海外の旅この指とまれちょっとおじゃまします元気のでてくることばたち
元気のでてくることばたち 村上信夫NHKアナウンサー

 巷では、マツケンサンバのブームが衰える気配は見えない。あっちでもこっちでも、老いも若きも、あのリズムに乗って、軽快に手を振り、足を繰り出し、愉快に踊る。不景気な顔をしている人はいない。大袈裟に言えば、現代の「ええじゃないか」と思うほどだ。
 その曲の生みの親は、作曲家の宮川彬良さん。この人の作り出す音楽は、どれもこれも、ハッピーな気持ちにしてくれる。
 「僕はブレイクとは無縁だと思っていた」 10年前に作った曲が、こんなに受けるとは、本人も驚いている。松平健さんのショーの最後に歌う曲をリニューアルしたいと依頼を受けた。とにかく豪華な雰囲気でサンバを踊りながら歌いたいという要望だった。「叩けボンゴ!響けサンバ!踊れ南のカルナバル…」歌詞を見た瞬間、反射的にメロディーが浮かんできた。しかし、社会現象のようになるとは想像もしなかった。

父という存在
 宮川さんは、子どもの頃から、音に敏感だった。そして何よりも、傍らには、おのずと音楽への道を歩む刺激を与えてくれる強烈な存在がいた。数多くの名曲を世に送り出してきた父の宮川泰(ひろし)さんだ。父が忙しそうに仕事をこなし、口笛を吹きながら作曲する姿にあこがれた。小学校の作文で「お父さんのようになりたい」と書いた。
 だが、長じてからは、父の存在がプレッシャーになったこともある。どうあがいても父は乗り越えられないと思った。顔も声も似ていると言われるのが嫌だった。カラオケで父の曲を歌えと言われるのも嫌だった。「でも、40代に入って観念した。父の大切にしてきたことを踏襲していこう」と。
 父からは、自分の作品は、「アレンジはいいけど、歌心がない」と、いつも酷評されていた。その父が、マツケンサンバの10倍褒めてくれたのが、神野美伽が歌った『手紙』という曲だった。どこか懐かしさを感じさせる《大人の子守歌》を意識して作った。出来上がった曲は、「中学生の時に作った曲に似ている」と感じた。自分でも封印していたメロディーが蘇った感触があった。父に「すごい境地に入ったな。参ったな」と言われたとき、恥ずかしくなるほど嬉しかった。

「ド」と「ファ#」の衝撃
 小4の頃、母に連れられて、映画『ウエストサイドストーリー』を見て、雷に打たれたようなショックを覚えた。何がそんな思いに駆り立てたのかがわかったのは、作曲を始めてからのことだった。
 ジェット団は、「ド」シャーク団は「ファ#」、音楽的にも不協和音が使われていて、対立するグループをうまく表している。音楽の中にストーリーが見えた。このことに気づいたとき、作曲したレナード・バーンスタインの手腕にうなり声をあげた。

 自宅近くに劇団四季の稽古場があった。そこからピアノの音が漏れ聞こえてくるだけでわくわくした。稽古場の前で、ジェット団の合言葉代わりの口笛を吹いてみたこともある。稽古場の中には、レナード・バーンスタインの音楽を、見事に再現している劇団員がいた。いつかは、この劇団の音楽を担当したいと願った。
 夢が現実になるときがやってくる。東京芸大1年のとき、劇団四季から『エビータ』の編曲依頼の電話がかかってきた。2分後には稽古場に駆けつけた。

音楽の聞こえる絵
 作曲のアイデアは、新幹線の車内で浮かぶことが多いという。「多くの人が生活している場所を高速で移動しているから、インスピレーションが湧きやすいのかも」。
 その新幹線の中で、谷内六郎さんの絵を見ていたら、絵の中から音が聞こえてきたことがある。例えば、星空の下、夜汽車が走る風景を描いた絵。星空には、ビールの空き瓶が堂々と描かれている。汽笛の「ぽぉー」という音をビール瓶に託したのだ。例えば、鉄橋をシロフォン、列車の連結部分の幌をアコーディオン、客車の窓をハーモニカに描いたものがある。谷内さんの絵は、音が聞こえる絵だ。
 「音が聞こえないと、絵がかけない」ことがあるように、「絵が見えないと、音が出てこない」ことがあるのではと思った。「僕は絵の見える音楽が作りたい」と思った。

魂に寄り添う音楽
 宮川さんには、中2の長女、小6の次女、小4の長男と3人の子どもがいる。長女はピアノ、次女はバレエに歌、長男は卓球に取り組んでいる。ちなみに、宮川さんの母は、卓球の世界チャンピオンになったこともある。音楽にしろ卓球にしろ、DNAは確実に受け継がれていくものだ。
 宮川さんは、長女が生まれる前に、最初に授かった子を、《SIDS》乳幼児突然死症候群で、わずか生後2ヶ月で亡くした。弔問に訪れた人達と、童謡『ぞうさん』を合唱した。か弱く、か細く、消え入りそうな合唱だった。しかしその時、音楽は、魂を鎮め、魂を開放するものだと思った。歌でしか表現できない気持ちから音楽は生まれる。
 「声高に、粛々と、クールに、それぞれ伝え方にもいろいろあるが、言葉では伝えられない気持ちを伝えるのが歌。肉親を失った悲しみを、歌以外の何で伝えられようか…」当時を振り返って述懐する。
 『シャボン玉』も、子を亡くした野口雨情の気持ちが込められた曲だ。シャボン玉の「たま」は魂の「たま」なのだ。音楽は、時空を超えて、魂に寄り添うことが出来る。『ぞうさん』『シャボン玉』2つの曲は、宮川さんの創作の原典と言える。

■村上信夫プロフィール
NHKチーフアナウンサー
1953年、京都生まれ。
明治学院大学卒業後、
1977年、NHKに入局。
富山、山口、名古屋、東京、大阪に勤務。
現在は、「今日も元気で!わくわくラジオ」(ラジオ第一8:35〜)、
「BS将棋中継」などを担当。
これまで、「おはよう日本」「ニュース7」「育児カレンダー」などを担当。
教育や育児に関する問題に関心を持ち続け、横浜市で父親たちの社会活動グループ
「おやじの腕まくり」を結成。
趣味は、将棋。
著書に「元気のでてくることばたち!」(近代文芸社)
「おやじの腕まくり」(JULA出版局)
「いのちの対話(共著)」(集英社)
「いのちとユーモア(共著)」(集英社)

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■イネ・セイミプロフィール
フルート奏者として活躍中。俳画家。
絵画を幼少より日展画家の(故)川村行雄氏に師事。俳画を華道彩生会家元(故)村松一平氏に師事。俳画の描法をもとに、少女、猫等を独自のやさしいタッチで描いている。個展多数。

* 俳画教室開講中
 ところ:常滑屋
 と き:月1回 第2金曜日 午後1時〜
 会 費:1回 2,500円(4ヶ月分前納制)
 問合せ:0563−32−0583

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