海外の旅この指とまれちょっとおじゃまします元気のでてくることばたち
宝探しの旅 1日目

6月5日(土)
「船出」

 ついに出航の日が来た。今日からの9日間どんなドラマが待っているのか、この船に乗り込む600人余りの人たちも、同じ期待と不安に胸を膨らませているのだろう。
 この船はグァムに向けて旅立つ。東海4県から400数十名の青年達を乗せ、(社)日本青年会議所東海地区協議会から約200名のJCメンバーを乗せ。
 この船は「とうかい号」という。今年で31回目を迎える研修船であり、30年を超える長い歴史の中で支えられてきた、JCの誇る一大イベントである。
 私はこの(社)日本青年会議所東海地区協議会のとうかい号"研修委員会″委員としてこの船に乗り込むのである。普段は小さな町の小さな青年会議所で活動しているが、今回は4つの県におけるすべての青年会議所が総力を結集したと言って過言でない、格段に規模の大きな事業で活躍するのである。否が応にもテンションは上がり、責任感と不安に胸は潰されそうだ。なにしろ私たちは半年以上も前から今日からの9日間のために相当の努力と時間を費やしてきたのだから。
 一般の乗船者、スタッフとして乗船するJCメンバーを輩出している各地の青年会議所から、沢山の見送りの人たちがやってきている。名古屋港は人の海と化している。見送る人も見送られる人も、今日という特別な日によって異様な熱気に包まれている。
 去年までは私も見送る側の立場だったが今年は違う。黒のTシャツに赤いベスト、その背中には「研修」と大きく書かれている。そして地元の青年会議所が作ってくれたのぼり旗には私の名前が大さく書かれている。
 異様なテンションと名古屋港の暑さでうわの空だった出港式に続き、いよいよ乗船だ。さらに見送る側と見送られる側の熱気が高揚してくる。見送りの激しい声援の中、列をなしてふじ丸に向かう。ふじ丸はあの「踊る大捜査線」の舞台にもなった、全長167・0m、総トン数23、235トンの巨大客船である。これだけの人数と、それと同じ人数分のこのはち切れそうな気持ちをも
次々と飲み込んでゆく。
 乗り込んだメンバー達は、それぞれデッキに上り出港の時を気もそぞろに待っている。出番を待っているのは色とりどりの紙テープ達だ。みんなでキリキリと堅い紙テープの芯を外しながらその瞬間を待っている。
 下で踊っている若い衆が踊り終わったら、いよいよ本日のメインイベントだ。感動の出港シーン。この感動の一幕を演出するのは、そう、色とりどりの紙テープ達。ようやく出番を得たこの小道具達、次から次へと甲板から地上へと弧を描いていく。応援と激励の大歓声の中、瞬く間に船と港は色とりどりの紙テープで繋がっていく。いや、まるで、色とりどりの絨毯で繋がっているかのようだ。私もこの興奮の渦に紛れながら、自分が芯を外した数より格段に少ない紙テープをやっとの思いで港に向かって投げることができた。
 ドラがなる。汽笛が鳴る。いよいよ船が動き出す。繋がっていた絨毯は、徐々に離れていく岸と船の間で一本一本千切れていく。船は思いの外速い速度で岸を離れていく。岸が遠くなっていく。いよいよ船出だ。こちら側から見る景色は初めてだ。これから9日間は乗船者達、私たちだけの心の旅路だ。私たちは途中、どんな宝物をみるけるのだろうか?

宝探しの旅 2日目

6月6日(日)
「使命」

 昨晩の「船長主催パーティー」ではみんな各々ドレスアップして新しい仲間との交流を楽しんだ。交流を促進するとの意図で名刺の交換ゲームが行われた。我々研修委員会は委員長の意向で、乗船者全員に名刺を配ろう!という意気込みで、それぞれ600枚の名刺を用意してきた。しかし、我々に対して一般乗船者の人数は多すぎる。自分の担当するチームの25人だけでもしっかり配ろうと思っていた。しかし、皆料理を求めて彷徨っている。誰が自分のチームの子達なのかわからない。一人と話をすればそのまま10分は話してしまう。時間が無い。かくして膨大な量の名刺達は、膨大に残る運命にあったのだ…。
 船は思ったより揺れるが、大きな船が丸ごと揺れているので思ったより酔わない。しかし船酔い予防のために服用する薬は異様な睡魔に襲われるし、慣れない揺れと船内環境と緊張と疲れで今朝の目覚めは素晴らしくヘビィだった。
 そんなことを言って今日の研修が無くなるわけではない。記念すべき第1日目の研修である。我々研修委員会と、4人の講師の方たちと、一般乗船者たちの初顔合わせでもある大事な幕開けだ。気を抜いては良いものは出来ない。私は、オリエンテーションで、研修を受ける際の注意事項の寸劇のナレーションを担当した。よい子・悪い子・普通の子が望ましい受講態度を説明する寸劇は、美声のナレーションとともに好評を博しつつ滞りなく終了した。さあいよいよ研修の始まりである。
 最初の研修はグループを作ってその中での体験学習である。7〜8人のチーム内でそれぞれの持つ情報カードを元に地図を作成するというものだ。お互いの情報カードは見てはいけないのがルールである。一見他愛の無いルールに思えるがこれが後々重要なカギとなってくる。お互いの情報がわからない中での作業で、自分自身の普段のコミュニケーションが浮き彫りとなる。いわば自分発見である。まだ知り合って日の浅い者同士、情報を出す事をためらう者、相手の情報を聞きだそうと前に出る者、個性は様々だ。
 しかし、ここで個性に関わらず前に出られなかった青年達がいたことに我々は気づいていた。グアムからの招聘青年16名である。日本語を話せるというのが事前情報だったが、ほとんどの青年の話す日本語は片言である。チームが今何をやっているのか、仲間が何を話しているのか、それがわからない。彼らの表情は明らかに孤独感で曇っている。一般乗船者の名かには、通訳しながら一緒になってやっている者もいる、だがそれでは自分自身のコミュニケーションをしっかりと体験できないのだ。このままでは招聘青年達がチームのお荷物になってしまう。すべてを理解できなくていい、せめてこの時間何をやっているのか知っていてほしい。せめてこの時間が苦痛であってほしくない。
 ここへ来て私は使命感に燃え始めた。これまで培ってきた下手クソな英語も役立つときが来たのだ。明日からは招聘青年達に、英訳した研修資料を渡そう!!彼らの9日間の船上の研修という時間を空白にしたくないではないか。9日間の中で研修の占める時間は格段に多いのだ。しかし、「資料英訳します!」大見得を切ったものの、訳すべき資料が50項目にわたるエゴグラム(性格診断用質問)であったことを一瞬後悔した。まず辞書がない。委員会メンバーのパソコンの辞書を借りる。今晩は何時まででもやる覚悟だ。

宝探しの旅 3日目

6月7日(月)
「友情」

 「エゴグラム」の英訳は思いの外ヘビィだった。性格を診断するための質問なので言い回し・慣用句等の知識がかなり要する。しかし、ここで特筆すべきは私の心の友、委員会メンバーのHの存在である。最初はパソコンを借りるだけのつもりだったのだが何と英文の入力をやってくれると言う。冗談で「手伝って」と言ってしまったのだが、彼は翌日の午後、研修委員会が担当する研修でコーチを務めるのだ。彼にとっては非常に大切な日である。この日の研修のために我々は何ヶ月も前から準備や練習を重ねてきたのだ。彼もどれだけの時間を費やしてコーチの練習をしてきただ知れない。そんな大切な日の前日に夜なべをさせるわけにはいかなかった。それなのに、Hは「僕は割と踏ん張りが効くから」と言って、快く、本当に快く助けてくれた。この日私達は、押入れに委員長が眠る委員会ルームで、50項目に及ぶエゴグラムを、夜を徹して完成させたのだ。船の外の景色が明るくなってきた時、英訳もほぼ完成の様相を呈した。篤い友情に胸が熱くなる。
 そのおかげで翌日の午前の研修では、招聘青年達も自分の性格や、抱えているストレスの有無などのチェックに参加できた。「見て!私はストレス無いわ!」と自身のエゴグラムから作成したグラフを見せ合う彼らの顔が明るい。私の心も明るくなる。しかし、これで終わったわけではない。まだまだ「論語」とか「脳のしくみ」とかが控えているのだ!
 今日の昼食はデッキランチだ。しかし研修委員会メンバーは誰一人として浮き浮きとデッキに向かう者がない。それもそのはずである。今から2時間後に我々が何ヶ月も前から全力を傾けて準備してきた「思いやり〜公共心とは〜」の研修が始まるのだ。コーチ役をやるのは4人。一般乗船者を4つの会場に分け、我々研修委員会がそれぞれの会場に分かれ研修を行う。コーチの役割はとても比重が大きいが、タイムキーパーやパワーポイント、音響の担う役割もそれぞれ無くてはならない。みんな緊張している。
 研修の内容はとても単純だ。乗船者達に、普段感謝しているものを全て書き出してもらい、その中に書いてあるものを確認していく。自分が書いたもの・書かなかったものを順番に確認していく毎に、自分は普段ごく当たり前の存在だと思っていたものに、いかに助けられ、自分はどれだけ恵まれた存在か、ということに気づいていくプログラムである。
 私はこの研修の枠の選曲と、研修チームの音響・ナレーションを担当した。選曲には私自身の思い入れがかなり込められている。音楽の心理的作用には確かな力があると思う。同じ場面でも違う選曲が流れれば、まるで違う受け止められ方をするだろう。つい自分よがりに生きてしまいがちな若者達が、謙虚に、素直に、感謝の念を思い出していく、その大切な一つ一つの場面を如何に演出するか、一曲一曲想いを込めて選んだ珠玉の名曲達だ。
 会場内の一人一人の心に、私達の想いが、コーチの言葉が、私の声が、私の選んだ音楽達が響いてくれたことを願いつつ、私達が全力を傾けて来たこの2時間のプログラムは終了した。他の3会場でもそれぞれの達成感を味わったことだろう。Hはうまくコーチが出来ただろうか?私達は違う会場で研修を行ったのだ。Hの姿を見つけた。顔が明るい。「みんな泣いてくれた。見せたかったよ。」誇らしげに胸を張って言った。私も君の勇姿が見たかった。でも成功して良かった。その表情を見るだけで私は嬉しかった。


【山下麗子プロフィール】
西尾市在住
(社)西尾幡豆青年会議所所属 西尾市役所勤務

好きなもの:面白いもの 心が和むもの わくわくするもの
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