海外の旅この指とまれちょっとおじゃまします元気のでてくることばたち
元気のでてくることばたち 村上信夫NHKアナウンサー

 香川京子さんには、一目惚れだった。テレビドラマ『ママ日曜でありがとう』で魅力的なママを演じている香川さんを見たとき、ドキドキした。当時小学生だった私は、こういう人と結婚したいと決めた。そして、その片思いは五十年近い時を経た今になっても変わらない。好きな人の前だからドキドキしているのに、「私も村上さんのファンです。お声がすてきですし、堅苦しくもなく、ゲストの方とのやりとりではお相手の気持ちを尊重していらっしゃるでしょう」などと言われ、完全にノックアウトされた気分だ。

二十歳のFA宣言

 香川さんは、日本映画の名だたる監督作品に数多く出演し、映画ファンを魅了してきた。役柄では、気品を漂わせつつ、静かなイメージがあるが、意外な素顔もある。
 私は、今年の三月でNHKを退職し、遅まきながら五八歳でフリーエージェント宣言をしたが、香川さんは二十歳と、ずいぶん早々とフリーになった。「とにかく自由になりたかったの(笑)。当時の俳優は映画会社と専属契約を結び、与えられた役をするのが普通でした。でも、私は昔から束縛されるのがいやで、自分が出る作品は自分で選びたいと思ったんです」とサラリとおっしゃる。
  「フリーになったからといって、いい作品に巡り合えるかといえば、こればかりはわかりません。当時の私は若かったから怖いもの知らずだったのね(笑)。でも次から次へといいお仕事をいただくことができて、運がよかったのだと思います。自分からお願いにあがったことは一度もないんです」。運がいいというより、香川さんにはいろんな監督さんに気に入られる何かがあったのだろう。単なる偶然ではなく必然的なものかもしれない。

 この先、演じたい役について尋ねると、「自分ではわからない新しい自分を引き出してもらえる作品でしょうか。やってみたいのは喜劇の役。人をわっと笑わせるんじゃなくて、なんとなくおかしいという役をやってみたいなと思います。昔からお茶目な役が好きでしたから…。」これまた涼しい顔しておっしゃる。

映画への尽きせぬ思い

 香川さんはこれまで一二〇本の映画に出ているが、ご自身が忘れられない作品というと、溝口健二監督の『近松物語』だそうだ。「何の演技指導もなく、自分で考えるしかなくて苦しみの連続でしたから。そうしたなかで芝居の根本を教えられた作品」だそうだ。
 あの映画は、江戸時代に実際にあった不義密通事件をもとに書かれたものだ。香川さん演じるおさんと、長谷川一夫さん演じる茂兵衛が逃避行して隠れていた丹波は、私の実家のあるところでもある。しだいに恋の深みにはまっていく迫真の演技に、釘付けになった。
 「私もお金を払って映画館に見に行ったことがありました。二人が入水自殺を図る寸前で、茂兵衛がおさんに愛を告白するのですが、おさんが「おまえの今の一言で死ぬのがいやになった」というシーンがあるでしょう。そのとき私のすぐ後ろにいた若い男性がすごいなあと感心したようにつぶやいたのが印象に残っています」。
 一緒に死ぬつもりで、好きだと打ち明けたとたん、相手から「死なないことにした」と手の平を返されたら男は驚きを隠せないでしょうと言うと、「男の人はきっと困るわよね(笑)」と、お茶目な香川さんが出現した。

 私が印象深いのは、『ひめゆりの塔』だ。僕もこの四月に沖縄に行ったが、基地の膨大な広さやひめゆりの塔や平和の礎…実際に沖縄に行ってみなければわからないということがたくさんあると感じた。温かくやさしい沖縄の人々の人柄は、今も昔も変わらないと思うが、それまで平和に暮らしていた人たちがあの戦禍に巻き込まれたと思うと胸が締めつけられた。
 ひめゆり学徒隊の悲惨な末路をドキュメントタッチで描いた作品で、当時21歳の香川さんは、迫真の演技を見せる。「戦争当時、疎開先の女学校にのんきに通っていたのですが、そのとき沖縄でこんな悲惨なことがあったとは知らずに過ごしていました。戦後三四年たってひめゆり学徒隊の卒業式が行なわれることになり、私も参加しましたが、亡くなった方の名前が一人ずつ読み上げられたときは、自分の友人たちが亡くなったように感じ、あんなに悲しい卒業式はなかったです」。ひめゆり学徒隊で生き残った方たちとは今も交流している。

 香川さんは自分の出演作品の解説をしたり、昔の映画のよさを伝えていくための活動を意識的にしている。東京近代美術館フィルムセンターに、三〇〇点以上もの資料を寄贈したことが評価され、去年、映画保存に貢献した人に贈られる国際フィルム・アーカイブ連盟賞を、日本人として初めて受賞した。「今はデジタル化が進んでフィルムを使わなくなっているでしょう。DVD用とフィルム用では映写機が違うので、昔のフィルム映画を見たいと思っても容易に見ることができなくなっています。これは映画界にとっての危機。だからフィルムを保存しようという運動のお手伝いができればと考えています」。
 東日本大震災では、記念の写真や大切にしてきたものが失われ、日本人のなかにも昔のものを大切に保存しようという意識が高まっている。フィルム映画は貴重な文化財産だから、保存する意義も大きい。

 それにしても香川さんは若い。八十歳という年齢を意識させない。「むしろ気持ちは若返っているような気がします。一人で美術館に出かけたり、毎日が楽しいの。家庭と仕事のバランスを考えながら、無理をしないようにやってきました。村上さんもフリーになったとはいえ、無理はなさらずに、規則正しい生活を送られるほうがいいと思いますよ。」とアドバイスしてもらい、ただただ恐縮する村上であった。

■村上信夫プロフィール
NHKチーフアナウンサー
1953年、京都生まれ。
明治学院大学卒業後、
1977年、NHKに入局。
富山、山口、名古屋、東京、大阪に勤務。
現在は、「今日も元気で!わくわくラジオ」(ラジオ第一8:35〜)、
「BS将棋中継」などを担当。
これまで、「おはよう日本」「ニュース7」「育児カレンダー」などを担当。
教育や育児に関する問題に関心を持ち続け、横浜市で父親たちの社会活動グループ
「おやじの腕まくり」を結成。
趣味は、将棋。
著書に「元気のでてくることばたち!」(近代文芸社)
「おやじの腕まくり」(JULA出版局)
「いのちの対話(共著)」(集英社)
「いのちとユーモア(共著)」(集英社)

「元気のでてくる"ことばたち"」
(近代文芸社)
1,500円(税別)
おなじの腕まくり「おやじの腕まくり」
(JULA出版局)
1,400円(税別)
「言えなかったありがとう」
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■イネ・セイミプロフィール
フルート奏者として活躍中。俳画家。
絵画を幼少より日展画家の(故)川村行雄氏に師事。俳画を華道彩生会家元(故)村松一平氏に師事。俳画の描法をもとに、少女、猫等を独自のやさしいタッチで描いている。個展多数。

* 俳画教室開講中
 ところ:常滑屋
 と き:月1回 第2金曜日 午後1時〜
 会 費:1回 2,500円(4ヶ月分前納制)
 問合せ:0563−32−0583

イネ・セイミ

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