海外の旅この指とまれちょっとおじゃまします元気のでてくることばたち
元気のでてくることばたち 村上信夫NHKアナウンサー

ロングランの芝居
 作家の水上勉さん原作の『釈迦内柩唄』という舞台がある。15年前から全国各地で上演されている。上演回数は、これまで合計470回にのぼる。
 戦時中、中国人が日本に強制連行され重労働をさせられたことを契機に、秋田県で起きた花岡事件を背景にした物語。職業差別、人種差別、奥深い人間の業や憎悪を問題にしている。
 釈迦内は、花岡鉱山の近くにある。そこで、親の代から続いた火葬場の仕事を引き継いだ娘・ふじ子が、物語の主人公。焼却炉を前にしたモノローグがほとんどだ。

 その職業ゆえに差別を受けてきたが、ふじ子は家族の深い絆と愛情で、父の仕事を引き継ぐ。その父が亡くなり、遺体を焼く準備をしているふじ子は、様々なことを思い起こす。鉱山から逃げてきて憲兵隊に捕まった朝鮮人の崔さんのこと、足の不自由な身で、懸命に働いていた母のこと、踊りが得意な上の姉、読書好きな下の姉のこと、そして、辛さを酒で紛らわしていた父のこと…。
 父は、人を焼いた灰でコスモスを育てていた。「人は死んだら、大臣も百姓もおんなじ仏さまになるんだ。コスモスになって風に揺れてるんだ」と言っていた。舞台は、一面のコスモス畑で、幕を閉じる。

女優魂
 その芝居をライフワークにしている女優がいる。主人公ふじ子を演じるのが、文学座の女優・有馬理恵さんだ。
 1972年、和歌山県生まれ。父が、演劇観賞会の仕事をしていたので、幼いころから、芝居はたくさん見てきた。それが、彼女の感性を培ってくれた。小学校時代は、学芸会大好き。中学校では、演劇部にいたが発声練習がいやでやめた。
 高校時代は、新体操部。5歳から18歳までクラシックバレエを習っていたが、特に演劇への興味はなかった。
 それが、高校2年生の時、和歌山市民会館で舞台『釈迦内柩唄』を観劇したことが人生を変えた。前進座の浅利香津代さんが、20年間演じ続けた舞台だった。
 前から2列目、下手通路側。座った席も覚えている。東北の言葉もわからないのに、泣きっぱなしだった。幕が下りても動けない放心状態だった。
 一週間、学校へもいけなかった。生まれ育った周辺に被差別部落があったこともあり、「差別」については、これまでも考えてきた。部屋に籠り、身体中何かが駆け巡る思いで、改めて「差別」について考えた。この芝居には、交錯する思いをすべて引き受け、自分は何をしたいのか問われているエネルギーが感じられた。

 『釈迦内柩唄』を観た後、にわかに大学受験を諦め、自分が感動した役者に挑戦してみたいと方向転換した。俳優座の研究生になった。
 『ミラノの奇蹟』という舞台がターニングポイントになった。与えられた役は銅像だった。舞台上で1時間立ったまま。奇跡が起きて、銅像は動くのだが、役作りをしない役作りに気づいた。

 俳優になって9年で、念願の『釈迦内柩唄』のふじ子役がやってきた。だが、この役は、心の奥底を開かないと演じられない。舞台で死んでもいいというぐらいの覚悟がいる。まさに必死の思いで食らいついた。ひとたび、舞台にたつと、釈迦内のふじ子の形相に入れ替わる。
 この役を演じるに当たって、原作者の水上勉さんに、一度会いたくて、自宅に電話をかけたが、不機嫌な応答だった。そこで毎日手紙を書き続けたが、「字が小さすぎて読めないから、パソコンのメールにしてくれ」と言われた。しかもパソコンの機種まで指定された。仕方なく30万円借金して購入し、パソコンも一から勉強した。
 それでようやく「一度おいで」と声をかけられた。長野県の北御牧村の自宅に伺い、料理とビールを御馳走になった。その後、水上勉さんから届いた手紙には、「作者が書かぬことを知る役者を得たことを喜びます。舞台の終幕にはコスモスが見えました」とあった。

母の背中
 この芝居を演じる上で、行動を起こそうとしたことが、思わぬ人生の展開を呼ぶ。
 戦争を知らない自分がこの芝居をやっていいのかという疑問から、イラクに行ってボランティア活動をしようと思った。高遠菜穂子さんのボランティア活動を実際に見てみたいと思った。イラクに出発する予定の5日前にあの事件が起きた。2004年のイラク人質事件。
 今度は、救援活動に参加するなかで、カメラマンの郡山総一郎さんと知り合った。郡山さんの撮影した貧困と紛争の中に生きる子どもの写真を見て、子どもたちの瞳がふじ子に重なった。
 そして、ご本人曰く、成り行きで結婚。2005年には長男、陸くん誕生。出産1ケ月後からは、舞台に復帰した。泣きすがる我が子を置いて、母親として後ろ髪を引かれぬわけがない。「それでも舞台に立つのか」と毎回、自問自答する。「ふじ子の役なら、陸は許してくれるに違いない」と自分を鼓舞しながら舞台に立つ。陸くんには「母の背中をみて育ってほしい」と思っている。

■村上信夫プロフィール
NHKチーフアナウンサー
1953年、京都生まれ。
明治学院大学卒業後、
1977年、NHKに入局。
富山、山口、名古屋、東京、大阪に勤務。
現在は、「今日も元気で!わくわくラジオ」(ラジオ第一8:35〜)、
「BS将棋中継」などを担当。
これまで、「おはよう日本」「ニュース7」「育児カレンダー」などを担当。
教育や育児に関する問題に関心を持ち続け、横浜市で父親たちの社会活動グループ
「おやじの腕まくり」を結成。
趣味は、将棋。
著書に「元気のでてくることばたち!」(近代文芸社)
「おやじの腕まくり」(JULA出版局)
「いのちの対話(共著)」(集英社)
「いのちとユーモア(共著)」(集英社)

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■イネ・セイミプロフィール
フルート奏者として活躍中。俳画家。
絵画を幼少より日展画家の(故)川村行雄氏に師事。俳画を華道彩生会家元(故)村松一平氏に師事。俳画の描法をもとに、少女、猫等を独自のやさしいタッチで描いている。個展多数。

* 俳画教室開講中
 ところ:常滑屋
 と き:月1回 第2金曜日 午後1時〜
 会 費:1回 2,500円(4ヶ月分前納制)
 問合せ:0563−32−0583

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