海外の旅この指とまれちょっとおじゃまします元気のでてくることばたち
元気のでてくることばたち 村上信夫NHKアナウンサー

 煎茶でもてなし

 これほど気さくな人間国宝がいるだろうか。まったく偉ぶったところや、気取ったところがない。「わしは名人ではない。職人じゃ」という。
 愛知県の常滑焼の陶芸家、山田常山さんは、《常滑焼の急須》で、重要無形文化財保持者(いわゆる人間国宝)に認定されている。「よう指定してもらったものと恐れ入っております」
 大正13年生まれの常山さんは、数えで八十の傘寿。先日、それを記念して、急須八十点を中心とした展示会が、東京で催された。展示会への思いを聞くと、「よくも八十まで持ったものじゃと、自分でもびっくりしとるわ」と、気負いのない答えが返ってきた。

村上信夫 山田常山さん
 展示会場では、「ペットボトルばかりになってしもうて、本来のお茶の入れ方や飲み方がわからんようになっては困ると思うて」自分の急須で、煎茶を入れてもてなす。来客との世間話を楽しんでいる。
 お湯を湯冷ましに入れる。茶人れから、最高級の煎茶を茶合ですくう。急須に入れて、お湯を注ぐ。お茶が出るまで5分ほど待つ。この待っている間が心地よい。そして、茶托に乗せた煎茶椀にゆっくりゆっくり注ぐ。ごくごく少量、ひとなめ程度だ。熱くもなく、ぬるくもなく、ほどよい湯加減。お茶の葉の香りが、そのまま口の中に広がる。ほどなく「もう一煎、どうじゃ」と常山さんから声がかかる。

 常山さんの急須

 愛知県の常滑というと、伊勢湾に突き出したカニの手のような二つの半島がある。その手は、渥美半島と知多半島にあたる。地図上では、左手が知多半島。その西岸の中程に位置する。窯業の町として、発展してきた。
 常滑焼の歴史は、古い。瀬戸、備前、丹波などと並ぶ日本六古窯の一つ。釉薬をかけず、焼きしめただけの壷や瓶がおなじみだ。土管やタイル、衛生陶器など、生活に密接するものが、多く作られてきた。そして、鉄分を多く含んだ土から生み出される朱色の急須もおなじみだ。江戸末期から、煎茶道具として重用されてきた。
 朱泥の土は、きめが細かいから、アクや不純物を吸い取ってくれるという。だから、お茶がおいしい。朱泥の徳利は、2級酒を1級酒に変えてしまうほどだと言われる。

 その常滑で、初代常山が祖父、二代常山が父という陶芸家の家に生まれた。長男が後を継ぐのは、自然のなりゆきだった。幼いころ、おもちゃで遊ぶ代わりに、粘土細工をしていた。小学校6年のとき、「日本一の陶工になる」と作文に書いた。
 昭和16年に、愛知県立常滑工業学校窯業科を卒業。昭和33年、第5回日本伝統工芸展で初入選した。以来、急須のみを連続出品してきた。「急須を陶芸ではないという審査員がいたので、意地でも急須を出し続けた」
 昭和36年、父の死去に伴い、三代常山を襲名した。37歳という若さだった。昭和47年、フランスのビエンナーレ国際陶芸展で名誉最高大賞を受ける。その後も受賞経験は、数知れない。

 そして、平成10年、愛知県でも、常滑焼でも、はじめての人間国宝の認定を受ける。《重要無形文化財・常滑焼(急須) の保持者》という認定だった。陶芸の技法を認定するのがほとんどだが、製作している器を特定するのは、きわめて異例のことだ。つまりは、常山さんの急須が「国の宝」と認定されたことになる。「自分の急須が認められただけでなく、常滑焼全体の喜びととらえたい。」

 急須の工程は、実にきめ細かい。急須は、ロクロの技の粋を集めたものと言っていい。ロクロのみで精巧無比のものを作る。
 一個分の土で、ロクロをひく。胴体の厚みを一定に保つのは、手のひらと指のみが頼りだ。わずかの歪みも見逃せない。
 三本の指をつけてロクロを回すから、中指が薬指に寄っている。「右手と左手の中指の間に、見えない電波、センサーのようなものが流れていて、厚みがわかる」 のだそうだ。これぞまさしく職人芸。「命の次に大切なのが手じゃ」
 形のバランス、美しさもさることながら、使い勝手の良さも大切だ。「急須は、飾り物ではない。日常の道具。人の手の脂にまみれ、使われることで味が出る」という。

 いずれ4代を名乗ることになる息子の絵夢さんに言わせると、「おやじは、ふだんは品がないけど、作品には、品がある」という。いつも隣り合わせでロクロをひいているが、互いに作品についても口を出し合う。「僕の意見にも素直に耳を傾けてくれる」
 この話にも、常山さんの人柄が表れている。

 人間国宝になる前も、なった後も、まったく変わりのない姿勢で、ロクロに向かう。生活の糧の道具を生み出す職人魂は失わずにいたいと思っている。
 齢八十のいまも、「わかればわかるほど、難しいことが増えてくる」 「会心といえる作品に出会いたい」と、桔れたそぶりはない。

■村上信夫プロフィール
1953年、京都生まれ
明治学院大学卒業後、1977年 、NHK入局。富山・山口・名古屋・東京・大阪に勤務。
2001年6月より東京ラジオセンター勤務。「きょうも元気で!わくわくラジオ」(ラジオ第一8:35〜)担当。
これまで「おはよう日本」「ニュース7」「BS将棋中継」などを担当。
名古屋時代、「お母さんの勉強室」「育児カレンダー」を担当。以来、教育や育児に関する問題に関心を寄せている。
父親たちの社会活動グループ「おやじの腕まくり」を結成。
趣味は、将棋、ピアノ。
「元気のでてくる"ことばたち"」
(近代文芸社)
1,500円(税別)
おなじの腕まくり「おやじの腕まくり」
(JULA出版局)
1,400円(税別)

■イネ・セイミプロフィール
フルート奏者として活躍中。俳画家。
絵画を幼少より日展画家の(故)川村行雄氏に師事。俳画を華道彩生会家元(故)村松一平氏に師事。俳画の描法をもとに、少女、猫等を独自のやさしいタッチで描いている。個展多数。

* 俳画とは
「日本画の一つ、俳味のある酒脱な略筆の淡彩もしくは墨絵で賛などしたものが多い」
(広辞苑)

イネ・セイミ

 堀江実のポエムコンサートをCDでお届けします。

  詩と朗読
  フルート
  ピアノ
  構 成

  Disk1
  Disk2
 堀江実
 イネ・セイミ
 はちまん正人
 佐藤よりこ

 光のように
 花のように

 言霊に癒されるCD堀江実のポエムガーデン
 やさしい風がふいています。
 木々の梢は光っています。
 あなたの心がやすらぎで満たされますように。
 あなたの心に喜びがあふれますように。

2003年10月22日発売予定 CD2枚組 3,150円(税込み)