ようやくボリショイデビューの日がやってきた。余りにも役がこないので、「役を下さい」と直訴したら、「猿」の役ならあるといわれた。妻にはやめたほうがいいと言われたが、動物園に行って、猿を観察して臨んだ。「生き生きとした猿」と評判になった。
その役がきっかけで認められ、役がつくようになった。父にも「世界一の道化になれ」と励まされた。
弱みを強みに変えた
岩田さんは、ボリショイで準主役クラスの第1ソリストという立場を獲得した。岩田さんの踊る役は、キャラクターダンスが中心だ。感情を動作で表現し、音楽を踊りによって視覚化する。難しいがやりがいのあるポジションだ。単なる脇役ではない。自分の役柄や、存在を深く考えさせられる。振付師の仕事にも役立つ。
「白鳥の湖」の道化役や「くるみ割り人形」の悪魔の役は、演じていても楽しい。客が喜んでくれ、印象に残る。拍手が沢山もらえる役は、脇役にもある。自分の眼で感じたものを心の栄養にする。「背が低いことは、僕の身体に与えられたこと。それを自分の魅力に変えられた。弱みは最大の強みになる」
『ロミオとジュリエット』は、クラシックバレエの名作中の名作だ。ドラマティック・バレエ(ロシア・バレエ)の最高峰ともいわれる。
バレエは、フランス、イギリス、アメリカ、そしてロシア…それぞれ表現の仕方が異なる。ロシア・バレエの特徴は、踊りは古典的な型があるが、演目にストーリー性があり、ダンサーに高い表現力が求められる。ドラマティック・バレエといわれるゆえんだ。
演者は、型通りに踊るだけでなく、本気で演技も出来なければならない。岩田さんが演じるマキューシオという役は、ジュリエットの兄に殺される。死をきっかけに、ロミオの一族とジュリエットの一族の対立が激化する。だから、死は、重要な場面だ。観客の気持ちを引き付ける死ぬ時の踊りが見せ場だ。岩田さんは「跳躍や回転」だけでなく、目の演技で、死を表す。目の光が、徐々に失せていくというリアルな死を演じる。客席から見ていて、わかるかわからないか微妙なところにも腐心する。そこに岩田さんの真骨頂がある。
40を過ぎ、体力気力の限界と闘ってきた。50歳までは現役で踊りたいと思っていたが、第一線を退くことを決めた。自分を育んでくれたボリショイを退団し、振付師に専念する。そして日本とロシアの懸け橋になろうと意識している。
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