海外の旅この指とまれちょっとおじゃまします元気のでてくることばたち
 宝探しの旅 7日目

 6月11日(金)
 「出番!」

 フェスティバルのリハーサルが終わった後は作戦会議だ。全体的な流れはどうだったか、各々の立ち位置などは大丈夫だったか、見栄えはよかったか?彼らの表情は真剣そのものだ。「そうだ、研修委員会の人が見ていてくれたから意見を聞いてみようよ。」チームの1人がこちらを向く。「れいちゃん」と呼んでもらうのはまだ無理か、と思いながらもチームに貢献できることが嬉しくていろいろ感想を述べる。私も、やっと1人1人に目を配り、それぞれの活躍を見守ることが出来るようになっていた。
 翌朝、気をよくしたままの私は「朝の集い」でチームの皆に声をかける。ハイタッチ&おはよう大作戦だ。文字通り「飛び込む」勢いで彼らに接近して行った。それが功を奏したのか、朝食の時間は「れいちゃん一緒に食べよう」とチームの子が誘ってくれた。感激で胸が一杯だ。もちろん味なんて覚えていない。胸にはチームの子が書いてくれた「れいちゃん」の名札がぶら下がっていた。
 研修もいよいよ終盤だ。午前中の研修の冒頭は「タイタニック」のテーマソングが流れ、委員会メンバーのナレーションで幕を開けた。絶対に沈まないといわれたタイタニック号の悲劇と現代社会を重ねる。今年でJCを卒業するメンバーのOさん、Mさんが万感の想いを込めて語ったナレーションは乗船者達の心にしっかりと響いたことだろう。講師の講義に続いて、彼らはそのまま率直な心で、家庭や周囲と自分はこれまでどう関わってきたかを思いだし、それを仲間と分かち合う。私はまたグァムの招聘青年達のそばにいて、舞台で発表している乗船者の話を通訳した。グアムの青年達は育った環境のせいだろうか、思った以上に素直でまっすぐな心を持っている。私のたどたどしい英訳に真剣に耳を傾け、私の一言一言にぼろぼろと涙を流すのだった。彼らの心に触れたひと時だった。
 チームアワーもいよいよ大詰を迎え、練習する彼らの表情にはあせりの色が濃くなってきた。泣いても笑っても今晩がフェスティバルなのだ。時間がなかった。彼らも必死だったが私も必死だった。彼らとこの船で過ごせる時がもう残り僅かだった。私は彼らの「何」になれるだろう?悲壮感にも似た想いはチームのメンバーへの熱い眼差しとなっていた。改めて一人一人を見つめると皆それぞれの姿勢で「とうかい号」と闘っている。持って生まれた勢いでチームを引っ張ろうとしている者、しっかり皆のパイプ役を務めている者、口数は少ないがいつも雑用を買って出る者、いつも笑顔を絶やさない者、とにかくダンスに一生懸命の者、それぞれの存在が愛しく見えてくる。
 私も一生懸命チームの練習のアドバイスに徹した。いよいよフェスティバルである。思い残すことのないような素晴らしいパフォーマンスをして欲しい。心から彼ら一人一人にエールを送る。いくつかのチームの発表のあと、ついにA−3チームの出番がやってきた。彼らから託された何台かのカメラを構え、親のような気持ちで舞台を見上げる。
 彼らの演技は完璧だった。ダンスも、演技も、みんなの表情も、大道具も、小道具も、どれも輝いていた。何かを求めて彷徨っていた若者達が、JCのメンバーととうかい号に出会い、自らを振り返り、協調性を学び、自立していくというストーリーだ。JCメンバーの存在を登場させてくれているのが嬉しい。私は心からの拍手を送っていた。

 宝探しの旅 8日日

 6月12日(士)
 「感動」

 演技を終えた彼らを舞下で迎える。預かったカメラ達が邪魔だ。降りてくる彼らが舞台を終えた安堵感と達成感を私にぶつけてくれたのだった。ある者は握手してくれ、ある者は抱きしめてくれた。舞台には上がれなかったけど、彼らと一つになれた気がした。
 結果、優勝は逃したものの我がA-3チームは明るかった。皆達成感で満たされている。自分達も優勝できるぐらい素晴らしかったけど、優勝したチームも文句なしに素晴らしかったから。そして、我々も素晴らしい団結と協調性を築き上げたけど、優勝したチームにしかなかったものが必ずあっただろうから、皆はそれがちゃんと分かっていたのだと思う。
 さあ、今日が正真正銘の研修最終日だ。委員会一同、打ち上げでアルコールの残った体に鞭打って、感動のフィナーレを演出しなければならない。9日間という凝縮された時間の中で、これまでの自分自身を振り返り、洋上の船という異空間で、新たな自分に出会い、新たな人たちに出会い、これからの自分自身を改めて見つめ直す。こんな体験はめったに出来るものではない。だからこそこの貴重な経験を単なる思い出として終わらせたくない。この船での経験を一生の宝物として心に刻んで欲しい。私達の思いは皆同じだった。
 午前中は脳のしくみと自分自身の脳の可能性を学ぶため、皆でぐにゃっとスプーンを曲げた。人間の脳はまだまだ使ってない部分が多いそうだ。一定の条件の下ではいとも簡単にスプーンを曲げてしまう能力を人は持っているのだということを、まさに身を以って知った。皆、この貴重な経験を刺激として、自分自身の中の無限の可能性を見出していって欲しいと切に願った。
 午後からの研修は、例によって音響担当だ。Y講師は音楽を効果的に使う達人である。私も委員会の研修で音楽の重要性は十分すぎるほど知っていたので、自分の役割の重さを噛み締めていた。ただ今日は相棒がいる。犬猿の仲のYっちである。いや、それほど険悪ではないのだが。何となく「私のこと嫌いでしょ」などと言ってみたくなる相手である。しかし今日はこれからの研修を成功させるためにも、同じ使命を背負って団結しなければならない。講師は、受講者の顔ぶれやその場の雰囲気で判断し、予定されていた曲を容赦なく変更する。研修の効果をより良いものにするためだ。まさにこちらの手際のよさが勝負どころである。皆が緊張と、いつにも増してひどい船の揺れに気が立っている中で、我々2人も狭い音響ルームの中で力を合わせ、揺れにも負けず、時々やって来る委員長の足の臭いにも負けず(!)、講師からの指示に全力で応えたのだった。
 研修はクライマックスを迎えていた。乗船者たちは、沢山の経験と同じ感動を分かち合ったチームの仲間に感謝をし、皆心を一つにしていく。私もチームの皆のところへ行って一緒に感動を分かち合いたかったが、感動の場面を演出するのは音楽だ。音響の任務を全うするしかなかった。と、Yっちが下を向いて涙ぐんでいる。音響ルームの小さな窓から受講生達の顔が見える。その姿に感動しているのだ。場所は違うけどここも感動の舞台の一部だった。曲の合間にどうしてもチームの皆の顔が見たくなった。音響ルームに飛び出し、下のホールで語り合う彼らの姿を見つめた。彼らの姿が美しくて、愛しくて、ただ涙が溢れた。本当に素直で心のきれいな青年達ばかりだった。

 宝探しの旅 9日日

 6月13日(日)
 「宝物」

 昨夜の団長主催さよならパーティーは、私にとって掛け替えのないひと時だった。大勢の乗船者達が、にぎやかに弾けた時間を過ごす中、私はチームの一部の青年達と語り合っていた。「研修どうだった?」と何となく聞いてみたところ、私が思う以上に彼らは自分自身に真剣に向さ合っていた。「自分はいつも一歩引いたところで冷めた姿勢ですべてをやり過ごしてきた。だから今日の最後の研修で僕は感動できなかった。最後の最後で中途半端な悔しい思いをしてしまった。」と胸の内を打ち明けてくれる者。「自分がこんなに消極的で前に出られない性格だということに初めて気づいて、混乱してしまって研修どころではなかった。自分はこの船を楽しめたとは思えない。」と本音を語ってくれる者。
 毎日の 「自分発見シート」で彼らをちゃんと見守っていたつもりだったのに、大人しくて協調性があって素直に見えた彼らにも、こんな心の奥の葛藤があったのだ。もっと早くからそんな彼らの心の支えになってあげられなかった自分が悔しかった。でも、まだ終わっていない。この時間を大切にしなければ。出来る限り最後の最後までサポートしたいと思った。「気づけたことが財産だよ。」自分が与えられる精一杯のエールを彼らに送った。
 その夜、委員長が押入れに眠る委員会ルームで最後の徹夜をした。これまで回収してきたチームの皆の「自分発見シート」に(私からのメッセージを書き込んでいく。一人一人の顔を思い出しながら、一人一人の個性を思い出しながら、彼らの下船後の生活に想いを馳せながら。せっせと書いているのは勿論私だけじゃない。「君はやるやろと思った。」との委員長の言葉をエネルギーに、朝まで書いた。夜が明けてもまだ想いは溢れていた。下船直前ぎりぎりまでかかって書き上げたメッセージは、やっとの思いで彼らの手に渡った。皆からの「ありがとう」の言葉に胸が一杯になった。
 グアムから乗り込んだとき、隙間だらけに感じた船は、今、宝物で溢れていた。いや、船の中は最初から、名古屋で乗り込んだときから宝物で満たされていたのだ。しかし、どんな素晴らしい宝物でも、目を閉じていてはいつまで経っても見つからないし、自分の手を伸ばさなければ絶対に手に入れることは出来ない。私がこの船で見つけた本当の宝物は、心を開き、全力で手を伸ばすことの出来た自分自身だったかもしれない。
 気が付いたら船はすっかり名古屋港に到着していた。あわててデッキに駆け上がる。船の下ではHが満面の笑みで手を振っていた。感極まった私は思わず歓声を上げる。感動の再会だ。少し向こうには出迎えの地元青年会議所のメンバー達が見える。ビールを片手に歩く夫の姿を見つけた。「ありがとう。」心の中で感謝を述べる。
 この船で過ごした9日間は本当に掛け替えのない時間だった。委員長を始め、委員会メンバーの皆には沢山のものを与えてもらった。チームの皆、講師の皆さん、他委員会の皆さん、船の上のすべての人たちの関わりの中で、本当に多くのことを学んだ。この多くの素晴らしい出会いに、この経験を与えてくれたすべての人に心から感謝している。
 チルチルとミチルが冒険から帰った時、探していた「青い鳥」が彼らを待っていた。この「とうかい号」という旅を終えたすべての人たちが、日常の生活に戻った時、そこでどんな素晴らしい「宝物」を手にすることが出来たのだろうか?


【山下麗子プロフィール】
西尾市在住
(社)西尾幡豆青年会議所所属 西尾市役所勤務

好きなもの:面白いこと・わくわくすること・心が和むもの(JC・音楽・旅・フラメンコ・外国語・歌舞伎・着物・茶道 etc)