海外の旅この指とまれちょっとおじゃまします元気のでてくることばたち
元気のでてくることばたち 村上信夫NHKアナウンサー

 東北関東大震災・・・未曾有の大災害に言葉もない。大自然に謙虚であらねばならないことを教えられるには、あまりにも大きな犠牲だった。いまの時点で私たちに出来ることは、想像力をいっぱい働かせて思いの共有をすることしかない。

困難な中でも喜びを忘れない男
 大橋雄二さんは、被災地の一つ、福島で、日本の風土にあった日本人のためのパン、地ビールならぬ、「地ぱん」を産み出した人だ。福島の食材や味を生かして、パン作りを心がけてきた。

 その大橋さんは、震災後すぐ、行政からの要請もあり、日に15000個のコッペパンを製造している。小麦もイーストも足らず、ありとあらゆるツテを生かし調達している。材料とスタッフの体力が続く限り、続けるのが使命だと言い切る。
 大橋さんは、血友病を患っている。ケガをしたら出血がとまらないから、行動に慎重にならざるを得ない。常に関節も痛んでいるから、5日に1度の割合で、血液製剤も必要だ。左足切断で車椅子生活だが、不自由さをみじんも感じさせない。明るく弾んだ声だけ聞いていると、大橋さんの身の上に起きている全てのことを忘れてしまう。
 今回、陣頭指揮を取って多忙を極める最中、車椅子から転げ落ち、腕と胸を強打し、擦り傷が出来た。すぐ血液製剤と痛み止めを処方してもらい、大事に至らずに済んだ。
「恋の悩みじゃないけど、胸は痛む。でも腫れもなく、出血もとまり、何とか動けそう」と、常にユーモアを忘れない人なのだ。
 店では、吉本出身の友人たちが、ボランティアで接客をしてくれている。こういうときだからこそ、『笑いと食』で健康で明るい世の中を造ろうと、意気投合した仲間だ。飢えや寒さや不安で、心が冷え切っている時こそ、笑いは必要だというのが大橋流だ。
 以前より、はるかに多くの「ありがとう」の声が聞こえるようになった。やっと風呂に入れたと笑う客の顔、従業員が差し入れのカツ丼にむしゃぶりついている姿を見ているだけで、嬉しくてたまらない。大橋雄二、すごい男だ。

8番目の虹の色を見たい男
 大橋さんは、1956年生まれ。生家は、学校給食のパンを中心に作るパン屋だった。
 幼い頃から、ケガをしたら血が止まりにくいので、東京の病院で検査を受けたら、血友病と判明した。2万人に1人の確率で発生する不治の病だった。
 だが、病気にもくじけず、意志が強い明るい子だった。とことんやりぬく性格と、物事にとらわれない柔軟な発想の両方を持ち合わせていた。

 10代の大半は、寝たきりで、関節の痛みとの闘いだった。血液製剤の登場で、慢性的な痛みからは解放されたが、一時的に治まるだけだった。高校進学は断念した。
 20歳の時、決して弱音を吐かない大橋さんが、「体が動かないから死ぬことも出来ない。でも、このまま生き続けていても何の展望もない。親の世話にばかりなって、人生に何の意味があるのか」と口にした。それを聞いた父が、「死んでもいいから、これまでのことをすべて書け」と一喝した。
 ふだんもの静かな父の一言が効いて、短期間で、自伝『8番目の虹の色』を書き上げた。「8番目の虹の色は、見る人によって変わる」という思いを記した。つまり自分の気持ちの持ちようしだいで未来は変わると、書きながら気づいた。

 だが、機能障害が進み、体が膠着して、寝ているのさえ苦痛になった。主治医から、このまま寝たきりになるよりは、一か八かで機能回復訓練を勧められた。たった1センチ動かすだけで激痛が走る状態から始めた。3ケ月ほどで、車椅子に乗れるまでに回復した。奇跡だった。驚異的だった。半年後には、松葉杖で歩けるようになったのだ。
 レストランでマネージャーの仕事と、英語検定1級にも合格し英語講師も始めた。ついに病気を克服したと浮かれていたのかもしれない。アクシデントが襲う。1981年、レストランで転倒し、これがもとで左足の一部が壊死して、切断する事態となった。
 しかしこの大きな出来事が「病は打ち負かすものではなく、折り合いをつけるべき友人だ」と気づかせてくれた。「光も影も自分自身。血友病を『友』として生きよう」と思った。大橋さんは、マイナス要素が増えると、かえってパワフルになっていくようだ。
 退院後、家業のパン作りを手伝いたい、日本一のパン屋にしたいと宣言をした。神棚に供えてある米、水、塩、酒を見ているうちに、この4つがあればパンが出来る!日本の風土に根ざしたパン作りを!と思いついた。 
 大橋さんの考え出した「地ぱん」は、雑穀や玄米粉、そばの実を使ったものなど、これまでの既成概念を超えたものだ。福島産のこんにゃくやおからを使ったものもある。かくし味に魚醤も使うからか、焼くと香ばしい。不思議に和食にも合うのだ。
 昔から食べ継がれた食材や、その組み合わせに目を向け、その知恵を生かしている。
 それらが、バランスよく配合され、互いに高め合うことで出来上がるパンなのだ。
 異なるものを融合させて、新しいものを生み出すのが、日本文化の特徴ともいえる。
 常識にとらわれない新しいパン作り、お米のように主食になりうるパン作りを目指している。
 「食は駅伝だ」と言う。たすきを渡すようにリレーで伝えていくものだと思う。「私は、人と人、物と物の接着剤を自認している。「大橋雄二」という名は、2つの間に雄大な橋をかけるという名前。東西の食文化、米と麦、健常者と障害者、伝統食とファーストフード、過去と未来・・・をつなぐ役割を持って生まれてきたようだ。
 ぱん作りのノウハウを惜しげもなく提供し、全国に「地ぱん」を広めている。障害者雇用を踏まえた地域活性化にも協力を惜しまない。「ドクターズベーカリープロジェクト」を立ち上げ、健康に役立つ機能的なメリットを明確にして、効能が実証されるパン作りも究めようと考えている。もう一度言う。大橋雄二、すごい男だ。

 今回の事態は、大橋さんが日頃から言っていた『共生社会の実現』を、図らずも目指していることになる。すごい男が、また、さりげなく、すごいことをしている。
 大橋さんから届いたメールには、「心の乱れ、愛と信頼の欠乏がもたらしたことを浄化するための試練と思い、与えられた使命を果たす」とあった。

■村上信夫プロフィール
NHKチーフアナウンサー
1953年、京都生まれ。
明治学院大学卒業後、
1977年、NHKに入局。
富山、山口、名古屋、東京、大阪に勤務。
現在は、「今日も元気で!わくわくラジオ」(ラジオ第一8:35〜)、
「BS将棋中継」などを担当。
これまで、「おはよう日本」「ニュース7」「育児カレンダー」などを担当。
教育や育児に関する問題に関心を持ち続け、横浜市で父親たちの社会活動グループ
「おやじの腕まくり」を結成。
趣味は、将棋。
著書に「元気のでてくることばたち!」(近代文芸社)
「おやじの腕まくり」(JULA出版局)
「いのちの対話(共著)」(集英社)
「いのちとユーモア(共著)」(集英社)

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1,500円(税別)
おなじの腕まくり「おやじの腕まくり」
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■イネ・セイミプロフィール
フルート奏者として活躍中。俳画家。
絵画を幼少より日展画家の(故)川村行雄氏に師事。俳画を華道彩生会家元(故)村松一平氏に師事。俳画の描法をもとに、少女、猫等を独自のやさしいタッチで描いている。個展多数。

* 俳画教室開講中
 ところ:常滑屋
 と き:月1回 第2金曜日 午後1時〜
 会 費:1回 2,500円(4ヶ月分前納制)
 問合せ:0563−32−0583

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