海外の旅この指とまれちょっとおじゃまします元気のでてくることばたち
ちょっとおじゃまします
 彼は画家の父とピアノ講師の母をもち、大都会の東京で生まれ育った。彼いわく、芸術道楽の一家と。その青年は、ゆったりとした心をもち、油絵に没頭し、大学・大学院時代を過ごした。
 大学院卒業を間近に控え、ぶらっと出掛けた美術館で季朝時代の焼き物に、大きな感動と強い決意を覚えたという。彼は、「この季朝時代の焼き物をおおらかで素朴、肩の力が抜けていて自由」と、その時の感動を話した。季朝時代の井戸茶碗や唐物茶入などは古美術を愛する人の間で、今もなお高く評価されているという。
 この季朝時代の焼き物に出合って、まもなく、唐津・備前・常滑と焼き物の里巡りに出掛け、陶芸家を目指す友人宅にも寄った。ロクロを引かせてもらった瞬間のドキドキ・わくわく感は、彼を陶芸へと一気に惹きつけた。2000年、独学で焼き物を本格的に始めた。朝起きて、夜寝るまでロクロを引いた。口下手な彼は自分を表現できるものは、焼き物しかないと考えた。
 東京から常滑に来て、まず、友だち欲しさに毎日、名刺を配った。その中の一人が、後の伴侶となった女性だと披露してくれた。そして、現在は「土をいじるのにハマってしまい、その延長上にいる。土が伸びる感触が好き。ロクロが面白い」という。
 彼の作り出す作品は、どれも計算されたもののように見えてしまう。焼きあがりの渋い皿は、ゆっくりと手に取って味わってみたくなる作品の一つだ。けれども、彼にはイメージがはっきりしているのに、出てくるものは違う。納得しないから作るという。土というシンプルな素材の良さをそのままに、季朝時代の焼き物に田鶴濱守人という個性を味付けすることで、彼のアイデンティティーを表現できたら…と、彼の冒険は始まったばかりだ。
 疲れた体を癒やしてくれるのは、「焼酎を片手に天体観測。月見酒」という。ぐい呑み片手に、次の作品のデッサンも忘れない。
 「生活は苦しいけれど、とことん、やってやろうかなぁ。自分が納得するまで」と、彼の意気込みは、きっと、大輪の花を咲かせてくれると、信じたい。
 11月28日(水)から12月8日(土)まで、奈良県北葛城郡広陵町「陶屋なづな」で個展を予定している。
(赤井伸衣)