海外の旅この指とまれちょっとおじゃまします元気のでてくることばたち
元気のでてくることばたち 村上信夫NHKアナウンサー

引き際の美学
 竹内結子さん主演の朝の連続テレビ小説『あすか』のテーマソングをご記憶だろうか。甘く、優しく、時に哀しく、そして爽やかに響くテーマソングを奏でていたのは、オーボエ奏者の宮本文昭さんだ。
 その宮本さんが、57歳にして早すぎる引退をしてしまった。3月31日で演奏家としてのピリオドを打った。「桜のように、パッと咲いてパッと散りたい。自分の節目は自分で決めるつもりでやってきた。絶好調のうちにやめたほうが、人々の記憶に残る」との弁だが、いささか格好よすぎる。しかし、未練を断ち切れない人が多いから、この決断が注目を浴びるのだろう。

 引退と言っても音楽界から身を引くわけではない。「常にチャレンジャーでありたい。自分からオーボエの演奏を取って、何が出来るか未知の可能性に挑戦したい。後進の指導、オーケストラの指揮、作曲、制作…やりたいことがいっぱいある。オーボエをやめても、これからますます発展していく!」
 オーボエを始めて40年。「このままオーボエだけの人生で終わるより、身軽になって新しい自分を発見したい」引退というより、オーボエからの卒業という表現がいいかもしれない。

弁当が人生を変えた!?
 そもそもの始まりは、日比谷公会堂に弁当を届けに行ったことからだ。中学2年のとき。ベートーヴェンの第9の演奏会に出演していた父のもとに弁当を届けに行って、会場の扉を開けた瞬間、「第4楽章の曲が盛り上がってパタッと静かになるところ」に遭遇。「神の啓示か!?」と電撃的ショックを受けた。
 父が声楽家、母が音楽教師という家に育った宮本さんは、クラシックは意図的に聞かなかった。それまで音楽の道に進むことなど考えたことがなかったのに、「音楽やりたい!」と即座に思った。
 そう決断して、楽器をオーボエにしたのは消去法だった。突然、クラシックをやりたいと言い出した息子の為に父が「他の楽器は、始めるには年齢的に遅い。オーボエなら奏者が少ないし、活路がありそうだ。しかも楽器の値段が安い」とアドバイスしてくれた。
 オーボエは、口をつける先端の部分(リード)を奏者が自分で削る。素材は葦の茎。12時間水に浸して、二つ割りにしてカンナをかける。とにかくいつもいつも削っている。削りにかける時間は膨大だ。ほんの少しの削り方の違いが音を変えてしまう。曲目に合わせて作り分ける。10個削って、1個使えるかどうか…。寿命は3日。常に数10本のリードを持ち歩いている。オーボエ奏者は、手先も器用でないといけない。父が消去法で選んだときは、このことは知らなかった。「知っていれば選ばなかっただろうなぁ…」
 オーボエを始めてまもない高校一年の時、来日したオーボエの第一人者、ヘルムート・ヴィンシャーマンさんの演奏を聴いた。「躍動感にあふれ、会場全体を音が駆け巡る感じ」だった。手紙を書いて弟子入りを直訴した。18歳でドイツに留学して、ヴィンシャーマンさんに弟子入りがかない、腕を磨いた。デトモントの音楽学校を首席で卒業した。しかし、宮本さんは不満だった。「恩情で首席にしてくれたのが自分にはわかった」からだ。常に現状に満足しない性格なのだ。


 オーケストラの善し悪しは、オーエを聞けばわかると言われる。ストイックにオーボエの奥義を求め続けた宮本さんは、エッセン市立交響楽団、フランクフルト放送交響楽団、ケルン放送交響楽団と、いずれのオーケストラでも首席オーボエ奏者を務めた。本人は優秀だとか首席だとか言われると大照れに照れるが、どれだけ謙遜しようと、「首席」という実績は動かしようがない。
 1999年に、ケルン放送交響楽団の首席奏者という立場に、自らの意思で別れを告げ帰国した。一演奏家として、国内での活動を展開する。

遺伝子を伝える
 かつて宮本さんは、「オーボエは、自分の心の翻訳機」と言っていた。その心を表現出来る道具が人前で使えなくなるが大丈夫かと、聞いてみた。
 「演奏していると、自分の生きざまが表れる。自分の中で一番大事なことを音にして、聴く人と魂のやりとりが出来る喜びが、オーボエを通しては出来なくなる。だけど違う形でもそれは可能なはずだ」と明快な答えが返ってきた。
 これからは、東京音楽大学教授として、「自分の体を実験台にして開発した方法」を伝えていくことになる。
 ドイツであるご婦人から「あなたはヴィンシャーマンの弟子か」と当てられたことがあった。「その一言を聞いて、知らず知らずのうちに師匠の遺伝子が入り込んでいることに気づいて嬉しくなった」
 宮本さんも自分の遺伝子を伝えたいと思っている。「これから新しく起こることにわくわくしている」
 引退にありがちな湿っぽさは、どこにもなかった。

■村上信夫プロフィール
NHKチーフアナウンサー
1953年、京都生まれ。
明治学院大学卒業後、
1977年、NHKに入局。
富山、山口、名古屋、東京、大阪に勤務。
現在は、「今日も元気で!わくわくラジオ」(ラジオ第一8:35〜)、
「BS将棋中継」などを担当。
これまで、「おはよう日本」「ニュース7」「育児カレンダー」などを担当。
教育や育児に関する問題に関心を持ち続け、横浜市で父親たちの社会活動グループ
「おやじの腕まくり」を結成。
趣味は、将棋。
著書に「元気のでてくることばたち!」(近代文芸社)
「おやじの腕まくり」(JULA出版局)
「いのちの対話(共著)」(集英社)
「いのちとユーモア(共著)」(集英社)
「元気のでてくる"ことばたち"」
(近代文芸社)
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おなじの腕まくり「おやじの腕まくり」
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■イネ・セイミプロフィール
フルート奏者として活躍中。俳画家。
絵画を幼少より日展画家の(故)川村行雄氏に師事。俳画を華道彩生会家元(故)村松一平氏に師事。俳画の描法をもとに、少女、猫等を独自のやさしいタッチで描いている。個展多数。

* 俳画教室開講中
 ところ:常滑屋
 と き:月1回 第2金曜日 午後1時〜
 会 費:1回 2,500円(4ヶ月分前納制)
 問合せ:0563−32−0583

イネ・セイミ

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