海外の旅この指とまれちょっとおじゃまします元気のでてくることばたち
元気のでてくることばたち 村上信夫NHKアナウンサー

おかしみのある人
 「坂田明のサックスは、狂暴で優しく低能で知的だ」と評するのは、諏訪中央病院の医師、鎌田實さんだ。低能とは言い過ぎのきらいがあるが、確かに、狂暴のように見えて優しく、低能に見えて知的なものが、その演奏から感じられる。多面体、複合体、柔軟、融通無碍…、ひとくくりなどに出来ない。
 サックス奏者・坂田明さんは、とにかく不思議なおかしみを持ち合わせている人だ。真面目な語り口をおかしみが包み込んでいる。話している最中にいたずらを思いついたような少年の眼差しで見つめられると、吹き出したくなってしまう。還暦を迎えてなお、可愛気のある人だ。

 20歳のとき、アメリカのサックス奏者・コルトレーンの演奏を聞いて衝撃を受けた。「大地に根差した響きから、魂を揺さぶられた」
 ミュージシャンになるしかないと思った。6年かかって広島大学水産学部を卒業して上京。働きながら、ライブハウスで演奏した。たった一人の客の前で演奏したこともある。食費にも交通費にも事欠くという時期もあった。
 しかし、1972年、山下洋輔トリオに参加してからは、メジャーになっていく。1980年、SAKATA TRIOを結成。以降、ユニークな名前のグループを次々活動の場にしている。いまは、坂田明3mii(みい)が活動の中心。全国各地で、年に100回あまりのライブをこなしている。

瀬戸内の困ったガキ
 「♪船頭かわいや 音戸の瀬戸で 一丈五尺の櫓がしわる」
 坂田さんは、海外公演のとき、その国の歌で歓迎されたら、『音戸の舟唄』をお返しに歌っている。
潮の香りのする故郷の歌には、いろんな思いが去来する。

 坂田さんは、昭和20年2月21日、広島県の呉市に生まれた。昭和20年生まれということを、かなり意識してきたかと問うと、「僕らは戦腹派なんだ」と答えが返ってきた。説明するまでもないと思うが、戦争中、母親の胎内にいたという意味である。
 「空襲警報が鳴り、背中に僕をおぶった母が、暗闇の中を逃げていて、足を踏み外し、海に落ちたことがあるんだ」戦時中のエピソードにすら、どこかおかしみがある。
 戦後も、「連合駐留軍が日常生活の中にいて、貧乏だということを味わいながらも、その貧乏な日本で、少年期を過したことが、どんなに心豊かなことだったか」と瀬戸内で過した少年時代を振り返る。

 坂田さんは、呉市の長浜という瀬戸内海に面した漁村で生まれ育った。「少年時代の出来事は、全てかけがえのない財産」だという。坂田明を形作ったものは、瀬戸内と言い切ってもいいだろう。
 ガキ大将ではなかった。「うそつきで素直でおっちょこちょい」の困ったガキだった。畑の作物を失敬するなどのイタズラをしては、怒られてばかりいた。母には、よくお灸をすえられた。
 イタズラばかりしていたわけではない。坂田少年は、家の手伝いをよくした。畑仕事、水汲み、薪割り、草刈り、飯炊き、風呂焚き、父のトラック運送の助手、牛の世話…。大人のすることを手伝う喜びがあった。「大人の仲間入りをしたような気持ちになって嬉しかった」
 もちろん海では、よく遊んだ。越中ふんどし姿で泳ぎもしたし、魚とりもした。牡蛎を見つけると石で割って、潮水で洗ってほおばった。学校へは、伝馬船を漕いで行った。学校の運動場の端は海だった。
 小学校時代で思い出すのは、采(うね)先生のことだ。イタズラをしても優しく諭してくれた。後年、先生が上京した折り、蕨市の坂田家を訪ねたが留守だった。坂田さんが帰宅したら、玄関前の自転車のカゴに、封筒が置かれていた。開けたら手紙と一万円札が入っていた。翌日、先生が逗留している娘さんの家に行くと、「あんた、えらかったのう」と手を握って誉めてくれた。先生からもらったたくさんのものが、いまでも「心の栄養」になっている。

ミジンコはいのちの先生
 ミジンコの研究者としても知られているが、ご本人は「ミジンコ研究者にあらず。ミジンコ勉強家」という。たった三週間の寿命のミジンコが、いのちの仕組みを教えてくれる。息子が、縁日の金魚すくいで、金魚を持ち帰ったことが、ミジンコ道に踏み入れるきっかけだった。25年ほど前から、水生生物を飼い始め、エサとしてミジンコを使いはじめた。顕微鏡で、ミジンコを眺めていると飽きない。不思議に心安らぐ。
 ミジンコは、脳や心臓も透けて見える。「いのちが見える!」のだ。ミジンコは、0.5ミリから、2ミリの小さな小さな生き物だ。
 ミジンコを見てると、いのちは、ほかのいのちに支えられていることを実感する。
 100キロのカジキマグロがいたとする。100キロになるには、体重10〜20倍は食べなければならない。カツオやマグロを1トン食べる。カツオやマグロは、サバやイワシを10トン食べる。サバやイワシは、100トンの動物プランクトンを食べる。動物プランクトンは、1000トンの植物プランクトンを食べる。それらを育てるために、太陽と水と土がいる。
 「ミジンコはミジンコの都合で生きている」のだ。生き物は、それぞれの都合で生きているのだ。「人間は、自分たちの愛が、すべてに通じるというおごりを捨てるべき!」と訴える声に力が入る。
 地球は、膨大な数のいのちが、互いに育て合い、絶妙なバランスを保っている世界だ。「ミジンコは、透明な体で、いのちの何たるかを教えてくれているんだ」と、目を細めて無邪気に語る姿を見ていると、「この人はいったい何者?」とひとくくりに出来る人ではないことに改めて気づく。

■村上信夫プロフィール
NHKチーフアナウンサー
1953年、京都生まれ。
明治学院大学卒業後、
1977年、NHKに入局。
富山、山口、名古屋、東京、大阪に勤務。
現在は、「今日も元気で!わくわくラジオ」(ラジオ第一8:35〜)、
「BS将棋中継」などを担当。
これまで、「おはよう日本」「ニュース7」「育児カレンダー」などを担当。
教育や育児に関する問題に関心を持ち続け、横浜市で父親たちの社会活動グループ
「おやじの腕まくり」を結成。
趣味は、将棋。
著書に「元気のでてくることばたち!」(近代文芸社)
「おやじの腕まくり」(JULA出版局)
「いのちの対話(共著)」(集英社)
「いのちとユーモア(共著)」(集英社)

「元気のでてくる"ことばたち"」
(近代文芸社)
1,500円(税別)
おなじの腕まくり「おやじの腕まくり」
(JULA出版局)
1,400円(税別)
「言えなかったありがとう」
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■イネ・セイミプロフィール
フルート奏者として活躍中。俳画家。
絵画を幼少より日展画家の(故)川村行雄氏に師事。俳画を華道彩生会家元(故)村松一平氏に師事。俳画の描法をもとに、少女、猫等を独自のやさしいタッチで描いている。個展多数。

* 俳画教室開講中
 ところ:常滑屋
 と き:月1回 第2金曜日 午後1時〜
 会 費:1回 2,500円(4ヶ月分前納制)
 問合せ:0563−32−0583

イネ・セイミ

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