海外の旅この指とまれちょっとおじゃまします元気のでてくることばたち
元気のでてくることばたち 村上信夫NHKアナウンサー

 聞きしに勝るスローな語り口だった。だが、独特の間合いが心地いいのだ。入り込む隙間がいっぱいあるから、安心出来るのだ。この間に、いろんな想像を巡らせることが出来る。言葉の余韻を噛み締めることが出来る。何度も「光栄です」という言葉が出た。相手への慮り、礼儀正しさには、頭が下がる。
 戦場カメラマン、渡部陽一さんと私は、明治学院大学の同窓生。それにしても渡部さんが生まれた年に、私は大学1年生。2人が並んだ写真を見て、しばし感慨にひたった。

戦場カメラマンになったわけ

  「先輩に…お声をかけていただき…光栄…です。戦場…カメラマンの…渡部…陽一…です」すべての話に…のような間合いがあるが、このままでは紙数が尽きる。以下…は省略する。
 ゆっくり口調は、昔からだった。小学校時代に、よく友だちから「渡部君の話し方は、ヘン」と言われていた。カメラマンとして、諸外国をまわるようになってからは、知っている単語を使って、ゆっくり話すと理解してもらえたので、もともとゆっくりだった話し方に、拍車がかかったらしい。
 1972年、静岡生まれ。今年40歳。
 剣豪小説好きな父の影響で、小中学校の9年間、剣道を習っていた。サムライジャーナリスト精神は、戦う相手にも敬意を払う剣道で培った。自分が出会う人、訪れた異国の人を尊敬するよう心がけている。
 現地の人の声を聞き、自分の考えがいちばん正しいという考えは捨てるようにしている。
 渡部さんは、明治学院大学に入っていなければ、戦場カメラマンになっていなかった。大学一年生のとき、生物学の授業で、アフリカには、昔ながらの狩猟生活を送っている人たちがいると教えられ、自分の目で確かめ、彼らと話してみたいと思った。バックパッカーの旅行者として、軽い気持ちでアフリカに入ったら、そこで少年ゲリラ兵に、襲われて九死に一生を得た。この苦い経験が、現地の言葉を覚え、敵意のないことを伝える「ゆっくり丁寧な」話し方につながる。

 紛争地域だということを知らずに行ったのだ。ゲリラ兵に村を襲撃され、血だらけで「助けて」と泣き叫ぶ子どもがいても、どうすることもできなかった。そんなアフリカの状況を、大好きなカメラで撮影して多くの人に伝えたい。それが、戦場カメラマンになった、きっかけだった。
 学生時代から日記を書いていた。最初は大学手帳に、毎日、その日の出来事や印象に残ったことを書きとめていた。今では、重さ8キロ。米俵のようになってしまった巨大な日記帳を、戦場にも持参している。これは日記でもあり、取材記録の作品でもある。現地の閉ざされた環境で、ろうそくの灯りを頼りに活字を記していくと、ノミで文字を刻みこんでいくように、記憶に刻みこまれて忘れないものなのだろう。
 「カメラマンとして、何かの壁にぶつかったときや、戦場で気持ちがグラついているときなど、過去に自分が書き記した言葉を読んで、初心に戻ったり、ハッとさせられることがたびたびある」という。

いつかは学校カメラマンに

 渡部さんは、世界130を超える国を訪ねている。そのほとんどが、紛争地や戦禍に見舞われた地域だ。なぜ戦場にこだわるのか尋ねてみた。
 「僕は世界中の紛争地をまわりながら、驚いたことがあります。それは、戦場という極限状況のなかでも、家族が普通に生活していて、笑顔を浮かべる瞬間があることでした。僕の取材スタンスは、一つ屋根の下で何カ月も生活をともにする、いわゆる密着取材型ですが、戦場でも、私たち日本の家族と変わらない、日常の生活風景があります。戦禍に生きる子どもたちや家族の肖像を、多くの人に伝えるための、戦場カメラマンでありたいと、思っています」。
 最近、男の子の父親になった。世界を駆け回る渡部さんらしく「世海」と名付けた。ファインダーごしに見る子どもたちを見る目も変わった。「子どもたちの横にいる同世代の親たちに、気持ちが入りこんでしまいます。それと、家に早く帰りたいと思うようになり、今までより取材期間を短くするかわり、過去の人脈や情報網を駆使して、深い取材を行うようになりました」と笑う。
 いずれ、戦場カメラマンの仕事がなくなり、学校カメラマンになることが夢だ。戦争がなくなり、世界中の学校を駆け回り、子どもたちの笑顔を撮影したい。

ゆっくりはラジオ向き

 渡部さんはこの4月からラジオ番組のパーソナリティ(ニッポン放送『勇気のラジオ』)を務めている。タイトル通り、自然と勇気がわいてくるような番組だ。ゆっくりとした、噛んで含める口調はラジオに合っている。ラジオは傍らにいて黙ってうなずくような、やさしく寄り添う存在だと思うが、渡部さんの独特の間合いは、まさにそれだ。
 「僕は昔からラジオ大好き人間で、戦場にも持っていきます。戦場では誰もが、ラジオで避難情報を聴いてライフラインにしているんです。放送する立場になると難しいけど、ゆっくり考えながらやります」。いつか、ラジオで、共演してみたい。

■村上信夫プロフィール
NHKチーフアナウンサー
1953年、京都生まれ。
明治学院大学卒業後、
1977年、NHKに入局。
富山、山口、名古屋、東京、大阪に勤務。
現在は、「今日も元気で!わくわくラジオ」(ラジオ第一8:35〜)、
「BS将棋中継」などを担当。
これまで、「おはよう日本」「ニュース7」「育児カレンダー」などを担当。
教育や育児に関する問題に関心を持ち続け、横浜市で父親たちの社会活動グループ
「おやじの腕まくり」を結成。
趣味は、将棋。
著書に「元気のでてくることばたち!」(近代文芸社)
「おやじの腕まくり」(JULA出版局)
「いのちの対話(共著)」(集英社)
「いのちとユーモア(共著)」(集英社)

「元気のでてくる"ことばたち"」
(近代文芸社)
1,500円(税別)
おなじの腕まくり「おやじの腕まくり」
(JULA出版局)
1,400円(税別)
「言えなかったありがとう」
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■イネ・セイミプロフィール
フルート奏者として活躍中。俳画家。
絵画を幼少より日展画家の(故)川村行雄氏に師事。俳画を華道彩生会家元(故)村松一平氏に師事。俳画の描法をもとに、少女、猫等を独自のやさしいタッチで描いている。個展多数。

* 俳画教室開講中
 ところ:常滑屋
 と き:月1回 第2金曜日 午後1時〜
 会 費:1回 2,500円(4ヶ月分前納制)
 問合せ:0563−32−0583

イネ・セイミ

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