海外の旅この指とまれちょっとおじゃまします元気のでてくることばたち
元気のでてくることばたち 村上信夫NHKアナウンサー

人呼んで「特攻花」
 平和への思いを新たにする8月。6日も、9日も、15日も、黙祷しながら、先の戦は何だったのか、戦を繰り返さないためには、一人一人がどうしたらいいか、考え続けなければならない。
 28歳の若き写真家の仲田千穂さんも、ファインダーを覗きながら考え続けている。仲田さんは、鹿児島県の喜界島に咲く、太平洋戦争の特攻隊ゆかりの「特攻花」と呼ばれる花を、10年にわたって撮り続けている。
 喜界島の人たちは、かつて海軍の飛行場だった滑走路近くに咲く「テンニンギク」という花のことを、戦後いつしか、『特攻花』と呼ぶようになった。平和を願う花として見守っている。縁が黄色く、中央が赤い花で、高さは50センチくらいと、小ぶりだ。

 太平洋戦争末期、喜界島には、九州の基地から沖縄に向かう特攻機の中継・出撃基地があった。特攻隊員には、娘たちから花が贈られたが、花も一緒に散るのはしのびないと、花を空から落として別れを惜しんだり、花を滑走路に置いて飛び立ったりしたという。その花が、戦後65年経った今も咲き続けていると言われている。

 仲田さんが、『特攻花』と出会ったのは、2001年、19歳、短大2年の夏だった。授業で『特攻花』 のことを知る。講師の「撮りに行きたいやつはおるか?」という声に、なぜか手を挙げた。一目ぼれだった。誰かの後をいつもついていくだけだった自分が、『特攻花』 については、「一人でやってみたい」と思った。自分を変えてくれたのが『特攻花』 だと思っている。
 すぐに喜界島に飛んで行った。喜界島は、鹿児島と沖縄のほぼ中間に位置し、奄美大島の近くにある。島民のだれもが『特攻花』を知っていると思いきや、誰に聞いてもわからない。食堂でも、スーパーでもわからず、花屋のおばあちゃんがやっと知っていた。ようやく見つけた花を見て、「島の人さえ、忘れてしまっている。この花に、いっぱい話を聞きたい」と思った。もし、島の人のだれもが、この花を大切にしていて、すんなりと見つかっていたら、おそらく『特攻花』を撮り続けてはいなかっただろう。
 「小さいけど、凛とした力強さを感じる」魂が宿り、何かを伝えたくて、ここに咲いているのではないかとさえ思う。「大好きな人をぎゅっと抱き締めたような気持ちになる」。
 「65年前のことを知りたい!撮れば何かが見えてくるのでは…」という一心でシャッターを切る。だが、何枚撮っても、自分が思う『特攻花』には、なかなか近づけない。でも『特攻花』を撮りに行くことで、次へのきっかけや頑張りはもらえる。

花の思いを伝える
 『特攻花』に導かれるように、特攻そのものについても知ろうと、鹿児島県の知覧まで行った。知覧特攻平和会館初代館長で元特攻隊員の板津忠正さん(現在86歳)に、平和会館を案内してもらった。

 展示されている写真の中の飛行兵たちは、笑っている。なぜ死を目前にして笑っていられるのか…遺書を読んでも、同世代に思えない。言葉を失った。戦争や特攻隊への考え方が変わった。死ぬ意味を見出して特攻に行った。その運命を国が決めていた。そして、いまも当時の思いを引きずっている人がいる…。
 板津さんは、自分が生き残ったことを「事実や歴史を残していくために自分が生かされた」と考え、戦後、市役所に勤めながら、休日、全国の特攻隊員の遺族を訪ね、遺影や遺書などを集めてまわった。「戦争で亡くなった仲間たちは平和を望んでいた。でも、今の人々が何をすべきか教科書には載っていない。だから、平和を守るために、これからも平和の話をしていこうと思う」と板津さんは話してくれた。仲田さんも「自分が何かすることで、少しでも、板津さんの肩の荷をおろしてあげられれば」と思った。必死で思いを受け止めようという自分がいた。何かを託されているような気になった。

 2005年、初の写真展を大阪、東京、金沢、舞鶴、喜界島で開催した。合わせて2万人あまりが訪れた。たくさんの高齢の経験者たちが来てくれ、いろんなことを教えてもらった。若い人たちも、積極的な感想を寄せてくれた。直接、人と写真が触れ合った。写真の持つ大きな力を再確認した。これまでにまいた種が、さまざまな形で花をつけたと実感した。
 「これまでは、撮りたい写真を撮っていた。これからは、撮らねばならない写真を撮るのだ」と自分の道が見えた気がした。そして、「戦争を記憶している人たちは、もう80歳前後のご高齢。今、耳を傾けなければ、この先の世代には伝わらない」と、時間を見つけては、体験談を聞いて回っている。
 『戦争』を若い世代に伝えようという思いもわきあがってきた。高校や大学で話す機会も増えた。
 「心から、ものすごくわからない何か≠ェこみあがってきた」
 「花が人のように見えてきた。仲田さんが見つけてくれるのを待っていたようだ」
 「写真は綺麗だったが、その裏に戦争という黒いものが秘められていると感じた」
 「特攻隊のあなたたちがいたから、いまの自分がある」
 「特攻花を落としてくれて、ありがとう」…若い人たちも、写真を見て、真摯に考えてくれている。

 特攻隊のことは、調べれば調べるほどわからなくなってきた。自ら志願した人もいれば、行きたくなかった人もいるはずだ。あの戦争は何だったのか。亡くなった人たちのおかげで、我々は生かされているのか。今の時代と礎となったのか…。考えれば考えるほど、わからなくなる。その答えを「特攻花」に求めている気がする。
 『特攻花』を撮り始めて今年で丁度10年目。特攻花と出会う前と出会ってからは、大きく自分が変わった。以前は、自分の思いを伝えると批判されそうで臆病だった。いまは、溢れる思いを伝えないといけない気持ちになった。
 仲田さんの心の中に「一心百花」という言葉が浮かんできた。一つの心が、百の花を開かせる。思いは繋がる。一つの出来事が百のことに繋がる。

■村上信夫プロフィール
NHKチーフアナウンサー
1953年、京都生まれ。
明治学院大学卒業後、
1977年、NHKに入局。
富山、山口、名古屋、東京、大阪に勤務。
現在は、「今日も元気で!わくわくラジオ」(ラジオ第一8:35〜)、
「BS将棋中継」などを担当。
これまで、「おはよう日本」「ニュース7」「育児カレンダー」などを担当。
教育や育児に関する問題に関心を持ち続け、横浜市で父親たちの社会活動グループ
「おやじの腕まくり」を結成。
趣味は、将棋。
著書に「元気のでてくることばたち!」(近代文芸社)
「おやじの腕まくり」(JULA出版局)
「いのちの対話(共著)」(集英社)
「いのちとユーモア(共著)」(集英社)

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■イネ・セイミプロフィール
フルート奏者として活躍中。俳画家。
絵画を幼少より日展画家の(故)川村行雄氏に師事。俳画を華道彩生会家元(故)村松一平氏に師事。俳画の描法をもとに、少女、猫等を独自のやさしいタッチで描いている。個展多数。

* 俳画教室開講中
 ところ:常滑屋
 と き:月1回 第2金曜日 午後1時〜
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 問合せ:0563−32−0583

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