海外の旅この指とまれちょっとおじゃまします元気のでてくることばたち
ちょっとおじゃまします
 話し始めた瞬間から、この人は旬の人を意識していると思わせるかのように、北島康介選手を連想させる程の自信がみなぎっていた。その人は前川淳蔵さんである。私が訪ねたその日は、くしくも北島康介選手2大会連続金メダルで歓喜に沸いていた北京オリンピックの真っ只中であった。彼自身も北島康介選手によく似ていると言われ、自負しているようだ。
 彼は、窯屋の長男として生まれた。祖父・父は、常滑焼の大物ヨリコ作りの職人だ。物を作るのが大好きな少年だった。物を作る材料として、身近にあった土を選んだ。大学卒業後は、京都、瀬戸に6年間修業した。「瀬戸には土が豊富にあり、自分で土を掘り、自然にふれ合うことが楽しかった」と、当時を回想しながら話す。現在、彼が得意とする濃い織部は瀬戸で覚えたものだという。釉薬の調合を覚えると、作品のレパートリーは驚くように増え、腕前も確実に上がった。そして、土に自分をさらけ出すことは、すごく心地よいという。自分が作りたいもの、自分が伝えたいもの、残したいもののため、温故知新の精神で彼は日々、作陶に励んでいる。
 2008年、陶芸家として本格的に活動し、この夏は2人展を開いた。そこで、彼の作る織部のビアカップを持ってみた。持つ指先に土の温かさを感じながら、自信のみなぎった彼の笑顔を思い出し、彼が「何も言えない」とでも叫んでいるかのような、とてもこっけいで不思議なビアカップとの出合いだった。そのビアカップを私は、遠方の友人に贈った。その友人は、そのビアカップで毎晩晩酌を楽しんでいる。
 アウトドア派の彼は、小型船舶操縦2級免許証をもつ。彼の趣味は、釣り。時に、広い海からアイデアをもらうという。
 今月3 日(金)から19日(日)まで、「常滑・瀬戸・美濃の若手十人展」をDO LIVING ISSEIDO≠ナ、グループ展を予定している。自信のみなぎった彼の笑顔に出合い、こっけいで不思議な作品に出合うことができるかもしれない…。
(赤井伸衣)