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　私は、親が作ってくれた食事などで好き嫌いは全くなかった。給食も。
　ところが中学の頃、嗜好品的なもので食べれないものがあることに気付いた。
　まずチーズ、『不味さの極み』だった。しかし、あのころの私は「外国チックで上流的なイメージ」への憧れが勝り、これは自分の嗜好がおかしいのではと思った。親に内緒でチーズを買ってきて、夜な夜な家の外で少しずつ我慢しながら食べた。自分が上流の人間になっていく生意気さが快く、食べれるようになった。チョコレートもコーラも同じくだ。

　コーヒーに至っては恥ずかしながら社会人になってから。夜な夜な。克服。
　酒盗、ある紀行文で至高の肴と知った。イカの塩辛は大好物だったので、早速買ったが生臭くてひと箸も受け付けず。こんなはず無いと、いろんなブランドを試してみたが駄目だった。１０年くらい経ったころもやっぱりダメだった。その２０年後、なぜかまた手が伸びた。なんと『超美味い！』ではないか。
　その経験から、年数を経ると嗜好が変化するということを実感した次第。ずっと合わなかったバーボンもしかり。西部劇を見た後でなんとなく買ってしまって『うまっ！』。

　ごく最近はオートミール。口に合わず賞味期限切れで廃棄というのが何十年も続いていたが、先日、妻の反対を押し切って懲りずに買ってしまった。
　箱には「オートミールの“米化”」なるレシピ。３０ｇに水５０ml、６００Ｗで１分。早速試した。なんと『美味い！』『甘み感がある』のだ。年を経て克服。
　「貧乏人は麦を食え」（池田勇人、昭和２５年）は、国会での発言がマスコミに真意が伝わらず〈切り取られて〉暴言として報道され流行語になったという。
　「池田総理！！　今は麦食の方が米より値段が高いんですが‥」（笑）
　あれこれ言ってはみたが、イカスミだけは今でもなお克服できず。（涙）

伊藤　明德

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