海外の旅この指とまれちょっとおじゃまします元気のでてくることばたち
元気のでてくることばたち 村上信夫NHKアナウンサー

 萩本欽一さんなどというと、すごくよそよそしく感じる。やはり「欽ちゃん!」と呼びたい。還暦過ぎた今も、誰からも「欽ちゃん!」と呼ばれている。
 お茶の間の人気者は、いま野球場の人気者になっている。茨城ゴールデンゴールズの監督として行く先々で、その行動や言動が注目を集めている。
 欽ちゃんが率いるのは、霞ケ浦の南、茨城県稲敷市(旧・桜川村)に本拠地を置く社会人野球のクラブチーム・茨城ゴールデンゴールズだ。全国クラブ選手権の北関東代表になり、9月の全国大会に出場が決まっている。
 「監督は面白い!」と言い切る。「テレビ局のスタジオはせまい!野球場は広いよー。劇場が広いからワクワクするよ」「誰もやっていない初めてのことに取り組むのは、楽しいよー」

野球は楽しくなくちゃ
 もともと大の野球好きだった。少年のころは、プロ野球選手になるのが夢だった。中学では野球部に入っていた。7番ライト、レギュラーだったが、打率は一割七分だった。そして、同世代の王貞治は、憧れの的だった。
 そんなに大好きだったプロ野球が、最近つまらなくなった。欽ちゃんは、「なんとかして、面白くしたい!明るくしたい!」と思っている。「野球が飽きられたのは、同じ企画で、出演者をとっかえひっかえしてるだけだから」だ。
 勝つための野球にこだわりすぎて、筋書きのあるドラマになってしまった。「送りバントは、やめてほしい。サードコーチもいらない。選手自身の判断で走塁させたらいい。キャッチャーも審判も、どうして観客にいつもおしり向けてるの?三振取れたらピースサインくらいしてもいいでしょ」

 去年8月、糸井重里さんと「野球界から芸能界入りしたのは何人もいるが、芸能界から野球界入りは一人もいない。行けば最初の人だね」と冗談話していたら、それが現実のものになった。
 野球と住民の《一つのまとまり》を作るために、小さな《村》でやりたかった。村の人と同じ体験をして、喜怒哀楽を共有したいと思った。そうしたら、格好の条件の茨城県桜川村が名乗りをあげてくれた。欽ちゃんの培った人のつながりの中で、とんとん拍子に話が進んだ。チーム名は、頂点(金メダル)目指す「金(欽)の中の金(欽)」から、ゴールデンゴールズと名付けられた。
 集まった選手たちもユニークだ。入団第一号は、女子高生だった。性別の壁でプロになれない少女だった。プロ野球からの転身スラッガーもいる。ドラフト会議にノミネートされなかった甲子園球児もいる。ほかに、タレント、俳優、民放アナウンサー…。
 欽一監督が目指すは、「笑いと感動が共存する野球」だ。三歳の子どもが見ても、専門家が見ても面白い野球。欽ちゃんは、とにかく、人が好き。人が喜んでいる顔を見てるのが好き。人を喜ばせるのが好きなのだ。

 楽しい野球のアイデアは、いっぱいある。ゴールデンゴールズでは、エラーをしても悲しい顔は禁物だ。「てやんでい、へっちゃらだいの態度で行こう」と監督はおっしゃる。「アウトになっても明るく。空を見上げてスキップでベンチに戻れ」と指示する。ホームラン打ってホームベースにたどり着いたら、観客に「ただいまー」と挨拶する。観客も「おかえりー」と応じる。
 考えてみれば、笑いを提供する場が、ブラウン管からグラウンドに移っただけということかもしれない。しかも欽一監督は、グラウンドよりスタンドを見ていることが多い。退屈しているように見える観客がいたら、マイクでしゃべりだす。野球が足りないところを言葉で補う。
 野球が終わったあとも、選手は帰らない。地方球場で試合した時は、スタンドに向かって「とうちゃんか、かあちゃんいるかい?」と呼びかける。いたら、選手と話させる。「きょうはヒット打ってよかったね」「ずいぶん帰ってきてないね」と親子の対話が飛び交う。「かあちゃん、もう少し野球やらせてね」と選手が母に語りかける姿に、ほかの選手が貰い泣きをしたこともある。スタンドからも拍手が沸いた。

欽ちゃんは、人育て名人
 欽ちゃんが、コント55号を結成したのは、25歳の時。ちなみに「55」は王貞治のホームラン記録にちなんだものだ。野球好きがここにも現れている。
 テレビ画面から飛び出すダイナミックなコントが大受けした。人気絶頂期に55号を解散した後も、《欽どこ》《欽ドン》《週間欽曜日》などヒット番組を連発し、一週間の合計視聴率が100%を超えたこともあった。
 番組には、お笑いとは無縁のタレントや素人を好んで起用した。人材発掘はお手の物だった。個性を見いだし、個性を伸ばすのが得意なのだ。それは、ゴールデンゴールズのチームカラー作りにも生かされているようだ。
 バッターボックスに入る前の選手に「おまえ、汚い顔してるね」と言うと、選手が笑う。すかさず「綺麗なヒット打ってね」と続ける。そうすると、汚名返上?とばかりクリーンヒットが飛び出す。そして欽ちゃんは言う。「ヒットをたくさん打つより、打率の高さより、観客が喜んだヒットにこそ価値があるんだ」

 欽ちゃんが、こよなく敬愛する人と言えば、チャップリン。どうしても会いたくて、スイスのレマン湖のほとりにある家まで出掛けた。一回り13分もかかる大きな家だった。真冬、震えながら、家の前で、気づいてくれるのを待っていた。ついに4日目、応接間に招きいれてくれた。1971年1月27日のことだった。チャップリン82歳。欽ちゃん29歳。
 こんなに優しい目をした人はいないと思った。写真嫌いで知られるチャップリンだが、普段着で、写真撮影にも応じてくれた。日本から来た見ず知らずの青年に会ってくれたチャップリンの優しさは、欽ちゃんにも脈々と受け継がれている。野球場に来てくれた観客の最後の一人が帰るまでサインをしている。

■村上信夫プロフィール
NHKチーフアナウンサー
1953年、京都生まれ。
明治学院大学卒業後、
1977年、NHKに入局。
富山、山口、名古屋、東京、大阪に勤務。
現在は、「今日も元気で!わくわくラジオ」(ラジオ第一8:35〜)、
「BS将棋中継」などを担当。
これまで、「おはよう日本」「ニュース7」「育児カレンダー」などを担当。
教育や育児に関する問題に関心を持ち続け、横浜市で父親たちの社会活動グループ
「おやじの腕まくり」を結成。
趣味は、将棋。
著書に「元気のでてくることばたち!」(近代文芸社)
「おやじの腕まくり」(JULA出版局)
「いのちの対話(共著)」(集英社)
「いのちとユーモア(共著)」(集英社)

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■イネ・セイミプロフィール
フルート奏者として活躍中。俳画家。
絵画を幼少より日展画家の(故)川村行雄氏に師事。俳画を華道彩生会家元(故)村松一平氏に師事。俳画の描法をもとに、少女、猫等を独自のやさしいタッチで描いている。個展多数。

* 俳画教室開講中
 ところ:常滑屋
 と き:月1回 第2金曜日 午後1時〜
 会 費:1回 2,500円(4ヶ月分前納制)
 問合せ:0563−32−0583

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