海外の旅この指とまれちょっとおじゃまします元気のでてくることばたち
ちょっとおじゃまします
 工房は何となく冷たい空気の中、電動轆轤の音が静かに響いている。恰幅のいい強面のおじさんという私の幼い頃の曖昧な記憶だけをたよりに拍水さんの工房を訪ねた。やっぱり、私の幼い頃に出合った以前と変わらない恰幅のいい強面のおじさんは健在だった。少しずつお互いの緊張は解け、いつしか笑った顔は強面のおじさんには不釣合いなくらい、とびっきりの笑顔を見せてくれた。
 焼き物というものが仕事と関係なければ、たぶん突っ走ってしまっているだろう。泥の塊から一つの作品が出来る。仕事でなければ、こんなにも楽しいことはないと、拍水さんはきっぱりと断言する。でも、生活がかかっているから楽しくないなぁーと、ボヤキとも聞こえることをボソッともらした。
 拍水さんは急須だけを作る職人だ。作り続けて半世紀を迎えようとしている。拍水さんの急須は朱泥、黒泥、窯変とさまざまだ。「こういうのは珍しいんだよ」と見せてくれた。
 朱泥の急須には、幾何学模様の他に、『茶禅一味』(心を無にして茶をのみ、味わいのあること)と彫られている。彫りは趣味でやっている。出来上がった時の満足感が好きで、根気よくやっているのだという。
 拍水さんの職人としての人生は周りから多くの刺激を受け、いい影響を与えてくれたように、拍水さんの急須も誰かの心に響いてほしい。そんな願いもあって、拍水さんらしいストレートな表現で『茶禅一味』と彫ったのだろう。作品は職人のすべてを語ってしまうものだという。急須は、その人の美意識も生き方も表現してしまう。拍水さんの人柄が好きで、作品も好きで、毎年作品を購入する人が少なくないと聞く。
 時間を忘れて作陶に没頭してしまう。その原動力は奥さまと出かけるバス旅行と食べ歩き。食べ歩きは毎日を頑張るエネルギー補給だという。そして、常滑の春祭りという。自前の法被をもっている程の力の入れようだ。
(赤井伸衣)