海外の旅この指とまれちょっとおじゃまします元気のでてくることばたち
元気のでてくることばたち 村上信夫NHKアナウンサー

 なぜ写すのか なにを写すのか

 写真家の大石芳野さんは、ベトナム、カンボジア、広島、沖縄、コソボなど、戦争の爪痕が消え去らない場所で、常に温かいまなざしを注ぎながら、そこで暮らす人々の写真を撮り続けている。
 その大石さんが、最近足を向けるのは、アフガニスタン。幾多の戦争をくぐり抜けてきたアフガニスタンの人々は、悲しみ、怒り、失望…ひとくくりに出来ないものを持っている。それを伝えたいという思いがある。
 アフガニスタンは、1979年の旧ソビエト軍の侵攻以来、20年以上、戦争の絶え間がない。200万を超えるアフガニスタン人が犠牲になった。爆撃の爪痕だけではない。樹木が伐採されたことにより、水も激減している。次から次に起きる戦いが、樹木を植える暇すら奪ってきた。

 世界に戦争は数多くあるが、9・11の報復が生んだ悲劇に、大石さんは目を離すことが出来なかった。これまで見てきた幾多の戦地の中で、特に女性が虐げられているところだと感じた。タリバン時代に、女性が社会から追いやられた。それが、子どもたちにも影響している。
 子どもも、女性も、老けこんだ表情をしている。未婚の10代の少女なのに、40代の疲れ切った母親のように見える子もいた。彼女たちが、心を開くまでには時間がかかるが、しだいに、奥にしまい込んでいる感情が見え隠れしてくる。た
くさんの眠が、戦争を雄弁に語り始める。「母がロケット弾で死んだ」「空爆で兄弟が殺された」「おもちゃと思ったら地雷だった」といった声を数多く聞いた。
 アフガニスタンの人々は初対面でカメラを向けるとよく笑う。笑顔を意識的に作っているように思える。哀しいときつらいときだからこそ、ちょっとしたことでも大声で笑い合う。笑うことで、自分や他人を元気づけ合っているような気がする。
 社会学者の鶴見和子さんが、大石さんの写真の特徴を、3つに分析している。 「よりリアルに、感動的に、戦争による女性と子どもらとの運命とその魂のありかたを写し出している」
 「自分の眼と被写体になる人の眼と、きっちり向き合って、眼を通して、相手の心のありかたを深く探り当てている」
 大石さんの優しいまなざしが、他の人には聞こえない女性や子どもたちの心の声を引さ出している。
 「同じ場所に何回も立ち戻って、戦争による女性や子ビもたちへの影響を、個人を通してたどっている」
 撮影した一人一人の表情が変化していく様子をきちんと見届けたいという思いが強い。眼に輝さが戻ってくるのを見たさに、危険をも顧みず、何度も紛争地に足を運ぶ。

 真を伝えるまなざし

 まだカメラが普及してないころ、大石さんの家には蛇腹のついたカメラがあった。父のカメラを借りて、遠足などに持っていった。そして、大学進学の時、社会と関わる手段として選んだのがカメラだった。日本大学の写真学科に入る。

 写真家で生さようと決意したのは、学生時代、サイゴンを訪れたときのことだ。日本は高度成長の最中だったが、命懸けの毎日を生きるベトナムの青年達の現実を目の当たりにして、大いにショックを受けた。自分を見つめ、日本を見つめるため、地に足を着けて生きるために、写真を生涯の仕事にしようと思った。
 以来、ベトナムは、20年にわたって撮り続けている。ベトナムの人々の背筋を伸ばし、凛とした生き方には、感心させられることばかりだ。
 アジア各地で撮影していると、日本が透けて見えることが多い。かつて凛として、毅然として生きていた日本人はどこへ行ってしまったのか、海外での撮影の多い大石さんのまなざしは、いつも日本に向けられている。
 写真は、「真を写す」と書くが、必ずしも真を写し出しているといえないものもある。中には、無理に撮って、虚を写してしまっているものもある。大石さんは、自戒も込めながら、「真を写す」ために、いつも被写体と真剣に向き合いたいと考えている。
 写真という動きも音もない一枚の止まった映像から、何が伝えられるのか、いつも自問自答している。しかし、ファインダーの向こうにあるまなざしは、いろんなことを教えてくれる。
 大石さんの写真に共通するものは、「まなざし」。大石さんの写真に登場する人々の「眼」を見ていると、じっと見入ってしまい、視線がそらせなくなる。フレームの中の人々は、怒り、諦め、悲しみ、いろんな感情が混じりあった眼をしている。「眼は口ほどにものを言う」というが、眼は、心の奥にしまい込んである感情が見え隠れする場所なのかもしれない。その眼を見つめていると、あたりまえに暮らせる日々が戻ることを願わずにはいられない。

■村上信夫プロフィール
1953年、京都生まれ
明治学院大学卒業後、1977年 、NHK入局。富山・山口・名古屋・東京・大阪に勤務。
2001年6月より東京ラジオセンター勤務。「きょうも元気で!わくわくラジオ」(ラジオ第一8:35〜)担当。
これまで「おはよう日本」「ニュース7」「BS将棋中継」などを担当。
名古屋時代、「お母さんの勉強室」「育児カレンダー」を担当。以来、教育や育児に関する問題に関心を寄せている。
父親たちの社会活動グループ「おやじの腕まくり」を結成。
趣味は、将棋、ピアノ。
「元気のでてくる"ことばたち"」
(近代文芸社)
1,500円(税別)
おなじの腕まくり「おやじの腕まくり」
(JULA出版局)
1,400円(税別)

■イネ・セイミプロフィール
フルート奏者として活躍中。俳画家。
絵画を幼少より日展画家の(故)川村行雄氏に師事。俳画を華道彩生会家元(故)村松一平氏に師事。俳画の描法をもとに、少女、猫等を独自のやさしいタッチで描いている。個展多数。

* 俳画とは
「日本画の一つ、俳味のある酒脱な略筆の淡彩もしくは墨絵で賛などしたものが多い」
(広辞苑)

イネ・セイミ

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