海外の旅この指とまれちょっとおじゃまします元気のでてくることばたち
元気のでてくることばたち 村上信夫NHKアナウンサー

自分が闘う相手
 世界でも指折りのフリーダイバー岡本美鈴さんは、去年、世界選手権で92メートルをマークし、見事優勝した。
 1973年、東京都生まれ。30歳でフリーダイビングを始め、3年後の2006年には61メートルの日本記録を樹立。去年記録した92メートルは、世界歴代3位。世界選手権では金メダル3個(個人1、団体2)を含む計7個のメダルを獲得している。海の環境を守る活動にも積極的に取り組んでいる。
 対談は、神奈川県真鶴町で行った。フリーダイビングを始めて以来、岡本さんは、ほとんど真鶴で潜ってきた。真鶴は岸の近くに水深一〇〇メートルの深い場所があり、ダイビングの聖地ともいわれている。

 岡本さんは人と競争するのが得意ではなかった。中学時代は卓球部だったが、自分を倒そうとしている相手の気配に耐えられなくて、気持ち負けしていた。その点、フリーダイビングは闘う対象が自分なので、心技体を鍛えていくと自分の進化が数字になって現れてくる。それがすごく面白かった。
 フリーダイビングは、いわゆる素潜り。呼吸を止めて潜水の深さを競う。水面にうつぶせになって浮いて、何分息を止められるかという競技もある。練習すると誰でも1分以上、最高7分くらい息を止められるようになるという。生物はもともと海から生まれたという遠い記憶を思い出させてくれるスポーツでもある。
 全身の筋肉を弛緩させ、目を閉じて浮いているだけで、皮膚と水、水と空気、空気と宇宙の境目もなくなって、自然や宇宙と一体になった感覚がある。「潜ると、空を自由にはばたく鳥になったような気分です」。

命に関わる出来事
 僕は1995年の3月20日、NHKのニューススタジオで地下鉄サリン事件の第一報を伝えた。詳しい情報がなかなか入らず、緊張して胃が痛くなったことを覚えている。そのとき岡本さんは、当時勤めていた会社への通勤途上、あの地下鉄に乗っていて被害に遭った。築地駅で地下鉄が止まり、降りたホームでサリンを吸ってしまった。
 あの日はたまたま先頭車両に乗っていて、駅の出口に近かったので早く外に出られたことが幸いした。サリンがまかれた後部車両に、いつもと同じように乗っていたら、どうなっていたかわからない。「ニュースでしか見ないような事件が、ある日突然、自分にも降りかかることがあるんだと思い知らされました」。
 その翌年には大きな卵巣腫瘍が見つかって、手術をした。良性だったが、取り出したら5キロもあって、破裂寸前だったそうだ。破裂していたら即死だった。

 2年続けて、命に関わる経験をして人生観も変わった。
 「それまでは当たり前に明日が来る、来年があると思っていましたが、命には限りがあり、それが今日かもしれないと考えるようになりました。だからやりたいことは、すぐ実行しようと」。
 そんな思いにかられていた矢先、ダイビングと出合った。小笠原の海でイルカと一緒に泳ぐ人のテレビ番組を見て、イルカと泳ぎたいと思った。そして、すぐさま小笠原に飛んでいった。通ううちに、少しずつ潜れるようになってきた。偶然にもフリーダイビングの日本代表選手と飛行機で隣の席になり、その魅力を聞き、真鶴で活動しているサークルを紹介してもらった。ダイビングへの道は、自然に開かれていった。

我らはでくなり
 ダイビングを始めて、変わった。
 「昔は目の前の小さなことに振り回されて、舞い上がったり落ち込んだりしていましたが、ものの見方が変わってきたと思います。以前は人から嫌なことをいわれるとイラッとしていたのに、いまは客観的に自分を見ているもう一人の自分がいる。あれ? 私はいまイラッとしたな。なんでイラッとしたんだろうと。あれこれ考えているうちに、気持ちが落ち着いてきます」。緊張したり感情が高ぶったりすると、酸素の消費量も多くなるというから、平常心が求められる。
 「言葉で自分を作っていく。言葉で自分を引っぱり上げていく。潜るときは集中して進むんですが、帰りは疲労がたまって体が動かなくなります。しかも浮力より沈んでいく重力のほうが大きいので、強くキックしなければならない。水深60メートルくらいで一度体の限界がやってくるので、誰もいないところで体も心も折れそうになります。そういうときに、自分に言葉をかけて気合いを入れると体が動くんです。『みんなに会いたい!会いに行くから待ってて!』と。極限状態になると、いろんな人の顔が浮かんでくるんですよ」。
 海の中にいると、いろんなことに敏感になる。視界のかすかな変化、身体の中の音の聞こえ方、心境の変化…かすかな兆候も見逃さなくなる。そして潜水から浮上した時、「呼吸出来る」というシンプルな喜びが湧く。
 明日がなかったかもしれない経験をしたからこその実感なのだろう。「ギリギリの状態になるので。一度極限のところまで行って帰ってくると、生きていることのありがたさがわかり、周りの人の大切さにも気づかされます」。
 対談場所から程近いところに、画家の中川一政美術館があった。岡本さんと一緒に見学に行った。中川の「われはでくなり つかわれて踊るなり」の言葉に、2人して釘づけになった。こういう境地になれたら、生きるのが楽になる。抗うことなく、大いなるものに身を委ねてみると、世の中の風景が変わって見える。
 岡本さんは、海に身を委ね、素潜りの記録を伸ばしながら、地球環境保全に奔走している。ボクも、言葉に身を委ねながら、諍いが減るよう小さな積み重ねをしている。2人とも、使命感にかられている。だから「でく友ですね」と笑い合った。

■村上信夫プロフィール
2001年から11年に渡り、『ラジオビタミン』や『鎌田實いのちの対話』など、NHKラジオの「声」として活躍。
現在は、全国を回り「嬉しい言葉の種まき」をしながら、文化放送『日曜はがんばらない』(毎週日曜10:00〜)、月刊『清流』連載対談〜ときめきトークなどで、新たな境地を開いている。大阪で『ことば磨き塾』主宰。
1953年、京都生まれ。
元NHKエグゼクティブアナウンサー。
これまで、『おはよう日本』『ニュース7 』『育児カレンダー』などを担当。著書に『嬉しいことばの種まき』『ことばのビタミン』(近代文藝社)『ラジオが好き!』(海竜社)など。趣味、将棋(二段)。

http://murakaminobuo.com


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■イネ・セイミプロフィール
フルート奏者として活躍中。俳画家。
絵画を幼少より日展画家の(故)川村行雄氏に師事。俳画を華道彩生会家元(故)村松一平氏に師事。俳画の描法をもとに、少女、猫等を独自のやさしいタッチで描いている。個展多数。

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