん、すみません。融資はできまへん」

 秋元は座布団を横に置きなおし、原の前で畳に顔をこすりつけて詫びた。

「なんだと――」

 原はふらつきながら立ち上がったと思うと、自分の膳を秋元めがけて蹴った。次の瞬間、秋元の額が血でにじんだ。芸者らはキャッという声を上げながら部屋を飛び出していった。金山が原をなだめるように体を持ち抱えるが、原は青ざめた顔を金山に押し付けてきた。

「片桐に伝えておけ。ただではすまんぞ――と」

 捨て台詞を残して原は、千鳥足で部屋から出ていった。

 ここまで読んだときに、るり子が書斎に入ってきた。

「一服されたらどうですか」

「そうだな。お茶を入れてくれるか」

「わかりました」

 そう言って、るり子はキッチンに戻り、お茶を盆にのせて、再び書斎に入ってきた。

 真三は一口、口に運んだ。

 るり子は心配顔で話し始めた。

「舞さんも、裕美さんからも連絡がありませんね」

「連絡がないということは無事だろうという知らせだろう」

「そうですけど、インドのコロナ感染も大変なようですね」

「テレビで放映されるのは、極端な密集場面ばかりだから、あれでは感染が広がると思ってしまうな」

「確かに日本の密集とは規模も密接度もケタ違いに見えます。舞さんのおられるバンガロールですか、どうなんでしょうね」

「あそこは国際都市だから、無秩序ではないとは思うが…」

「そうですか」

「インドの人口も日本の一〇倍以上だけど、日本の感染者数は増えていると言っても少ないね」

「やはり衛生意識が高いからでしょうか」

「変異ウイルスがやっかいだね。すでに関西や宮城(後に解除)では急拡大しているのも、変異ウイルスのためだといわれている」

「東京や名古屋も時間の問題ですか」

「競泳の池江璃花子選手が白血病から復帰して東京オリンピックのメドレーリレーの代表に内定した。すごい朗報だよ」

「そうですね」

「こういうニュースは国民に元気をくれるね」

 二人はしばらく雑談を続けた。

 

■岡田 清治プロフィール

1942年生まれ ジャーナリスト

(編集プロダクション・NET108代表)

著書に『高野山開創千二百年 いっぱんさん行状記』『心の遺言』『あなたは社員の全能力を引き出せますか!』『リヨンで見た虹』など多数

※この物語に対する読者の方々のコメント、体験談を左記のFAXかメールでお寄せください。

今回は「就職」「日本のゆくえ」「結婚」「夫婦」「インド」「愛知県」についてです。物語が進行する中で織り込むことを試み、一緒に考えます。

FAX‥0569―34―7971

メール‥takamitsu@akai-shinbunten.net

 

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姪の就職2

 二人は話題と言えばコロナのことばかりだ。

「それなのに聖火リレーはやるし、緊急事態宣言、飲食店の時短も解除するし、一方で患者が増加を続けている。世の中カオス(混沌)状態になっている。国民もどう行動したらいいのか、戸惑っている。季節もよくなれば外へ出て活動するのはいたしかたないなと思ってしまう。東京や関西、さらに愛知、福岡も加えられて三回目の緊急事態宣言を発出するなど混乱している」

「ワクチン接種ができれば本当にコロナ患者は減るのでしょうか」

「それは海外でも実証されているようだね」

「専門家の意見によりますと、減っても完全にゼロにはならないから、マスク、消毒の生活は続けなければならないそうですね」

「面倒なことだが、そうだろうな。花粉症やインフルエンザが流行る時期は、多くの人が予防対策するように、コロナについても数年間は予防対策が必要だろう。ワクチンだって、効果の持続期間によっては、あるいは変異種によって一年に何回も打たないといけなくなるだろう」

「そういうことであれば、ワクチンの国産化を進めないといけないですね」

「昨日、友人から次のようなメールが届いた。読んでみるかい」

「ぜひ、読ませてください」

 真三はパソコンを立ち上げメール画面を開き、るり子に見せた。

―日本の医療から見えてくるもの(恐れを抱いた心では、何と小さいことしかできないことでしょう=ナイチンゲール)

 いま、新型コロナワクチンの接種で話題沸騰している。量の確保、接種遅れや、副反応等の不安が消えない。そもそも医療水準が世界のトップレベルと言われてきたのに、どうして国産ワクチンができないの?という疑問が出ていた。また、ベッドの数が世界一、医師の数も少なくないのに医療現場はコロナ患者の増加で逼迫していると医療関係者は口を揃える。

 パンデミックでなぜ日本の医療の脆弱性が表面化したのだろうか。ここからは推測になるが、医療=儲かる職業とみられ、結婚相手に医師を選ぶ傾向が強い。医薬メーカーや大学等の研究機関もワクチンはコストだけかかかって儲からない上に、ワクチン訴訟がトラウマになって消極的になっているようだ。

 日本人の多くがカネまみれになっているように見える。子供が交通事故を起こすと、アメリカの親は「次からは気をつけなさい」というが、日本では「もう二度とクルマに乗らないで」と、挑戦意欲に差異が出ると言われる。どうも日本ではリカバリーチャンスが希薄で、すべてのベクトルがカネ亡者に向かっているように見える。このままの状態では三等国に成り下がるのも近い。

「本当にそうですね」

「オリンピック開催まで、政府も不安だろうな」

「これからどうなるか、心配ですね」

「よほどのことがない限り実施するだろう」

「ぼちぼち小説を読むよ」

 るり子はコーヒーカップをお盆に載せて書斎を出ていった。

 真三はまた、小説に向かった。

 山城相銀では原三郎に顧問料二百万円、交際費四百万円、融資指導料四百万円の計千万円を渡している。その上に今回、一千万円を取られた。その代わり心配された総会は一〇分で片付いた。

 片桐が社長に就任して間もないうちに、河原町支店の不正事件が発覚した。不正事件委は暴力団幹部も絡んでいるとみられ、京都府警捜査二課、同四課、中立売署が背任、恐喝容疑で本格捜査を始めたと京都新聞は伝えている。

 河原町支店長の堀井富雄(42)も原会計事務所の指導を受けていた。原を通じて京都市内の建設会社社長Aさん(35)の融資を頼まれ本店審査部へ相談せず担保も確認しないまま、Aさん振り出しの手形の裏書き保証して不渡りを出した疑い。その後も穴埋めするため、数回にわたり裏書き、不正融資額は三千万円に達した。片桐は不正融資を知るや、河原町支店長の堀井にただちに懲戒免職を言い渡した。

「橋本専務、すぐ大阪へ行って近畿財務局に報告してくれたまえ」

「わかりました」

「頼むよ」

「警察へはどういたしましょう」

「財務局の判断に任せよう」

 河原町支店の不正融資事件の発覚後、一週間もたたない木曜日の午後四時、取締役に就任して間もない秋元を片桐は社長室に呼んだ。十条温泉への融資について追及している。

「実は、一億円の融資をするように、原から頼まれています、今夕、その返事の期限なのですが…」

「断りなさい。儂は原を告訴する。すでに近畿財務局にも相談している」

「……」

「河原町支店に続いて、君のところが不正融資したとなると、当行も終わりだ」

「でも、断りますと原顧問に殺られます。顧問は狂気の沙汰なので、何をするかわかりません」

「君がまいた種なんだから…。儂が一緒に行ってもいいんだが…。総務部長の金山君が行くと言っているので安心したら、ええ」

「私がまいた種?、どういうことでしょうか」

「そうじゃないのか。原初子を原三郎に紹介したことを忘れたのか」

「原初子がどうかしたのですか」

「原初子が当行の株式三〇万株を原三郎のところへ持って行ったんだよ。だから、君も役員になれているんだよ。もし、あの時、原の要求を断ればお家騒動になり倒産したのかもしれないんだ」

「まさか。初子がどうして三〇万株も…」

 秋元は初子を抱いた夜のことを思い出そうとしていた。

―秋元さん。ハラサブロウて誰?

―あなたは一晩中、ハラサブロウの名前を寝言で言っていたものだから、うるさくて眠れなかったのよ。

―そうか。それはすまん。大切な人なんだ。原さんから毎日のように電話で山城相銀の株をもっと集めろといわれているものだから…。

―そんなに大事な人なの。

―もういいじゃないか。

―そうね。お風呂にはいってくるわ。

(そうか。あれ以来原三郎から株式集めの催促の電話が止まった。初子の仕業だったのか)

 秋元と金山の二人はタクシーで河庄双園に約束の午後七時にかけつけた。玄関を入ると、原がいつも使う部屋に通された。芸者数人が原の周囲に座っている。時々、笑い声が聞こえる。

 原はすでに相当、酔っている。部屋に案内された二人に盃をすすめる。先ほどまでキッヤキッヤと笑っていた芸者らも、ある種の緊張ムードを敏感に嗅ぎ取って、いまは黙って成り行きを見守っている。

「原さん、すみません。融資はできまへん」

 秋元は座布団を横に置きなおし、原の前で畳に顔をこすりつけて詫びた。

「なんだと――」

 原はふらつきながら立ち上がったと思うと、自分の膳を秋元めがけて蹴った。次の瞬間、秋元の額が血でにじんだ。芸者らはキャッという声を上げながら部屋を飛び出していった。金山が原をなだめるように体を持ち抱えるが、原は青ざめた顔を金山に押し付けてきた。

「片桐に伝えておけ。ただではすまんぞ――と」

 捨て台詞を残して原は、千鳥足で部屋から出ていった。

 ここまで読んだときに、るり子が書斎に入ってきた。

「一服されたらどうですか」

「そうだな。お茶を入れてくれるか」

「わかりました」

 そう言って、るり子はキッチンに戻り、お茶を盆にのせて、再び書斎に入ってきた。

 真三は一口、口に運んだ。

 るり子は心配顔で話し始めた。

「舞さんも、裕美さんからも連絡がありませんね」

「連絡がないということは無事だろうという知らせだろう」

「そうですけど、インドのコロナ感染も大変なようですね」

「テレビで放映されるのは、極端な密集場面ばかりだから、あれでは感染が広がると思ってしまうな」

「確かに日本の密集とは規模も密接度もケタ違いに見えます。舞さんのおられるバンガロールですか、どうなんでしょうね」

「あそこは国際都市だから、無秩序ではないとは思うが…」

「そうですか」

「インドの人口も日本の一〇倍以上だけど、日本の感染者数は増えていると言っても少ないね」

「やはり衛生意識が高いからでしょうか」

「変異ウイルスがやっかいだね。すでに関西や宮城(後に解除)では急拡大しているのも、変異ウイルスのためだといわれている」

「東京や名古屋も時間の問題ですか」

「競泳の池江璃花子選手が白血病から復帰して東京オリンピックのメドレーリレーの代表に内定した。すごい朗報だよ」

「そうですね」

「こういうニュースは国民に元気をくれるね」

 二人はしばらく雑談を続けた。