祖父は、孫に優しかった。毎週土曜日には孫たちが集まり、一人ずつ祖父に「ごきげんよう」と挨拶に行った。そうすると祖父は「よう来られたな」と頭をなでながら、梅干し飴を口に入れてくれた。「来られた」と、孫にも丁寧なことばを使う人だった。渋沢について書かれた文書によると、どんな時も、どんな人にも丁寧なことばを使っていたようだ。
矜持をもって生きた渋沢栄一精神のどんな点を受け継いでいるか聞いてみた。「祖父と同じように、世界が平和でなければみんなの幸せはなく、みんなが幸せにならなければ自分も幸せにはなれないと考えてきました」。祖父が亡くなったとき、「これで戦争をやめさせる人がいなくなった」と言った人がいた。徹底した平和主義者だった。
感謝の気持ちで生きる
講演会で、高齢者がイキイキと生きる秘訣を聞かれることが多い。「もちろん体にいいことをすることも大事だが、すべてに感謝して生きる心が大事」と話す。
思ってはいても感謝の気持ちは、ついつい忘れがちになる。忘れないために家中に「ありがとう」と書いた紙を貼って意識するようにした。トイレに入って、「ありがとう」の紙を目にすると、つつがなく排泄できることにも感謝出来る。「当たり前のことと思ってしまいがちだが、食べ物を体の栄養にするものと排泄するものに分けるなんてすごいこと」。「私はこの体を神様からお借りしているものと心して、いつもありがとうと感謝の気持ちをもっています」。
2階から階段を降りていたとき、足を踏み外して骨折したときも、思わず「頭を打たずにすんで、ありがとう」と口をついて出たそうだ。
鮫島さんは、最近、9人組の組織的な振り込め詐欺に、巧みに騙されてしまい、多額の損をしたが、不思議と落ち込まなかったという。「縁のないことは自分の周りに起きないと思うから、これで私自身の過去のマイナスエネルギーが出て行ったのかもしれないと思ったんです」。なんという人だろう…どんなマイナスのことにも意味があると考えられる人なのだ。
子育てに悩んでいた頃に「過去生」という言葉に出会い、今の人生は前世とつながっていて、周囲で起こることは、今の世で自分を磨くための応用問題ということに気づかされた。すべてに感謝の気持ちをもつためのトレーニングと受け止めた。張り紙を見ながら「ありがとう」と何度も口に出していたら、感謝する気持ちがあとから心に落としこまれると気づいた。習慣的にありがとうと言っていると、脳のほうが「そうだ。感謝しなくては」と思うようになるらしい。問題が起こると「相手のほうが悪い」と思いがちだが、「憎い相手や意地悪な相手こそ、自分をレベルアップさせるために悪役を演じてくれる大事な存在として、感謝している」。
純子(すみこ)という名は、祖父がつけてくれた。「純なるかな 純なるかな」と命名書にある。財産も名誉もあの世に持っていけない。持っていけるのは、この世で身につけた「想いの習慣」だけ。純粋な心の持ちようは、アンチエイジングの極めつけなのだと、鮫島さんと話していて確信した。
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