海外の旅この指とまれちょっとおじゃまします元気のでてくることばたち
元気のでてくることばたち 村上信夫NHKアナウンサー

 クラッシックギターの村治佳織さんは、26歳ということが信じられないほど、しっかりと自分の生き方をもっている。迷いのない強い意志を持った人だ。それは、彼女が、ひとたび、弦に触れた瞬間から感じられる。音にためらいがない。思いがストレートに伝わってくる。
 ギターという楽器の魅力は、一言では言い尽くせないほど、たくさんある。自分の体に引き付けて演奏する。指で弦をつまびくだけで音が出る。こまやかな表現が出来る。極限の弱い音、ピアニシモの響きを発することが出来る。「だから、人間の小さな心の動さも描き出せるのではないか」と村治さんは考える。

 まっすくな道

 昭和53年に、東京・下町の柳橋に生まれた。「100年前に生まれていたら、三味線を弾いていたかも」と笑う、少女の頃から、ものおじせず、負けず嫌いの性格で、まっすぐに突さ進むタイプだった。
 2歳のとき、クラシックギターの先生だった父から教わりはじめた。それは、「ハミガキするような日常生活の延長線の感覚」だった。伝統芸能の家のように、ギターを継ぐという感覚だった。つらい、嫌だ、やめたいと思ったことは一度もない。身内は厳しいというが、父は、子どものペースを大切にしてくれた。父の膝の上で、父に手を添えてもらいながら、ギターを教えてもらった。村治さんにとっては、父との嬉しいスキンシップの時間だった。
 小学校の卒業文集で、村治さんは「これから私の人生を左右する大切な時期。ギタリストになって、世界を駆け回るぞ!村治佳織12歳の固い決意である!」と力強く宣言している。その決意通りに、1992年に、2つの大きな国際コンクールで優勝。その翌年、14歳でプロデビューを果たした。その後、各地で開くコンサートは、どこへいっても高い評価を受けた。
 高校3年のとき、女優の吉永小百合さんがライフワークにしている「原爆詩」の朗読に協力を依頼された。吉永さん自らが「命あふれる高校生の音楽を使わせてもらうことで、過去の重いテーマが新しいものになる」と手紙をくれた。少しも大女優という顔をせず、「素」で生きている吉永さんを見て、こんな女性になりたいと思っている。

 ロドリーコさんとの出会い

 彼女を、大さく変えたのは、1997年から2年間のパリ留学。一人になって、いろんなことを考えた。自分はギターを通して何を伝えたいのかと考え続けていた村治さんにとって、自分を見つめ直すいい機会になった。
 ギターの名曲中の名曲「アランフェス協奏曲」の作曲者ロドリーゴさんに会いたいと思った。自分の決断で、スペインまで会いに行った。ロドリーゴさんは、当時97歳。面会の5ケ月後に亡くなった。少しでも決断が遅かったら、対面がかなわないところだった。
 ロドリーゴさんは、赤のネクタイを締め、紺色の背広を着て、グランドピアノの横の椅子に腰樹けていた。「神様と対面しているような20分」だったという。しかし、圧倒的な存在感に押し浸されることもなく、ロドリーゴさんの前で演奏した。失明しているロドリーゴさんは、点字の楽譜を指でなぞりながら聞いてくれた。

 そのとき、ここで弾くのは、人生で1回だけだという思いが、頭の中を駆け回っていた。そして、「自分は自分の感じた演奏をすればいい」と思えた。「すごくたくさんの自分がいる。人間は多面体。変わるというより、もともと自分の中にあるものが、その時々によって顔を出すのだ」とも思った。ロドリーゴさんは、口を開かなかったが、無言のうちに大切な示唆を与えてくれた。
 スペインでは、人生を楽しむ時間の必要性も感じた。散歩と読書は、村治さんの趣味だ。家の近くを、何の目的も持たずに、何も考えずに歩くのが好きだ。
 活字に接していると安らぐ。文章を書くのも好きだ。白い紙に字を書いていくのは、作曲に似ている。よくエッセイを依頼されるが、原稿は手書きだ。
 読書好きは、小さいころからだ。愛読書は、辺見庸さんの『もの食う人びと』。高枚生の頃から何度も読み返している。読んでいると、気持ちが重くなることもあるが、楽しいことだけに目を向けていられない、食べることもままならない人々のことを忘れてはならないと戒められる。生死に直面する人に音楽はカを持つのかという疑問を抱かせられる。答えは、そう簡単には出せそうにもない。

 5年後の自分への手紙を書いてもらった。5年後というのは、近いような遠いような想像しやすいような、しにくいような微妙な期間だ。村治さんは、手書きでこう表現した。
 「これから、また沢山の素敵な出来事があなたに訪れ、今の私にはない何かが付け加えられているのを期待しています!お肌のハリは、今のほうが勝っている?でもそれを悔しがらないで下さい。立派な大人になどなっていなくもいいですよ。変われるものは変わっていて、変わらないものを大事にしてくれていれば、それで充分です。5年後の私に、今の私をかわいい妹分に思ってもらえるよう、今を過ごしていきたいと思います。」

■村上信夫プロフィール
1953年、京都生まれ
明治学院大学卒業後、1977年 、NHK入局。富山・山口・名古屋・東京・大阪に勤務。
2001年6月より東京ラジオセンター勤務。「きょうも元気で!わくわくラジオ」(ラジオ第一8:35〜)担当。
これまで「おはよう日本」「ニュース7」「BS将棋中継」などを担当。
名古屋時代、「お母さんの勉強室」「育児カレンダー」を担当。以来、教育や育児に関する問題に関心を寄せている。
父親たちの社会活動グループ「おやじの腕まくり」を結成。
趣味は、将棋、ピアノ。
「元気のでてくる"ことばたち"」
(近代文芸社)
1,500円(税別)
おなじの腕まくり「おやじの腕まくり」
(JULA出版局)
1,400円(税別)

■イネ・セイミプロフィール
フルート奏者として活躍中。俳画家。
絵画を幼少より日展画家の(故)川村行雄氏に師事。俳画を華道彩生会家元(故)村松一平氏に師事。俳画の描法をもとに、少女、猫等を独自のやさしいタッチで描いている。個展多数。

* 俳画とは
「日本画の一つ、俳味のある酒脱な略筆の淡彩もしくは墨絵で賛などしたものが多い」
(広辞苑)

イネ・セイミ

 堀江実のポエムコンサートをCDでお届けします。

  詩と朗読
  フルート
  ピアノ
  構 成

  Disk1
  Disk2
 堀江実
 イネ・セイミ
 はちまん正人
 佐藤よりこ

 光のように
 花のように

 言霊に癒されるCD堀江実のポエムガーデン
 やさしい風がふいています。
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 あなたの心がやすらぎで満たされますように。
 あなたの心に喜びがあふれますように。

2003年10月22日発売予定 CD2枚組 3,150円(税込み)