海外の旅この指とまれちょっとおじゃまします元気のでてくることばたち
元気のでてくることばたち 村上信夫NHKアナウンサー

 コーヒー通の舌をうならせ、全国から注文が舞い込むコーヒーがある。すべて「炭火」で豆を炒り、香ばしく、最高級のコーヒーを作り出している焙煎士がいる。川上敦久(あつき)さん。36歳。精悍な顔立ちをしているが、時折見せる笑顔は優しい。
 彼が焙煎した豆で淹れてくれるコーヒーが、またおいしいのだ。何杯もおかわりしたくなる。いつも砂糖を入れて飲む私が、ブラックで飲める。時間が経つにつれ、コーヒーはしだいに冷めていくが、その過程で微妙に味が変わる。冷めても美味しいのだ。まさに魔法のコーヒーなのだ。

天才焙煎士の魔術

 もともとコーヒー豆は、味も香ばしさもほとんどない硬い生豆だ。これを火で炒る(焙煎)ことによって水分が飛ばされ、膨らんでくる。そして、独特の色と香りを放つようになる。それを生業としているのが焙煎士。
 焙煎方法は、ガスによる直火焙煎や石焼焙煎など、さまざまな製法があるが、彼が手がけるのは「炭火焙煎」。ただこの方法は、火力調整が難しく、高度な技術を必要とするため、炭火だけで焙煎する人は、全国でもわずかしかいない。それでも「炭火焙煎」にかけるのは、豆が芯から焼け、豆が最もふっくらと、香り高く仕上がるからだ。
 川上流は、すぐには釜の中に豆を流し込まない。ガスと炭火で40分かけて、釜の温度を300度近くまでゆっくりと上げていく。300度までいったらガスを切り、豆を釜に入れ、後は炭火だけで焙煎。
 ここからが真剣勝負だ。釜の中で変化していく豆の色に、豆が爆ぜる(皮が破れる)音と炭が焼ける音。
 さらには豆の焼けた香ばしい香り。色・音・香りを頼りに、一番いい焙煎状態を見極めていく。
 豆が爆ぜる音に耳を澄ませる。豆が生きている証拠に、豆が釜の中で呼吸しているのを感じる。豆と会話する感覚で焼き加減を調節する。爆ぜる音のタイミングは、その日の湿度によっても変わってくるので、炭の入れ方をその都度変え温度調節する。それぞれ違う豆が、最高の味と香りを出せる着地点へと導いていく。時々、豆が息苦しくならないように、焙煎小屋の窓を開け閉めしながら、釜の周りに新鮮な空気を入れていく。風も味方につける。
 風の通し方も、炭のくべ方も、豆によってすべて違う。マニュアルのようなものは一切ない。すべて自分の勘でやる仕事だ。すべての豆が均一に膨らむ瞬間を見極めて、最後に釜から豆を出す。豆の種類によっても膨らみ方が全く違ってくる。豆と気持ちが一緒にならないとだめだ。
 「俺の焼く豆は、自分の執念と生き様そのもの」。



有為転変の人生

 川上さんは、1975年、岐阜県下呂市生まれ。温泉街の一角で育った。両親は美容師だった。
 親が店をやっていたので、祖父母は、親代わりのような存在だったのだ。剣道好きな祖父の影響で、幼稚園で始め、小学校3年から中学3年までは岐阜代表として全国大会に毎年出場していた。だが、高校になってからぐれて、剣道をやめた。
 美容師を継ごうと、高校卒業後、住み込みで、神奈川で美容院見習いを始めたが、頑張る意味がわからず、毎日遊んでいた。1年半くらいでその店を辞め、親とも一切連絡を取らず、日雇い仕事など、職を転々としていた。
 ある時、数年ぶりに実家に電話し、祖父母と話したら懐かしくなり、週末帰ることを約束した。だがその翌日、祖父が突然亡くなった。それを機に、実家に戻ることにして、不良の道を卒業した。
 名古屋に出て働き始めた川上さんに、24歳で人生の転機が訪れる。
 実家に戻ってからも、いくつかの職を経験し、名古屋のコーヒー製造販売の会社に落ち着いた。営業マンとして豆の販売に没頭する毎日だった。これまでにない、温かい空気の中で生き生き仕事していた。
 ある時、焙煎士としても有名な会長の田中仁さんが入れてくれたコーヒーが人生を変えた。その時、飲んだ得も言われぬ味は、今でも忘れられない。この仕事を続けていられるのは、この一杯があったからだと信じている。
 入社5年目。その会社が経営に失敗し倒産してしまう。社員は全員解雇されることになったが、川上さんは諦め切れなかった。初めて3年以上同じところで働き、自分が本気で情熱を注げた仕事。この5年を無駄にしたら自分はもうダメになると思った。自分を成長させてくれた会社を守りたい一心だった。それに焙煎の秘術を受け継ぎたかった。
 一社員の身ながら、「この会社を続けさせてください」と、会長に直訴した。「焙煎の技術を全部伝授してください。この会社の味と伝統は俺が守っていきます」。
 会長は驚き、半ば呆れ口調で断られたが、川上さんの熱意が通じた。会長からの焙煎技術の直伝が始まった。「目も耳も鼻も口も手も、風も全部使え。全部味方につけろ」と何度も言われた。
 焙煎機も譲り受け、一から焙煎修業が始まった。多額の負債を抱え、金の取り立ての対応に追われた。しかも、焙煎した豆は全然商品にならない。売れないどころか、焼いては捨てる毎日の連続だった。焙煎の秘伝を体得するまでは、悪戦苦闘の日々だった。

 川上さんのコーヒー豆を入れる袋には、ブランド名を筆で書いたラベルが貼られている。
 「道」 信じた道を力強く歩き続ければ必ず拓けるという想いを込めた。
 「心」 沢山の出会いが自分の心を優しく、強くしてくれたことに感謝を込めた。
 「結」 沢山の人と決してほどけない結びつきを続けていけるように願いを込めた。
 様々な逆境を乗り越えてきた川上さんは、この3つを信念にして、ひたすら焙煎を続けている。

■村上信夫プロフィール
NHKチーフアナウンサー
1953年、京都生まれ。
明治学院大学卒業後、
1977年、NHKに入局。
富山、山口、名古屋、東京、大阪に勤務。
現在は、「今日も元気で!わくわくラジオ」(ラジオ第一8:35〜)、
「BS将棋中継」などを担当。
これまで、「おはよう日本」「ニュース7」「育児カレンダー」などを担当。
教育や育児に関する問題に関心を持ち続け、横浜市で父親たちの社会活動グループ
「おやじの腕まくり」を結成。
趣味は、将棋。
著書に「元気のでてくることばたち!」(近代文芸社)
「おやじの腕まくり」(JULA出版局)
「いのちの対話(共著)」(集英社)
「いのちとユーモア(共著)」(集英社)

「元気のでてくる"ことばたち"」
(近代文芸社)
1,500円(税別)
おなじの腕まくり「おやじの腕まくり」
(JULA出版局)
1,400円(税別)
「言えなかったありがとう」
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■イネ・セイミプロフィール
フルート奏者として活躍中。俳画家。
絵画を幼少より日展画家の(故)川村行雄氏に師事。俳画を華道彩生会家元(故)村松一平氏に師事。俳画の描法をもとに、少女、猫等を独自のやさしいタッチで描いている。個展多数。

* 俳画教室開講中
 ところ:常滑屋
 と き:月1回 第2金曜日 午後1時〜
 会 費:1回 2,500円(4ヶ月分前納制)
 問合せ:0563−32−0583

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