海外の旅この指とまれちょっとおじゃまします元気のでてくることばたち
元気のでてくることばたち 村上信夫NHKアナウンサー

 澄み切った青空のような声だ。一点の曇りもない声だ。聞いているうちに、心の中の風景が思い浮かび、涙腺が緩む。
 中国から日本に来て23年になる李広宏さんは、日本の童謡や叙情歌を中国語で歌い、日中両国で共感を集めてきた。

人生を変えた水芭蕉
 李さんが、東京で開いたコンサートに行ってきた。台風襲来が予測され風雨が強い日だったのに、満席だった。李さんの歌を聞いて、大病を治したという人が富山から来ていた。その人は、お礼にと、水芭蕉の花を持参していた。

 水芭蕉は、李さんの人生を変えた花といってもいいだろう。中学生の時にラジオから流れてきた『夏の思い出』を聞いて、日本への憧れを抱いた。日中国交正常化に伴い、日本の歌がラジオから聞こえるようになった。文化大革命のさなか、こんなに優しくてロマンティックな歌は、聞いたことがなかった。日本へのあこがれが膨らんだ。これが歌手活動の原点となる。

 李さんは、1961年、蘇州の生まれ。李さんが8歳の時、鉄道エンジニアの父が、亡くなった。42歳の若さだった。
 李さんは、いまでも父の面影を探し求めている。
 18歳で中国の伝統劇団に入り、歌も台詞も踊りも学び、俳優として将来を嘱望されたが、『夏の思い出』の国・日本への思いは強かった。当時の中国人にとって、日本は近代化された多くの可能性を持つ国で、日本に行くことで未来が開けるという思いは強かった。どんな苦労をしてもいいから、日本に行きたかった。
 26歳の時、1987年12月、ついに来日がかなった。皿洗いと清掃の仕事を掛け持ちしながら、東京の日本語学校で勉強した。
 日本語は授業だけでなく、日本語の歌で覚えた。日本の叙情歌のテープを清掃の仲間のおばさんがくれた。当時から日本の歌を中国語で歌い、中国の人に伝えたいと考え、訳詞を作った。自然や家族愛を歌った日本の叙情歌に励まされた。
 東京で中国語の講師となった。スクーリングで出会った日本の女性と、1991年、結婚。兵庫県西宮市の妻の実家に同居することになった。1年後、長男・華和(はるかず)さんが誕生した。中華の「華」に、大和の「和」を重ね合わせて、名づけた。

地球人としての行動
 1995年、華和さんが3歳の時、阪神大震災に遭遇する。妻の実家は全壊、息子を抱えて逃げた。幸い家族は無事だったが、近隣で多くの人が亡くなった。しばらく避難所生活が続いたが、住民たちの横のつながり、助け合いがうれしく、日本中からの支援にも感動した。この時の体験が、後の四川やハイチの支援活動に結びついている。

 阪神大震災の復旧と外国人の心の支えのため、地域の放送局で、中国語で励ましの言葉と歌を送った。歌は人の心をいやすことを確信した。
 その思いで、CD『中国語で歌う日本の心の歌』を自主制作した。以来、日本の童謡や叙情歌を次々と中国語に訳しては歌い、日本でも中国でも大きな反響を呼んできた。

 李さんは、2007年暮れ、NHK紅白歌合戦を見ていた。『千の風になって』を聞いて、画面に釘付けになった。すぐに、亡くなった父を思い起こした。父は、風になって、日本の空の上から見守ってくれていると思うと、胸のつかえが取れたような気がした。
 さっそく、中国語に訳して、レコーディングしていた最中、2008年5月12日、四川大地震が起こった。阪神大震災で子どもを抱きながら、避難した李さんは、学校校舎の倒壊で多くの子どもたちが犠牲になったことに心を痛めた。
 日本から、義援金や励ましの物資を持って、すぐに被災地に入った。想像を絶する被害で、死亡者は9万人、生徒の犠牲者も2万人近くに上った。
 李さんは被災地の仮設住宅や学校でコンサートを開いた。子どもたちの眼は歌を聴いて、きらきらと輝いた。1400人を超える生徒が亡くなった北川(ほくせん)中学では、コンサートの後、一人の母親が歩み寄り、「息子が風になったんだ。この歌を聞いてよかった」と泣いた。一人っ子政策の中国で、たった一人の息子を失った悲しみは深い。

 子どもたちのために学校を建てたいという気持ちが膨らんだ。夫婦の貯金全額800万円を投じて、学校を再建したいと申し出た。その場で決断したが、妻には事前の相談はしなかった。『李広宏中日友好小学校』では、日本語の授業をすることを条件にした。少しでも、日中友好の礎に寄与したいという思いからだ。
 李さんは国を問わず困窮する人々を支援したいと考えている。
 今年2月に起きたハイチ大地震の支援をするため、フランス語も一から勉強した。フランス語圏のハイチを支援する一助になればと、今度は、フランス語版の『千の風になって』を制作したのだ。

 18歳の一人息子の華和(はるかず)さんは、今年中国に渡った。彼は、中国を知らない、中国語も話せない。美術を志す華和さんはフランス留学をめざしていたが、まず中国を知ってもらいたいというのは李さんの願いだった。
 「僕の家庭は、小さな中国と日本、いわば息子はその架け橋。理解しあえば、強い絆が生まれる。自分自身も、身をもって日本と中国の世界の架け橋となりたい」。音楽は国境を超える。李さん自身も国境を越えた地球人として生きている。

■村上信夫プロフィール
NHKチーフアナウンサー
1953年、京都生まれ。
明治学院大学卒業後、
1977年、NHKに入局。
富山、山口、名古屋、東京、大阪に勤務。
現在は、「今日も元気で!わくわくラジオ」(ラジオ第一8:35〜)、
「BS将棋中継」などを担当。
これまで、「おはよう日本」「ニュース7」「育児カレンダー」などを担当。
教育や育児に関する問題に関心を持ち続け、横浜市で父親たちの社会活動グループ
「おやじの腕まくり」を結成。
趣味は、将棋。
著書に「元気のでてくることばたち!」(近代文芸社)
「おやじの腕まくり」(JULA出版局)
「いのちの対話(共著)」(集英社)
「いのちとユーモア(共著)」(集英社)

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1,500円(税別)
おなじの腕まくり「おやじの腕まくり」
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■イネ・セイミプロフィール
フルート奏者として活躍中。俳画家。
絵画を幼少より日展画家の(故)川村行雄氏に師事。俳画を華道彩生会家元(故)村松一平氏に師事。俳画の描法をもとに、少女、猫等を独自のやさしいタッチで描いている。個展多数。

* 俳画教室開講中
 ところ:常滑屋
 と き:月1回 第2金曜日 午後1時〜
 会 費:1回 2,500円(4ヶ月分前納制)
 問合せ:0563−32−0583

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