骨になった父のエネルギー
その父が今年4月25日、突然脳卒中で亡くなった。
そのときの気持ちを石野さんはホームページに、こう書いている。
「私を世界で一番愛していた人がいなくなっちゃった。死ぬのが怖いと泣いてすがりつく私に『大丈夫や、お前一人で逝かせたりしない。お父ちゃんが一緒に逝ったる。心配するな。安心してどーんと生きろ』と抱き締めてくれた私の愛するととう(父)。周りの人には、『俺が先に逝ってあいつが迷わないようにしたるんや』と言っていたそうです。ととうは順番をまもってくれたのかも知れません。ととうは、人を愛することの素晴らしさや、人を区別や差別せず愛し合うことの大切さを態度で教えてくれた。私は世界で一番素敵なととうとおかたん(母)の子どもに生んでもらえたことを誇りに思いました」
石野さんは、骨になった父がエネルギーをくれたとも話す。
火葬場の人が「素晴らしい骨だ」と褒めてくれた。父に似た骨太が嫌だったが、しっかりした父の骨を改めて見て、堂々としていると思った。その父に負けないで生きなきゃと思った。「歌わなきゃ。父は私の体の中に生き続けてくれているんだから」
今年7月16日、病身を押して、大阪のライブハウスのステージに立った。3時間のライブをこなした。22曲を歌い切った。病気を抱えている人、哀しみを抱えている人たちと、思いを共感し合いたいと歌ったが、自分も勇気づけられ、元気づけられた。
ジャズを教わった師匠の一人に、ジャズ歌手の伊藤君子さんがいる。伊藤さんの歌った『フォローミー』は、全米チャートにも入り、ジャズの本場アメリカでも注目される実力派歌手だ。出会いは、神戸のジャズ教室だ。
7月16日の大阪でのライブを伊藤さんは、2回とも見た。ベテランの伊藤さんも、石野さんの歌う姿を見て「健康な自分に甘えず、これが最後という気持ちで歌いたい。病を抱えながら、ユーモアを忘れないのも見上げたものだ」と思った。
石野さんが寝る前に、必ず言う言葉がある。「ありがとう」。その一日に感謝して「ありがとう」と言っている。朝になっても目が覚めないと「ありがとう」と言えないかもしれないからと、はじめた習慣だ。
石野見幸さんは、11月8日午後3時に亡くなった。生き切った。
石野さんが最後にホームページに書き込んだ言葉も「ありがとう」だった。「みんな、愛しています。そして愛してくれてありがとう」
見幸さんのこと、いつまでも忘れないよ。
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