海外の旅この指とまれちょっとおじゃまします元気のでてくることばたち
元気のでてくることばたち 村上信夫NHKアナウンサー

運命を変えたロサンゼルス
 ヴァイオリニストの川畠成道さんは、8歳の時に目が不自由になってからヴァイオリンをはじめ、40歳のいま、円熟した演奏を国の内外で披露している。
 川畠さんの演奏を聴いた。最初の1音目から、すーっと心の中に音が染み込んできた。優しい、素直な気持ちに自然になれる演奏だ。

 8歳の時、滞在中のロサンゼルスで風邪をひき、飲んだ薬の副作用で、スティーブンス・ジョンソン・シンドロームといわれる病気になった。40度近い高熱が数日続き、呼吸困難にも陥った。全身の皮膚が水膨れになった。生存率5%と言われた。

 皮膚や粘膜だけでなく、眼球にも炎症が起きた。奇跡的に一命は取りとめたが、目が不自由になった。完全失明ではないが、見え方としては、「分厚いすりガラスを通して見ている感じ」だそうだ。というより、そこまで回復したということだ。最近、病院で2度にわたり、口腔の粘膜を角膜に移植する手術を受け、ここまで見えるようになった。

心の声が聞こえた
 父は、オーケストラのコンサートマスターも務めるヴァイオリン奏者だった。音楽の道の厳しさを知っている父は、「プロにもならないのに、幼い時から教える必要はない」と、ヴァイオリンに触らせもしなかった。しかし、川畠さんが、目が不自由になったことで、目に頼らず、耳で学べるヴァイオリンを10歳から始めさせることにした。職業にするため学ぶには、遅いスタートだった。
 だが、「98年に日本でデビューするまでは、冬の時代だった」と、川畠さんは振り返る。何度も絶望を味わった。
 ほかの人に出来ることが簡単に出来ないもどかしさ。必然的にソリストを目指さざるを得なかったわけだが、果たしてなれるのかという不安。英国国立音楽院に留学中、世界的コンクールに応募して、セミファイナルで落選し、落ち込み、出口のない暗いトンネルに入りこんだ気分にもなった。
 しかし、それらを乗り越えられたのは、「自分はヴァイオリンが好きなんだ、音楽が好きなんだ」という自分の内なる声を聞いていたからだという。目が不自由な川畠さんは、研ぎ澄まされた聴覚で、敏感にいろんな音を聞き分けてきたが、自分の心の声にも耳を傾けられたのだ。
 99年、英国王立音楽院を首席で卒業。スペシャル・アーティスト・ステイタスの称号も得た。因縁のあるロサンゼルスでコンサートを開き、超満員の観衆から喝采を受け、憑き物が取れたように感じた。

 帰国して、最初のCDもリリースし、年間100回のコンサートをこなすようになった。しかし、「考える余裕もなく、ただ機械的に演奏をこなす自分に疑問がわいた。「いつも同じ演奏をしていていいのか…」
 そこで、また内なる声に耳を傾けた。「なぜ、そのステージで演奏するのか、いつも自問自答してから演奏しよう!」と内なる声が答えた。
 コンサートにテーマを置くことにした。家族向けのコンサート、ソナタシリーズ、クライスラー連続演奏…。
 これからは、バッハの無伴奏に挑戦しようと思う。「バッハは、自分にとって、大きな存在。バッハが自分の音楽の基本。バッハの楽譜には、あまり情報が書き込まれていない。だから難しくもあり、やりがいもある」。無伴奏全曲演奏が目標だ。

人生を豊かにした結婚
 2007年9月、知子さんという伴侶を得た。知子さんも、4歳から趣味でヴァイオリン習っていて、30歳すぎてから、また専門的に勉強を始めていた。川畠さんのコンサートにも、時折、足を運んでいた。出会いは、またまた因縁のあるロサンゼルスだった。日本から、わざわざ聴きにきた知子さんと知り合った。「彼女の明るくて素直な声に恋した」という。最近、視力が少し回復して、彼女の輪郭がわかるようになった。その印象を問うと、「大丈夫でした」との答えに大爆笑した。
 楽譜を読んでくれたり、演奏について率直な感想を言ってくれたり、一緒に音楽を作る感じだ。「苦しいことは半分に、嬉しいことは倍になった」と、川畠さんは、結婚の効能を嬉しそうに言う。
 結婚後、演奏も変わったと、よく言われる。「繊細な演奏に力強さが加わった」とか「演奏が大人っぽくなった」とか…。「自分でも自然体で弾けるようになった」と思う。

 振り返ってみて、8歳の時の出来事は、運命だと思えるようになった。
 「そこから新たな人生が始まったのだと、いまなら思える。見るだけでは意識出来ないもの、自分の心の奥深くにあるものを知る力がついた。自分の心の声に耳を澄ませた時に聞こえてきたものにしたがって生きてきたから、いまのボクがある」。

■村上信夫プロフィール
NHKチーフアナウンサー
1953年、京都生まれ。
明治学院大学卒業後、
1977年、NHKに入局。
富山、山口、名古屋、東京、大阪に勤務。
現在は、「今日も元気で!わくわくラジオ」(ラジオ第一8:35〜)、
「BS将棋中継」などを担当。
これまで、「おはよう日本」「ニュース7」「育児カレンダー」などを担当。
教育や育児に関する問題に関心を持ち続け、横浜市で父親たちの社会活動グループ
「おやじの腕まくり」を結成。
趣味は、将棋。
著書に「元気のでてくることばたち!」(近代文芸社)
「おやじの腕まくり」(JULA出版局)
「いのちの対話(共著)」(集英社)
「いのちとユーモア(共著)」(集英社)

「元気のでてくる"ことばたち"」
(近代文芸社)
1,500円(税別)
おなじの腕まくり「おやじの腕まくり」
(JULA出版局)
1,400円(税別)
「言えなかったありがとう」
好評発売中

■イネ・セイミプロフィール
フルート奏者として活躍中。俳画家。
絵画を幼少より日展画家の(故)川村行雄氏に師事。俳画を華道彩生会家元(故)村松一平氏に師事。俳画の描法をもとに、少女、猫等を独自のやさしいタッチで描いている。個展多数。

* 俳画教室開講中
 ところ:常滑屋
 と き:月1回 第2金曜日 午後1時〜
 会 費:1回 2,500円(4ヶ月分前納制)
 問合せ:0563−32−0583

イネ・セイミ

 堀江実のポエムコンサートをCDでお届けします。

  詩と朗読
  フルート
  ピアノ
  構 成

  Disk1
  Disk2
 堀江実
 イネ・セイミ
 はちまん正人
 佐藤よりこ

 光のように
 花のように

 言霊に癒されるCD堀江実のポエムガーデン
 やさしい風がふいています。
 木々の梢は光っています。
 あなたの心がやすらぎで満たされますように。
 あなたの心に喜びがあふれますように。

2003年10月22日発売 CD2枚組 3,150円(税込み)