海外の旅この指とまれちょっとおじゃまします元気のでてくることばたち
元気のでてくることばたち 村上信夫NHKアナウンサー

 東京大学教育学部卒業、バラエティ番組の家庭教師ケイコ先生、タレント活動を経て、いまは浪曲師という経歴を持っている人がいる。その人の名は春野恵子。
 「浪曲に出会って、生きるのが楽になった!求めていた自分のやりたいことが見つかった!って感じなんです」と開口一番の声が弾む。「時代劇とミュージカル。自分のやりたかったことを一人で出来るのが浪曲なんです。いわば一人宝塚かしら」と、いかにも楽しそうに語る。

浪曲に至る道

 春野さんの人生を振り返ると、なぜ今の道に至ったかが、よくわかる。それは、まるで連想ゲームのように連なっていく。
 春野さんの父は、東大名誉教授の唐木英明さん。4歳から6歳までは、父の研究生活に同行してアメリカで暮らした。だから今でも英語が身についている。
 幼いころ、家族からは、「ぼけちゃん」「ぼけいこ」と呼ばれていた。「ぼーっとしていた子どもだったんです」
 春野さんは、小学生の頃から、女優になりたいと思っていた。中学では、演劇部、高校では、英語劇部で活動していた。また、バンド活動もしていた。人前で表現するのが好きだった。高校3年生の学園祭では、ミュージカル『ミス・サイゴン』のナンバー「I still believe」を歌った。ミュージカルにも憧れていた。
 そうかと思えば、「江戸時代に生まれたかった」というほど、時代劇にも憧れていた。「いつお呼びがかかってもいいように、お茶の稽古もしていた」そうだ。
 ちょんまげ物が好きだからか、相撲の大ファンで、高校の制服姿で近くの相撲部屋通いをしていた。なんとか相撲界の役に立ちたいと思った春野さんは、「スポーツ心理学やれば、相撲診療所に入れるかも」と、東京大学体育学健康教育学科を目指すことにする。それからは東大一直線。高校の先生からは、成績を考えると難しいからと反対されたが、猛勉強で合格を果たした。この頃から「無謀と思えることにチャレンジするのが好き」だった。
 大学卒業後、いったん出版社に就職したものの、2年で退職した。女優への夢を諦められず、アルバイトしながら、芸能事務所に履歴書を送る日々を過ごしていた。
 そんなある日、民放のバラエティ番組で、タレントを特訓して東大を目指す家庭教師のケイコ先生の仕事が舞い込んだ。もともと集中力はある方だが、この体験でさらに鍛えられた。8ヶ月正真正銘の缶詰状態で、狭い部屋から一歩も外に出られなかった。「どんな逆境でも耐えられる力がついた」

 ケイコ先生は人気を博し、その後、司会やドラマやCMなどの仕事が次々と舞い込んできた。望みがかなったはずなのに、地に足がついていないと、春野さんは釈然としなかった。「言われる仕事をさせられるだけでいいのか…」と。生きている実感、生きている手ごたえがなかった。
 そんなある日、落語を聞いて気が晴れた。「一人一人の頭の中に映像を作り上げる芸はすごい!」と感心した。しばらくして、今度は、講談を聞きに行った。そのとき講談と同じ舞台で公演されていた浪曲に出会った。聞いているうちに、「これだ!これだ!」と興奮してしまい、その日のうちに浪曲をやると決めていた。

浪曲道まっしぐら

 2003年、関西浪曲界の重鎮、春野百合子師匠に弟子入りを決めた。29歳の決断である。気鋭の浪曲師、国本武春さんから渡されたテープの中に百合子師匠の録音があった。それを聞いたとたん、この人に弟子入りしたい!と直感した。「自分の人生がやっと始まる」という手ごたえを感じた。
 東京から夜行バスに乗って大阪へ行き、弟子入りを直訴した。最初は断られたが、しつこく食い下がって、なんとか弟子入りを許された。
 入門した年の大晦日、決意を表すため、バリカンで丸刈りにして大阪に引っ越した。「大阪の人情は温かい。浪曲にも人情が詰まっているからちょうどいい」と思っている。

 浪曲師は、机を前にして語る。机には、思い思いのテーブル掛けを用意する。春野さんのは、青、赤、黄の3原色に彩られ、まるで旗のように見える。オランダ出身の抽象画家モンドリアンの作品をモチーフにしたそうだ。
 浪曲は、《一声(いちこえ)二節(にふし)三啖呵(さんたんか.せりふ)》と言われる。歌のように節をつけ、せりふに当たる啖呵を切るとき、とにかく声の力が大切だ。まずは声を作らなければならない。声を作るには、刷り込むしかない。低い声を意識して出すようにしている。春野さんの稽古場は、カラオケボックス。そこなら気兼ねなく声が出せる。マイカーの中もいい稽古場だ。
 百合子師匠から、少しでも多くのものを吸収して、人の心に響くような語れる努力を積み重ねている。今年に入って、若手が集まって旗揚げした《新星浪曲☆新宣組》のメンバーにも加わった。まさに浪曲を「新しく宣伝する組」。これまでの浪曲ファンはもとより、若いファン層も広げたいと張り切っている。
 春野さんの夢は、NHKの大河ドラマに出ること。時代劇好きとしては、大河は憧れの的。どんな役でと聞いたら、「戦うお姫様」と答えが返ってきた。

■村上信夫プロフィール
NHKチーフアナウンサー
1953年、京都生まれ。
明治学院大学卒業後、
1977年、NHKに入局。
富山、山口、名古屋、東京、大阪に勤務。
現在は、「今日も元気で!わくわくラジオ」(ラジオ第一8:35〜)、
「BS将棋中継」などを担当。
これまで、「おはよう日本」「ニュース7」「育児カレンダー」などを担当。
教育や育児に関する問題に関心を持ち続け、横浜市で父親たちの社会活動グループ
「おやじの腕まくり」を結成。
趣味は、将棋。
著書に「元気のでてくることばたち!」(近代文芸社)
「おやじの腕まくり」(JULA出版局)
「いのちの対話(共著)」(集英社)
「いのちとユーモア(共著)」(集英社)

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おなじの腕まくり「おやじの腕まくり」
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■イネ・セイミプロフィール
フルート奏者として活躍中。俳画家。
絵画を幼少より日展画家の(故)川村行雄氏に師事。俳画を華道彩生会家元(故)村松一平氏に師事。俳画の描法をもとに、少女、猫等を独自のやさしいタッチで描いている。個展多数。

* 俳画教室開講中
 ところ:常滑屋
 と き:月1回 第2金曜日 午後1時〜
 会 費:1回 2,500円(4ヶ月分前納制)
 問合せ:0563−32−0583

イネ・セイミ

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