海外の旅この指とまれちょっとおじゃまします元気のでてくることばたち
元気のでてくることばたち 村上信夫NHKアナウンサー

 今年、歌手生活五〇周年を迎えた小林幸子さん。なんて気取っていうより、同級生のさっちゃんのほうが気安い。NHKのエレベーターの中で、さっちゃんの方から声をかけてくれ、折に触れ親しくさせていただいている。
 お互い還暦を過ぎたけど、何でもワクワク面白がるところは一緒だ。小学校4年まで新潟で育ったということは、ボクも小学校4年まで京都にいたから同じだ。でも、さっちゃんは、その頃すでに一家を養っていたんだからすごい。いっぱいしんどいこと、辛いことがあっても、いつも笑っている。そんなさっちゃんを同級生の星として、尊敬している。応援している。

ラスボス降臨
 近頃は、インターネットの動画サイトで若者に爆発的な人気を呼んでいる。「ラスボス」と呼ばれているらしい。ラスボスとはゲームの最後に出てくる最強のボスで、「ラストボス」のこと。紅白でおなじみ、あの豪華衣装がラスボスのようだというので、動画サイトマニア間では、ずいぶん前からそう呼ばれていた。
 動画サイトを見ている人たちは、演歌や歌謡曲に興味のない人が多い。だが、小林さんは、ポケモンやクレヨンしんちゃんの主題歌も歌っているので、それを見て育った世代は「あのアニメソングを歌っていた小林幸子」として認識している。中には「あのラスボス、けっこう歌うまいじゃん」という投稿もあるとか。
 歌謡界の大ベテランだが、こういう呼び名も投稿も、まったく気にしない。むしろ面白がっている。みんなが面白がっていることを、自分自身も面白がっている。小林さんは、どんなことにも、バリアを作らずスッと入っていくタイプだ。自分の中に「これはいやだ」というような好き嫌いはない。
 小林さんは、「思い込みは捨てて、思いつきを拾う」主義。そういう姿勢だからこそ新しい世界も広がってきたように思う。ネット社会に入っていったとき、周囲からは「そっちのほうに行っちゃうわけ?そこまで自分を落とさなくても」という声も聞こえてきたが、それこそ思い込みではないかと問題にしなかった。ネットの世界はいろいろ批判もあるが、新しい文化のけん引役になると、小林さんは考えている。

 何がなんだかわからない騒動に巻き込まれたときも、自分の主張や言いわけをせず、周りの人間ウォッチングをしていたという。「あの人はそういう人だったんだと見ながら、面白いなと思ってた。おかげで、人間関係の整理が出来ました(笑)」。
 人に何か言われることを怖がっていたら、どんなことも気になってしまう。だから「いま、自分がやりたいことをやる」と自分の背中を押して進んできた。ずっと、自分に対して正直に、ありのままに生きてきた。

聴く人の想いを感じて
 一〇歳でデビューして歌手生活五〇周年に還暦を迎えた。そして、新潟地震から五〇年、中越地震から一〇年と、今年はいろいろな節目がぴったり重なった。
 小さい頃から歌の世界しか知らない。この世界にずっといられたことは幸せだったなと思う。「見知らぬ人が私の歌を聴いて『励みになりました』と言ってくださると、こんなにうれしいことはない」。
 とくに新潟や東北の震災のあとで被災地を回ったときは、よく言われた。「とてもつらい状況だけど、今ここにいる時間だけはつらいことを忘れさせてもらったと、たくさんの人に感謝されました」。
 自分の歌が自分の支えになることもある。幸子さんにとって思い出深い曲は、『雪椿』。歌詞の三番で「つらくても がまんすればきっと来ますよ 春の日が」というところにくると、いつもグッとくる。この歌を中越地震の避難所で歌ったとき、みんなが泣きながら聞いていた姿を一生忘れない。
 雪椿は新潟の県木で、県民なら誰でも知っている。「雪がとけるまで咲き続ける雪椿のようにがんばりましょう」というと、みんなうなずいてくれた。歌いながら自分も励まされた。励ますつもりで行ったのに、逆に励まされて帰ってきた。
 ある避難所を出て次の避難所に向かうとき、道の向こうに金髪でピアスだらけのお兄ちゃんたちがたむろしていた。彼らが、「あ、小林幸子だ!」と叫ぶので、一瞬、いやだなあ、あそこを通りたくないなあと思った。しかし全員が医務テントにいたおじいちゃんやおばあちゃんをおぶって連れて来た。「小林幸子が来ているよ〜」と言って。彼らは福島からボランティアで来ていた。そのことが脳裏から離れず、東北の震災のときは何かお返しをしたいと思ったのだ。
 さっちゃんは、ボクのラジオ番組をよく聴いてくれていた。この日、とても嬉しい感想を話してくれた。「本当にお世辞じゃなくて、きれいな詩を聞いているようでしたよ。神様が何かの詩を村上さんの口から出させてくれている感じがした」 「『素直になっていいんですよ。自分を閉ざさず、開け放っていいんですよ』と番組でリスナーの方へおっしゃるのを聞いて、そうか、それでいいんだと思わせてもらいました」。
 すごく嬉しかった。涙が出そうだった。聞いている人の喜怒哀楽、様々な感情に寄り添いたいと思ってやってきたので、さっちゃんにそんなふうに言ってもらえて本当に感激した。
 さっちゃんは、今年も紅白に選ばれなかった。ラスボスの晴れ姿を動画サイトファンに見てもらえないのは残念だろうが、新しい世界に歩み出したさっちゃんは、後ろ髪を引かれてはいまい。チャンスの神様は前髪しか持っていない。

■村上信夫プロフィール
2001年から11年に渡り、『ラジオビタミン』や『鎌田實いのちの対話』など、NHKラジオの「声」として活躍。
現在は、全国を回り「嬉しい言葉の種まき」をしながら、文化放送『日曜はがんばらない』(毎週日曜10:00〜)、月刊『清流』連載対談〜ときめきトークなどで、新たな境地を開いている。大阪で『ことば磨き塾』主宰。
1953年、京都生まれ。
元NHKエグゼクティブアナウンサー。
これまで、『おはよう日本』『ニュース7 』『育児カレンダー』などを担当。著書に『嬉しいことばの種まき』『ことばのビタミン』(近代文藝社)『ラジオが好き!』(海竜社)など。趣味、将棋(二段)。

http://murakaminobuo.com


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■イネ・セイミプロフィール
フルート奏者として活躍中。俳画家。
絵画を幼少より日展画家の(故)川村行雄氏に師事。俳画を華道彩生会家元(故)村松一平氏に師事。俳画の描法をもとに、少女、猫等を独自のやさしいタッチで描いている。個展多数。

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 会 費:1回 2,250円(3ヶ月分前納制)
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