オーケストラの善し悪しは、オーエを聞けばわかると言われる。ストイックにオーボエの奥義を求め続けた宮本さんは、エッセン市立交響楽団、フランクフルト放送交響楽団、ケルン放送交響楽団と、いずれのオーケストラでも首席オーボエ奏者を務めた。本人は優秀だとか首席だとか言われると大照れに照れるが、どれだけ謙遜しようと、「首席」という実績は動かしようがない。
1999年に、ケルン放送交響楽団の首席奏者という立場に、自らの意思で別れを告げ帰国した。一演奏家として、国内での活動を展開する。
遺伝子を伝える
かつて宮本さんは、「オーボエは、自分の心の翻訳機」と言っていた。その心を表現出来る道具が人前で使えなくなるが大丈夫かと、聞いてみた。
「演奏していると、自分の生きざまが表れる。自分の中で一番大事なことを音にして、聴く人と魂のやりとりが出来る喜びが、オーボエを通しては出来なくなる。だけど違う形でもそれは可能なはずだ」と明快な答えが返ってきた。
これからは、東京音楽大学教授として、「自分の体を実験台にして開発した方法」を伝えていくことになる。
ドイツであるご婦人から「あなたはヴィンシャーマンの弟子か」と当てられたことがあった。「その一言を聞いて、知らず知らずのうちに師匠の遺伝子が入り込んでいることに気づいて嬉しくなった」
宮本さんも自分の遺伝子を伝えたいと思っている。「これから新しく起こることにわくわくしている」
引退にありがちな湿っぽさは、どこにもなかった。
|