海外の旅この指とまれちょっとおじゃまします元気のでてくることばたち

 この4月から、ラジオ第一放送の午前中の番組が新しくなった。『きょうも元気で!わくわくラジオ』は、リスナーの声が行き交う参加感のある番組だ。
 番組が変わったことを印象づけるいちばんの功労者は、テーマソングだ。作曲は、アコーディオンプレーヤーのcobaさんに依頼した。期待通りの音楽が出来上がった。聞いただけで、わくわく弾んでくる。その日一日、元気で過ごせるような気がしてくる。
 cobaさんの音楽は、一日に何回となく耳に入ってくる。テレビ番組のテーマソング、CM・・・アコーディオンが、cobaさんによって大変身近な楽器になった。
 アコーディオンには、のど自慢大会の伴奏音楽というイメージがつきまとった。cobaさんは、それを変えたいという強い思いを持っていた。彼の生み出すおしゃれなサウンドは、見事にその思いをかなえたといえる。
 cobaさんの父は、無類のアコーディオン好きだった。趣味で、よく弾いていた。会社から帰ると真っ先にすることが、押し入れからアコーディオンを引っ張り出すことだった。レパートリーは、古いタンゴ、シャンソン、当時の流行歌・・・正直、子どもの頃のcobaさんは、「うるさいなぁ」と思って聞いていた。
 9歳の誕生日に、父がアコーディオンをプレゼントしてくれた。だが、どうしても自分の趣味を押し付けるのかと、全然嬉しくなかった。箱も空けずにしばらく放っておいた。半年ほどたって、学校の先生に伴奏を依頼され、初めて封を開いた。箱の中からは、熱帯魚の型抜きがしてある青い色のアコーディオンが出て来た。
 そのアコーディオンを胸に抱えて音を出してみた。すると、胸元で子猫を抱き締めたとき、ニャーと鳴いたような感覚を覚えた。心に爪をたてられた。心を揺さぶられた。手軽さばかりが強調されてきたが、表現力がものすごくある楽器だと思った。知らず知らずのうちにアコーディオンにのめり込んでいった。父親の作戦勝ちかも知れない。

 coba、本名は小林靖宏。cobaとは、愛称のコバから名付けた。小文字にしたのも、kをcにしたのも、自分であり自分でないようなニュアンスを出したかったからだ。
 1959(昭和34)年、長野生まれ。3歳のとき、父の転勤で、新潟に行き、小学校では、野球部や生徒会活動に没頭した。「人前で目立つことが好きだった」
 3歳から、ピアノも習っていたが、いやいやだった。楽しくなったのは、小1の父親参観日に、自分の作曲したミュージカルが好評を博したことがきっかけで、早くも才能を自覚したという。
 中2のとき、転校で名古屋に移った。重いアコーディオンを抱えて、地下鉄に乗って教室に通っていた。中3になって、父に、車で送迎してくれと頼んだ。「うまいと思ったら」というので、演奏を聞かせたら、父は、むせび泣いてしまった。「うまくなったなあ」と、初めてほめてくれた。むろん、送迎はOKとなった。
 高1のときから、海外の音楽学校へ手紙を書いて照会していた。そして、1978年、高校卒業後、イタリア留学を決意した。世界の8割のアコーディオンを生産している町、カステルフィダルトから招聘の返事が来たからだ。はじめ反対していた父も、借金までして留学費用を調えてくれた。
 学んだベネチアの音楽院では、教師も生徒も、はっきりものを言う。自分に正直で、人生の手綱をつかんでいると思った。「僕も、人間を突き動かす感情に、正直に生きようと決めた!」自分を表現することの大切さを知ったのだ。

 cobaさんは、次々と、世界的国際的規模のコンクールに挑戦した。あいついで優勝した。音楽院も開校以来の最高得点の首席で卒業した。留学中、一日10時間はアコーディオンの練習をした。アコーディオンの可能性を知れば知るほど、楽しくなる日々だった。
 イタリアに残ることも進められたが、クラシックでもないジャズでもない新しい音楽の創造をしたいと、1981年、帰国。だが、アコーディオンはまだ市民権を得ていなかった。メジャーデビューまでには、10年かかった。
 デビューアルバム≪シチリアの月の下で≫も、最初、反響がなかったが、テレビに出たら大きな反響を呼び、レコード大賞特別賞まで受賞した。アイスランド出身の女性ボーカリスト、ビョークの世界ツアーに参加するなど、順風満帆の活躍。CM音楽、番組テーマの依頼が続々と舞い込んでいる。

 いまの時代に、自分のサウンドのどういうところが受けているのか、cobaさんに自己分析してもらった。「すべてが薄味の時代だからこそ、濃い味が受けているのかな。アコーディオンには、キャラクターの濃さがある。自分も、キャラクターの濃い人間だ。楽器の個性と僕の個性がマッチした。そのへんが受け入れられているのでは・・・」
 cobaさんは、アコーディオンを自己表現手段として、最高のものだと思っている。「いちばん自分が素直になれる。思いのたけをぶつけられる。すべての行動が≪表現≫。好きなこと、やりたいことを表現しまくっている!」

 cobaさんにアコーディオンへの道を開いた父は、定年前に独立して、アコーディオンの輸入販売の仕事を始めた。cobaさんが選んだものを、父が輸入する。「アコーディオンで結ばれた戦友のようなものだ」という。

■村上信夫プロフィール
1953年、京都生まれ
明治学院大学卒業後、1977年 、NHK入局。富山・山口・名古屋・東京・大阪に勤務。
2001年6月より東京ラジオセンター勤務。「きょうも元気で!わくわくラジオ」(ラジオ第一8:35〜)担当。
これまで「おはよう日本」「ニュース7」「BS将棋中継」などを担当。
名古屋時代、「お母さんの勉強室」「育児カレンダー」を担当。以来、教育や育児に関する問題に関心を寄せている。
父親たちの社会活動グループ「おやじの腕まくり」を結成。
趣味は、将棋、ピアノ。
「元気のでてくる"ことばたち"」
(近代文芸社)
1,500円(税別)
「おやじの腕まくり」
(JULA出版局)
1,400円(税別)

■イネ・セイミプロフィール
フルート奏者として活躍中。俳画家。
絵画を幼少より日展画家の(故)川村行雄氏に師事。俳画を華道彩生会家元(故)村松一平氏に師事。俳画の描法をもとに、少女、猫等を独自のやさしいタッチで描いている。個展多数。

* 俳画とは
「日本画の一つ、俳味のある酒脱な略筆の淡彩もしくは墨絵で賛などしたものが多い」
(広辞苑)