海外の旅この指とまれちょっとおじゃまします元気のでてくることばたち
元気のでてくることばたち 村上信夫NHKアナウンサー

 他人になると自由になれる

 あるときは、さびれた酒場のバーテン、あるときは、家族旅行に来て一人舞い上がるお父さん、あるときは、会社からダメ社員の烙印を押されたことを告白するサラリーマン、息子の付き添いで結婚相談所にきた母親…、そんなどこにでもいそうな「普通の人々」を一人芝居で演じることをライフワークにしているのが俳優のイッセー尾形さん。
 一人芝居をはじめて25年。これまでに演じた人物は450人を超えるという。1年間にこなす公演は120回に及ぶ。

 一人芝居に登場する人物は、欠点の目立つ人が多い。身勝手な小心者、話を聞かない人、自分に甘く他人に厳しい人…、そばにいたら、腹が立ったり、ちょっと引いてしまう人物ばかりだ。観客はきっと身につまされるのだろう。自分が笑われているような気になるのだろう。イッセーさんの演技を見ているうちに、知らず知らずのうちに自分の中の見たくない部分、隠している部分と遭遇しているのかもしれない。怖いもの見たさのようなところがあって、ついつい何度も足を運んでしまうのだろう。
 イッセーさん自身も、「ふだんは見て見ぬふりしなければならない他人の傲慢さ、卑屈さ、性格の歪み。舞台なら、そんな欠点を思い切り笑える」と思っている。自分の中に住んでいる何十人、何百人の自分との出会いを楽しんでいる。「他人になっていると、自由になれるんだ」

 リアクションと想像力の芸

 イッセー尾形さんは、昭和27(1952)年福岡生まれの54歳。
 大学浪人中に、突如、演劇に目覚めた。しかし役者だけでは食べていけない。昼は肉体労働、夜は仲間と演劇の稽古という日々だった。
 1971年、新宿の演劇学校で一人の人物に出会う。イッセーさんの一人芝居の構成や演出を手掛けている演出家・森田雄三さん。彼との出会いがなければ、一人芝居は生まれていない。イッセーさんが表現に行き詰まったとき、一歩前進したと思えることを直感的に口にしてくれる森田さんとは、波長があった。「自分の思いとのズレを指摘されることが心地よかったのかもしれない」
 森田塾という形で、仲間と演劇活動を始めたが、一人減り二人減りして、最後に森田さんとイッセーさんの二人だけが残った。おのずと出来るのは、イッセーさんの一人芝居だけだった。こうして一人芝居は始まった。

 初めての一人芝居公演は《バーテンの12の素描》、1980年、28歳のときだった。どこかあやしげなバーテンの姿を12態演じ分けた。
 1981年、民放番組の『お笑いスター誕生』で、8週連続勝ち抜きの金賞を獲得。互いに働いていたので、稽古は夜しか出来なかった。夜の公園の水銀灯の下で懸命に稽古した賜物だった。
 以来、働きながら一人芝居の日々が続く。年に2回、渋谷のジャンジャンでネタを発表することを5年続けた。その結果、1985年、芸術選奨新人賞を受賞し、俳優に専念することにした。
 初期は、様々な職業を演じていたが、90年代半ば、バブルが崩壊しはじめた頃からは、サラリーマンものが多くなった。子だくさんの大家族を抱えた悲哀の漂うサラリーマンが受けた。フリーター、不登校、ひきこもりなど時代を反映した作品も上演した。そして最近は、老人ホームを抜け出し美容院にきたおばあちゃん、ぶつぶつ言いながら演奏するチェロじじいなど、「老い」をテーマにしたものが増えている。
 かなり社会情勢を意識して公演のテーマを選んでいるようだが、イッセーさんは、やんわりと否定する。「時代がアクションを起こし、僕はリアクションしているだけ」
 画家の山藤章二さんが、「時代を映す歪んだ鏡」と評したことがある。「言い得て妙。せめて鏡が曇らないようにしないと…」と思った。

 イッセーさんは、自分のことを《観客の想像力頼りの芸風》と揶揄する。観客の想像力が、僕の演じる人物を、実像に引き上げる。演じる人物のモデルはいても、演じ始めるとどこかへ消える。「再現することより、発明や発見をすることが大切。思い出したり真似したりしているのではない。客の前で、演じているうちに見えてくる、その場で生まれるものを大切にしたい」
 想像力を膨らませるためにも《間》が大切なのは言うまでもない。目の前でイッセーさんが演じている、そこにはいない人物が《間》に見え隠れする。

 このところ、《イッセー尾形とフツーの人々》と名付けたワークショップに力を入れている。全く芝居経験のない人が、必死に役を作る姿に、イッセーさんも心打たれる。このワークショップは、あらかじめ筋立ては考えない。「生身が生身を作る」をキャッチフレーズに参加者のイメージの膨らませ方に期待する。窮地に陥ったとき、生身の自分から、何が飛び出してくるのか、参加者がそれを楽しめ、受け入れることが出来れば、自然体の演技が出来るようになる。ふだんは意識していないが、自分の中でインパクトが強いと思っている人を演じることで、自分の思いのズレに気づく。十人十色のズレが集合するワークショップは面白い。「僕も、今まで以上に、白紙の状態で、頭に浮かぶことを自由に表現するようになった」

 イッセーさんの一人芝居に登場する人物は、せこいけど、どこかけなげ。明日は谷底に落ちるかもしれないのに懸命に頑張っている。微妙なズレの中で生きている。
 久々に再開した小松政夫さんや桃井かおりさんとの二人芝居では、互いの個性のズレを楽しんでいる。海外公演では、現地の俳優たちとそれぞれの言語で舞台共演して、言語が違うズレを楽しんでいる。
 「ズレを楽しむ」が、イッセーさんのキーワードなのだ。だが、本人は「確かにズレはズレなんだけど、何かしっくり来ない。ズレに変わる言葉を見つけなくちゃ」とズレに満足していない。

■村上信夫プロフィール
NHKチーフアナウンサー
1953年、京都生まれ。
明治学院大学卒業後、
1977年、NHKに入局。
富山、山口、名古屋、東京、大阪に勤務。
現在は、「今日も元気で!わくわくラジオ」(ラジオ第一8:35〜)、
「BS将棋中継」などを担当。
これまで、「おはよう日本」「ニュース7」「育児カレンダー」などを担当。
教育や育児に関する問題に関心を持ち続け、横浜市で父親たちの社会活動グループ
「おやじの腕まくり」を結成。
趣味は、将棋。
著書に「元気のでてくることばたち!」(近代文芸社)
「おやじの腕まくり」(JULA出版局)
「いのちの対話(共著)」(集英社)
「いのちとユーモア(共著)」(集英社)
「元気のでてくる"ことばたち"」
(近代文芸社)
1,500円(税別)
おなじの腕まくり「おやじの腕まくり」
(JULA出版局)
1,400円(税別)

■イネ・セイミプロフィール
フルート奏者として活躍中。俳画家。
絵画を幼少より日展画家の(故)川村行雄氏に師事。俳画を華道彩生会家元(故)村松一平氏に師事。俳画の描法をもとに、少女、猫等を独自のやさしいタッチで描いている。個展多数。

* 俳画教室開講中
 ところ:常滑屋
 と き:月1回 第4金曜日 午前10時15分〜
 会 費:1回 2,500円(4ヶ月分前納制)
 問合せ:0563−58−1639

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