海外の旅この指とまれちょっとおじゃまします元気のでてくることばたち
 谷川徹三が問題にした「文化的無地盤性」について少し詳しく説明します。 前号で「日本軍国主義に抗しつつ文化的無地盤性克服に努力した谷川徹三」と書きました。しかし谷川徹三自身は「日本軍国主義」という表現はしていません。それは日本軍国主義を政治的批判でなく、哲学の中味、学問の中味で批判したということです。
 当時、「和魂洋才」の語が広く流布していました。「心はわが国固有の精神で、生産は西洋の技術で」というものです。谷川徹三はこの考え方は竹に木を接ぐようなもので西洋文明を正しく受容することはできないと批判しました。
 「文化的無地盤性」とはこの事をいうのです。西洋の機械文明・技術文明は人びとの必要において生み出されてきたものです。この必要性を理解せずに生産力や技術能力にのみ着目して輸入し応用すればそれは間違った方向に暴走することになると批判したのです。
 「文化的無地盤性」の『文化』とは西洋文明を指し、『無地盤性』とは地盤を失った状態を指します。日本では西洋文明がそれを育んだ地盤から引き離され勝手に使用されているというのです。だからこれを克服して正しく使用しないと暴走することになるだろう。育まれた地盤から切り離されればひとり歩きをせざるをえず暴走は避けられない。そして現に暴走は始まっている。儲け主義が蔓延し日本国民が作り上げてきた道徳が破壊されていると言います。
 では、西洋文明(特に機械文明)を育んだ地盤とは何か。それは人びとを労働の苦痛から解放させるという思想だと谷川徹三は言っています。機械の文明・発見は機械にできることは機械で行い、人間を肉体的酷使から解放させ自由と豊さを享受できるようにさせるヒューマニズム思想からなされたと言います。この西洋文明の背景には、人間に対する尊厳の思想の発展があり、ヒューマニズムや平和思想の前進、市民が主人公の国家理論の上から生み出されてきたと言えます。
 この事を理解せずに西洋文明を勝手に使用すれば、西洋文明は儲けの手段にされ人間の労働からの苦痛の解放には役立たず、むしろ余計に苦痛を人間にもたらすことになるだろう。谷川徹三はここまで断言していませんがこの理解に間違いはないと私は思います。戦後、谷川徹三は「特攻隊」について、「日本は特攻隊を創設し若者を肉弾として飛ばしたがアメリカは特攻に対して特攻でという発想はせず、弾幕を張って特攻攻撃を阻止しました。アメリカは機械にできることは徹底的に機械にやらせ、日本は機械の及ばないことを人間にやらせた。」と述べました。多分この事は文化的無地盤性のなれの果てと言いたかったように思います。
 西洋は「必要」において機械文明を発展させました。その必要は、労働における人間の苦痛からの解放という必要でした。人間尊重とヒューマニズムに基づく必要でした。
 日本も「必要」においてこの西洋文明を輸入しましたが、しかしその必要は人間の解放ということを理解しない儲け主義の必要でした。その結果、特攻隊にまでいってしまったのでした。
 どうしたらこの文化的無地盤性を克服することができるのでしょうか。西洋文明の文化的地盤を深く学ぶと同時に、日本の文化を深く知って、日本の文化的地盤の上に開花させることができれば可能だと。谷川徹三は自由になった戦後、このことを問題にしました。

久田健吉(哲学研究者) プロフィール

1942年(昭和17年)生まれ。
66年愛知教育大学哲学教室卒業。
72年名古屋大学大学院文学研究科哲学研究教室修士課程修了。
74年大同高等学校(教諭)就職。2002年同校退職。
知多市や東海市の市民大学で講師を務める。
著書「私立工業高校復権宣言」(高校出版)。
中日新聞『ともしび』欄に「聖人の思想」を4回にわたって連載。
美浜町在住。