海外の旅この指とまれちょっとおじゃまします元気のでてくることばたち
元気のでてくることばたち 村上信夫NHKアナウンサー

孤独になれば
   孤独でないことがわかる

 大津波に見舞われた4日後に「時に海を見よ」と言った人がいる。そして、この言葉に反応した人が数多くいる。
 言った人は、立教新座中学校・高等学校校長の渡辺憲司さん。立教大学名誉教授で、近世文学の研究者でもある渡辺さんが、にわかに時の人になっている。
 3月11日の大震災で、立教新座高校の卒業式は中止となった。そこで渡辺校長は卒業する生徒たちに、学内のネットを通じて、3月15日に『卒業式を中止した立教新座高校三年生諸君へ』向けて「時に海を見よ」というメッセージをのせた。すると翌16日には、一日だけで30万を超える人が、ホームページを見たと、大反響となった。その後も老若男女問わずの反響が寄せられ、80万を超えるアクセスを記録した。

 反響にいちばん驚いているのが、ご本人だ。「びっくりした。なぜだかわからない…。夜中に、身を慎むようにと広報から電話があった。ボクがよく酔っ払ってどこでも寝てしまうから釘を刺された」渡辺さんは、縄のれんが大好き。ざっくばらんな性格だ。真面目一辺倒ではない。だが、時に真面目になることも大切と説くのだ。
 「地震前に書いていたものに加筆したが、地震直後だけに、『海を見よ』はいささか躊躇した。しかし時に、自己をしっかりとみつめる勇気を持ってほしいと、自分を高ぶらせながらメッセージを書いた。その思いが通じたのかなぁ」とニッコリ。
 話題を呼んだ式辞の一部を紹介する。

 悲惨な現実を前にしても云おう。波の音は、さざ波のような調べでないかもしれない。荒れ狂う鉛色の波の音かもしれない。時に、孤独を直視せよ。海原の前に一人立て。自分の夢が何であるか。海に向かって問え。青春とは、孤独を直視することなのだ。直視の自由を得ることなのだ。自己が管理する時間を、ダイナミックに手中におさめよ。流れに任せて、時間の空費にうつつを抜かすな。いかなる困難に出会おうとも、自己を直視すること以外に道はない。
 海を見つめ。大海に出よ。嵐にたけり狂っていても海に出よ。真っ正直に生きよ。くそまじめな男になれ。一途な男になれ。貧しさを恐れるな。男たちよ。船出の時が来たのだ。思い出に沈殿するな。未来に向かえ。忘れようとしても忘れえぬであろう大震災の時のこの卒業の時を忘れるな。鎮魂の黒き喪章を胸に、今は真っ白の帆を上げる時なのだ。愛される存在から愛する存在に変われ。愛に受け身はない。

 孤独の時間を持つと、多くの人と結びつかねばならないことに気づく。自分自身を見つめ、生きる意味や他人との共存に思いを馳せることが、悲しいことや困難を乗り越える方法だと説く。と同時に、自分たちが大きな「負の遺産」を若者に残してしまったことを反省している。もう一度、自らも海を見ながら、今の自分を見つめ直し、これからの日本を生きる若者と一緒に考えてみたいと考えている。いまの18歳のためというより、66歳の自分に向けて書いたのかもしれない。

命は一つではない
 今年の高校の入学式の式辞では、「野ざらし紀行」にある松尾芭蕉の句を引用した。

 命二つ 中に活きたる さくらかな

 今の滋賀県甲賀市の水口で、弟子であり、友人でもある服部土芳と、二十年ぶりに会った時の思いを述べた句だ。二十年あまり会うことがなかった友人二人が、命あって再会することができた。その喜びの二人の中に、桜がいきいきと咲いているという解釈になる。
 命二つという発想が、心に強く響く。私たちは、命を自分一人のものと考えがちだが、芭蕉は、まず〈命二つ〉と切り出した。命は、自分一人のものだが、一人で支えているものではない。複数の命によって支えられている。他者の存在なしに、命はない。親と自分、友人と自分、他者と自己、それぞれがその命を自分の中に大切に抱えながら、もうひとつの命に支えられ、〈命二つ〉の中で生きている。
 自分にかけがえのない命は、相手にとってもかけがえのない命だ。〈命二つ〉と考えることは、相手の心に近づき、自分の身を相手に重ねることだ。互いに命の尊厳を認め合い、日常を支えるすべての人に感謝して迎えたいという思いを式辞に込めた。
 渡辺さんは、「3月11日以来、過酷な体験を強いられている子どもたちに、勇気をもって伝えたい。『時に海を見よ』と。そして、命二つの意味を考えてほしい」痛切にそう思う。

■村上信夫プロフィール
NHKチーフアナウンサー
1953年、京都生まれ。
明治学院大学卒業後、
1977年、NHKに入局。
富山、山口、名古屋、東京、大阪に勤務。
現在は、「今日も元気で!わくわくラジオ」(ラジオ第一8:35〜)、
「BS将棋中継」などを担当。
これまで、「おはよう日本」「ニュース7」「育児カレンダー」などを担当。
教育や育児に関する問題に関心を持ち続け、横浜市で父親たちの社会活動グループ
「おやじの腕まくり」を結成。
趣味は、将棋。
著書に「元気のでてくることばたち!」(近代文芸社)
「おやじの腕まくり」(JULA出版局)
「いのちの対話(共著)」(集英社)
「いのちとユーモア(共著)」(集英社)

「元気のでてくる"ことばたち"」
(近代文芸社)
1,500円(税別)
おなじの腕まくり「おやじの腕まくり」
(JULA出版局)
1,400円(税別)
「言えなかったありがとう」
好評発売中

■イネ・セイミプロフィール
フルート奏者として活躍中。俳画家。
絵画を幼少より日展画家の(故)川村行雄氏に師事。俳画を華道彩生会家元(故)村松一平氏に師事。俳画の描法をもとに、少女、猫等を独自のやさしいタッチで描いている。個展多数。

* 俳画教室開講中
 ところ:常滑屋
 と き:月1回 第2金曜日 午後1時〜
 会 費:1回 2,500円(4ヶ月分前納制)
 問合せ:0563−32−0583

イネ・セイミ

 堀江実のポエムコンサートをCDでお届けします。

  詩と朗読
  フルート
  ピアノ
  構 成

  Disk1
  Disk2
 堀江実
 イネ・セイミ
 はちまん正人
 佐藤よりこ

 光のように
 花のように

 言霊に癒されるCD堀江実のポエムガーデン
 やさしい風がふいています。
 木々の梢は光っています。
 あなたの心がやすらぎで満たされますように。
 あなたの心に喜びがあふれますように。

2003年10月22日発売 CD2枚組 3,150円(税込み)