海外の旅この指とまれちょっとおじゃまします元気のでてくることばたち
元気のでてくることばたち 村上信夫NHKアナウンサー

 久郷ポンナレットさんは、1964年、東京オリンピックの年に、カンボジアのプノンペンで生まれた。日本に来てちょうど30年になる。ポル・ポト政権下の壮絶な体験を語りながら、地球の平和を願って講演活動をしたり、カンボジアの伝統文化を伝える活動をしている。

忘れられない1975年
 ポンナレットは、「美しく輝く子ども」という意味だそうだ。その名には、父と母の願いが込められている。10歳までは、両親の愛情をたっぷり受けて育った。父は、国立図書館の館長をしていた。温厚で、責任感が強い人だった。若い頃、映画俳優にスカウトされたほどの2枚目だ。彼女は、「父のような人と結婚したかった」という。母は女学校の先生をしていた。「叱られた記憶がない。いつも笑顔だった」。だが、その父も母もこの世の人ではない。それぞれ44歳と43歳で亡くなった。

 1975年のポル・ポト派によるクーデターの数日後、数百万人のプノンペンの市民全員が立ち退きを命じられた。途中、父は連行された。次姉は栄養失調で病死した。長兄は行方不明になった。母もどこかに連れ去られ、10人家族のうち、6人を失った。
 行き着いた農村では、ろくに食事も与えられず、土木工事や農作業に駆り出された。炎天下、マラリアにも罹り、瀬戸際で一命を取り留めた。79年、ポル・ポト政権崩壊後、タイの難民キャンプに逃れ、日本に留学していた姉を頼って、生き延びた兄二人と80年、来日した。「生きるだけで精いっぱい。あっという間だった」
 壮絶極まりない体験は、このような短い文章では伝えきれない。いや、それを伝えることが目的ではない。今回は、その後の生き方を伝えたい。
 生き残った兄弟は、全員日本に在住している。姉のセタリンさん( 55)は、町田市でカンボジア料理店を営んでいる。トー兄さん( 50)は本厚木、トラ兄さん( 48)は綾瀬にいる。みんな両親の亡くなった年齢を超えた。

四つ葉のクローバーの教え
 来日して、姉の家に身を寄せて、ポンナレットさんは、海老名小学校4年3 組の児童になった。このとき16歳、6歳年下の仲間たちと勉強した。親友になった、まさみちゃんが大切なことを教えてくれた。一緒に四つ葉のクローバーを探し、「四つ葉を見つけた人には、幸運が訪れるんだヨ」と教えてもらった。
 後に、四つ葉の意味は、「希望」「信仰」「愛情」「幸福」と知る。30年のあいだにそのすべてを、手にすることができた。「希望」を持って来日、「信仰」を持って亡くなった家族に想いを馳せ、「愛情」を今の家族に注ぎ、「幸福」でいられる。

 「難民少女、小学校卒業」の新聞記事を見て、一人の日本人男性から手紙が届いた。「僕は、隣の座間市に住む18歳の久郷と申します・・・」という書き出しだった。辛抱強く、温かく支え続けてくれた。彼も、4歳で父を亡くし寂しい子ども時代を送っていた。「海水浴に行くとき、私との肌のバランスを取るため、前日に日焼けしに行き、軽いやけどをしたそうだ」。「デートに2時間遅れても待ってくれていた」。やさしくて、いじらしいところにほだされ、88年、長い間文通を続けていた久郷正彦さんと結婚した。長男、長女に恵まれた。

赦すということ
 99年、難民を助ける会に呼ばれ、体験をスピーチした。人前で体験を語るのは、初めてのことだった。これをきっかけに心の奥にしまっていたことがあふれ出した。ミレニアムというタイミングもきっかけになった。体験を本にしたいという願いが実を結んだ。01年、処女作『色のない空』が刊行される。
 家族もこの本で、体験を知ることになる。「隠していたわけではない。言わなかっただけ」。夫は7回、長男は3回読んでくれた。
 必死に生き延びて幸せをつかみ、時間に余裕ができたと感じたころ、母や姉妹が夢に出てきて訴えた。母と姉妹が「助けて」と叫ぶ夢を何度も見た。言葉にできない苦しさを感じた。「なぜ自分だけ生き残ったのか」・・・それには意味があるはずだ。
 憎しみは、膨大なエネルギーを消耗させる。憎むのではない方法を探し自問自答の日々を送った。思い詰めた末、失った家族の葬儀をしようと決めた。
 05年秋、当時13歳の娘と一緒にカンボジアに向かい慰霊の儀式を行った。二度と足を踏み入れないと誓った村を30年ぶりに訪れた。首都プノンペンの北130キロの農村。7000人が虐殺されたとされる場所だ。
 村へ続く門をくぐると、無数の死者が出迎えているように見えた。涙があふれた。隣の長女が手をさすってくれた。
 たまたま掘り出された骨を、肉親として火葬した。犠牲になったすべての人への祈りを込めた。重労働を強いた元ポル・ポト派の農民も慰霊の儀式に加わってくれた。
 決意の剃髪もした。カンボジアでは、近親者の葬儀で、剃髪する習慣があるが、女性が剃るのは珍しい。頭を剃ってくれたのも、加害者の立場だった年老いた女性だった。指先のぬくもりが伝わり、「この人たちも同じ人間だ」と初めて実感した。
 母親が諭してくれた「憎まない。仕返ししない」という言葉が蘇った。赦す気持ちが湧いてきた。赦すということは、水に流すことではない。真正面から真実に向き合ってこそ赦せる。過去には、たくさんの教訓がある。

 1975年4月、ポル・ポト派による強制退去が始まる直前に撮った家族写真がある。ここに亡くなった兄や姉妹も一緒に写っている。タル兄さんは、フランス留学を夢見る18歳。オーク姉さんは、スポーツ万能、何でも楽しめる17歳。マオ姉さんは、おしとやかな美人の15歳。末娘のナエットちゃんは、クリクリした目、長いまつげの8歳。
 この4人の笑顔は、もう見ることが出来ない。だからこそ、世界中が笑顔で満ち溢れるようになることが、ポンナレットさんの願いだ。

■村上信夫プロフィール
NHKチーフアナウンサー
1953年、京都生まれ。
明治学院大学卒業後、
1977年、NHKに入局。
富山、山口、名古屋、東京、大阪に勤務。
現在は、「今日も元気で!わくわくラジオ」(ラジオ第一8:35〜)、
「BS将棋中継」などを担当。
これまで、「おはよう日本」「ニュース7」「育児カレンダー」などを担当。
教育や育児に関する問題に関心を持ち続け、横浜市で父親たちの社会活動グループ
「おやじの腕まくり」を結成。
趣味は、将棋。
著書に「元気のでてくることばたち!」(近代文芸社)
「おやじの腕まくり」(JULA出版局)
「いのちの対話(共著)」(集英社)
「いのちとユーモア(共著)」(集英社)

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■イネ・セイミプロフィール
フルート奏者として活躍中。俳画家。
絵画を幼少より日展画家の(故)川村行雄氏に師事。俳画を華道彩生会家元(故)村松一平氏に師事。俳画の描法をもとに、少女、猫等を独自のやさしいタッチで描いている。個展多数。

* 俳画教室開講中
 ところ:常滑屋
 と き:月1回 第2金曜日 午後1時〜
 会 費:1回 2,500円(4ヶ月分前納制)
 問合せ:0563−32−0583

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