「あなたは、まだ若いから知らないでしょうが、悲しみにも終わりがあるのよ」。
時間をかけて悲しみと向き合い、悲しみと存分につきあった上で、すべてをひっくるめて生きていれば、いつかは必ず立ち直れる。そう教えてくれた人が、いねむり先生だった。
誰のそばにも「いねむり先生」
最新刊の小説のタイトルは『いねむり先生』。
サブローという男が女優の妻を病気で亡くし自暴自棄となっているときに、いねむり先生に出会い、ともに時を過ごしていくなかで希望を取り戻していく物語だ。自叙伝的な小説で、サブローは伊集院さん、妻は夏目雅子さんのことだ。
そしていねむり先生は、作家にしてギャンブルの神様と言われた色川武大さん(阿佐田哲也さん)だ。色川武大の名で『狂人日記』などの純文学小説を書き、阿佐田哲也の名で『麻雀放浪記』などの大衆小説を書き、"雀聖"としても讃えられた。
色川さんは、何かしている途中でも突然眠ってしまうナルコレプシーという睡眠障害の持病があった。小説の冒頭に「その人が眠っているところを見かけたら、どうかやさしくしてほしい。その人はボクらの大切な先生だから」と書かれている。
いねむり先生は、時々いねむりしながらも、伊集院さんの傍らにいてくれた。色川さんのように、損得勘定なしで人に優しく寄り添うことが、今の時代に必要なのではという思いが込められている。
震災があり、原発事故があり、終わりの見えない絶望感にひたされている人がたくさんいるが、誰にも「いねむり先生」のような存在はいるはずだ。助けを求め、手をさし出せば、その手を握ってくれる人がいるはずだ。自分ではどうにも出来ないことに巻き込まれた人に、手を差し伸べるのは、人間としてあたりまえの使命だと、伊集院さんは直言する。
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