海外の旅この指とまれちょっとおじゃまします元気のでてくることばたち
元気のでてくることばたち 村上信夫NHKアナウンサー

 いま女優としての花が咲き開き始めたサヘル・ローズさん。サヘルという名は、サハラ砂漠周辺の乾燥地帯の名称で、「静か」という意味がある。祖母がつけてくれた。バラが好きな育ての母が、愛称を「ローズ」とつけてくれた。2人の縁の人の思いが重なった名前だ。

壮絶な日々
 生まれた日は正確にわからない。1985年10月21日生まれらしい。イランのクルディスタン地域(イラクとの国境近く)にある小さな町で生まれたらしい。11人兄弟の末っ子、13人の大家族。貧しい土壁の家に住んでいたらしい。

 父は大工をしていたが、手間賃では13人家族は養い切れなかった。食事はスープみたいなものにパンを浸して食べる質素なもので、それを、兄弟全員で競って食べた。全員が生きていくのに精一杯だった。
 空襲警報におびえていた1989 年2月下旬の夜。イラクによる大規模な空襲で、町の住民400人がほとんど死亡した。3歳のサヘルは、両親と兄弟10人を一度に失った。サヘルだけが、奇跡的に助かった。
 空襲から4日目の朝、ボランティアの女子大生が、瓦礫の間に咲く青い花の近くに、小さな手を見つけた。人形の手かと思ったら、サヘルの手だった。その女子大生フローラが今の母だ。救出されたときに、フローラを見て「お母さん」と呼んだらしい。そのときに心は決まっていたのかもしれない。
 サヘルは救出された後、いったん孤児院に入ったが、フローラが数ヵ月後、サヘルを引き取った。フローラには、小さいころから孤児を養子にしたいという夢があった。
 資産家だったフローラの親は、未婚の若い娘が孤児を引き取ることに反対し、絶縁された。寄る辺を失ったフローラは、サヘルを連れて、1993年、日本に留学中の婚約者のイラン人青年を頼り、来日した。フローラ23才。サヘル8才の時だ。
 埼玉県志木市の六畳一間のアパートに、母の婚約者と暮した。つかの間の幸せな三人での生活だった。しかし、婚約者は一週間ほどで、サヘルに暴力を振るい始める。そして、「好きな人ができたから、出て行ってくれ」の一言で追い出された。行くあてのない2人は、公園で生活を始めた。土管の形をした遊具の中で生活した。公園の水道で顔を洗い、娘は小学校へ、母は工場へ出かけた。給食のない土日は、パンの耳を買ってきて二人で食べた。

 そんな日々から救ってくれた人がいた。小学校の給食調理員の女性だった。電話帳を繰って、ペルシャ絨毯を織る仕事を見つけてくれた。調理員たちでお金を出し合って、サヘルの自転車を買ってくれた。小学校では、校長先生が補習授業で日本語を教えてくれた。
 仕事に就いたものの、母の月給は6万円。家賃2万円のアパートには風呂はなく、コインシャワーを浴びた。二日間でツナ缶一つという食生活。スーパーの試食が楽しみだった。つましい生活は続いた…。
 学校で、「イラン人はいらん」と苛められた。だが、母を心配させないために、帰り道で泣き続けても、家に着くと笑顔を作った。学校でも、母の前でも、本当のサヘルは一切見せていなかった。察していた母は、「たとえ裏切られて、それを許せる大きな心を持ちなさい。」「本当の自分と自信を持っていれば、人を許せる心を持つことができる」と教えた。

本当のサヘル
 学校で作った野菜や果物などを持ち帰れば、食の足しになると考え、園芸高校を受験して、合格した。新入生交流会の自己紹介で、「この高校で明るくなりたい。みんなと話したい。沢山の友達をつくりたい」と述べ、ようやく素直な自分が出せ、自分の居場所を見つけることが出来た。常にいい顔をするのをやめた。「ほんとうのサヘル」を取り戻し、人を許せるようになった。「人を嫌いになってはだめ。まず0点にして、点数をプラスしていけばいいんだ」。
 高校3年生のとき、ラジオ局で「日本語の話せる外国人」のリポーター募集に合格。J−WAVE史上最年少リポーターになった。小さいころから、自分の中に「別のキャラクター」を作るのが好きだったサヘルにとって、自分の感性で表現する仕事は向いていた。仕事をしながら、母の願いだった大学にも通い、無事卒業。進路を考えた時、イランで見たドラマ「おしん」を思い出した。
 人を感動させる仕事がしたいと、演劇の専門学校に入った。セリフを読んだら興奮する自分がいた。孤児院から中学まで自分をアピール出来ず、自己主張もしなかった反動から、注目される仕事に快感を覚えたのかもしれない。「役者になれば、自分の存在を知ってもらえる」。サヘルは未来を見つけた。バラエティ番組で脚光を集め、その後、舞台やテレビで活躍の場が増えていった。辛い体験から抜け出せないネガティブなサヘルが時々目覚めるが、異なる人物を演じていれば、そんな自分が忘れられる。

 生き残ったことに、意味があると思う。戦争反対の思いと、平和の大切さを訴えるために、生かされた命を使いたい。目標はハリウッド女優になって、ふるさとに、孤児のために施設を建設することだ。ロバート・デ・ニーロやアル・パチーノと共演したいという夢もある。そして、「いつか、オスカーを取って、母さんに渡したい」。

■村上信夫プロフィール
NHKチーフアナウンサー
1953年、京都生まれ。
明治学院大学卒業後、
1977年、NHKに入局。
富山、山口、名古屋、東京、大阪に勤務。
現在は、「今日も元気で!わくわくラジオ」(ラジオ第一8:35〜)、
「BS将棋中継」などを担当。
これまで、「おはよう日本」「ニュース7」「育児カレンダー」などを担当。
教育や育児に関する問題に関心を持ち続け、横浜市で父親たちの社会活動グループ
「おやじの腕まくり」を結成。
趣味は、将棋。
著書に「元気のでてくることばたち!」(近代文芸社)
「おやじの腕まくり」(JULA出版局)
「いのちの対話(共著)」(集英社)
「いのちとユーモア(共著)」(集英社)

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おなじの腕まくり「おやじの腕まくり」
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■イネ・セイミプロフィール
フルート奏者として活躍中。俳画家。
絵画を幼少より日展画家の(故)川村行雄氏に師事。俳画を華道彩生会家元(故)村松一平氏に師事。俳画の描法をもとに、少女、猫等を独自のやさしいタッチで描いている。個展多数。

* 俳画教室開講中
 ところ:常滑屋
 と き:月1回 第2金曜日 午後1時〜
 会 費:1回 2,500円(4ヶ月分前納制)
 問合せ:0563−32−0583

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